初版発行日 1987年2月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
九州の秘境、由布院と阿蘇高原を舞台に展開する連続殺人。十津川を翻弄する不可能犯罪とは?
あらすじ
警視庁に「火の国」で殺人が起こると投書してきた井上正則が殺害された。彼の予告通りに九州を走る「火の山4号」で中西浩司が刺殺される。井上と中西を結ぶ線上に疑惑の人物、神保ユキが浮かぶが、彼女には鉄壁のアリバイがあった。
小説の目次
- 火の国の殺意
- 火の山3号
- 隣席の女
- 由布院
- 休暇の死
- 車掌
- 解明への旅
- 追跡
- アリバイの壁
- 対話
冒頭の文
東京警視庁捜査一課長の本多は、五十歳の誕生日を迎えたばかりである。
小説に登場した舞台
- 熊本駅(熊本県熊本市)
- 急行「火の山3号」
- 肥後大津駅(熊本県・大津町)
- 立野駅(熊本・南阿蘇村)
- 阿蘇駅(熊本県阿蘇市)
- 波野駅(熊本県阿蘇市)
- 豊後竹田駅(大分県竹田市)
- 大分駅(大分県大分市)
- 急行「由布6号」
- 由布院駅(大分県由布市)
- 由布院温泉(大分県由布市)
- 小倉駅(福岡県北九州市小倉北区)
- 快速「あさぎり」
- 夜明駅(大分県日田市)
- 三鷹駅(東京都三鷹市)
- 晴海埠頭(東京都中央区)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 阿蘇くまもと空港(熊本県・益城町)
- 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
- 博多駅(福岡県福岡市博多区)
- 特急「にちりん11号」
- 東京駅(東京都千代田区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋中村区)
- 寝台特急「はやぶさ」
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
熊本県警の警部。 - 佐伯:
大分県警の警部。 - 岡林:
福岡県警の警部。 - 森本:
警視庁初動捜査班の警部。
事件関係者
- 井上正則:
30歳。大手町に本書のある中央電気の係長。世田谷区成城のマンションに在住。天草生まれ熊本育ち。自宅で刺殺死体となって発見された。 - 土屋:
雑誌「旅と人生」の出版社の記者。明大前のマンションに在住。 - 神保ユキ:
女優。劇団「カメラード」の主宰者。世田谷区経堂のマンションに在住。 - 中西浩司:
46歳。新宿に貸しビル会社「中西興業」の社長。田園調布の豪邸に在住。急行「火の山4号」で死体となって発見された。 - 青山努:
26歳。急行「火の山3号」の車掌。晴海埠頭で死体となって発見された。 - 石川道雄:
自称芸能マネージャー。詐欺師。杉並区のマンションに在住。由布院の旅館で死体となって発見された。 - 若杉祐太郎:
69歳。九州の興行会の有力者。 - 広田敬一郎:
73歳。元代議士。福岡の有力者。 - 羽田信雄:
35歳。由布院の元タクシー運転手。現在は世田谷区代田の「さくら運送」のトラック運転手。
その他の登場人物
- 石坂信夫:
トラベルコンサルタント。十津川警部の大学の後輩。 - 山下:
50歳。急行「火の山4号」の車掌。 - 岩本:
26歳。国鉄職員。青山努の同僚。 - 木島:
国鉄職員。青山努の上司。 - 田島:
雑誌「旅と人生」の出版社の編集者。 - みち子:
石川の恋人。 - 八木:
中西興業の副社長。 - 松野:
中西興業の秘書。 - 中川誠:
40歳。芸能記者。 - 藤本亜矢子:
演歌歌手。石川道雄に金を持ち逃げされたことがある。 - 根岸美雄:
作曲家。 - 花田:
「カメラード」の演出家。 - 須田まゆみ:
N大学に通う女子大生。 - 小坂井浩子:
N大学に通う女子大生。 - 原田邦夫:
中央電気の人事課長。 - 杉本:
中央電気の社員。井上正則の部下。 - 小池:
30歳。中央電機の社員。井上正則の大学時代の同級生。
印象に残った名言、名表現
■豊肥本線から見える阿蘇の景色。
窓を開けて、前方に眼をやると、特徴のある阿蘇の山脈が、ぐいぐい、迫ってくる。巨大なお椀を、いくつも伏せたような外輪山である。阿蘇は、昔、大爆発をしたとき、半分の高さになってしまったともいうから、それが、本当なら、日本アルプスのような山脈だったのかも知れない。
感想
本作は、阿蘇と由布院を舞台にした作品であった。
まず、トラベルミステリーとして秀逸である。熊本から阿蘇を抜けて大分へ向かう特急「火の山号」から見える景色が旅情たっぷりに描かれている。また、九州随一の人気温泉街・由布院も登場する。
十津川警部シリーズでは、九州が舞台になる割合があまり高くないので、本作は貴重な作品の一つだと思う。また、列車トリックも西村京太郎先生ならではの着想だった。
旅情と列車トリック。
本作は、十津川警部シリーズ、王道のトラベルミステリー作品といえる。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
二十代の頃、九州周遊旅行をしたことがある。その時は、山なみハイウェイを車で阿蘇へ向った。そして、今度、小説を書くために、鉄道で阿蘇を旅することになった。その瞬間、二十何年間かの空白が急に消えて、昔の旅の記憶がよみがえった。旅はしておくものである。多少、危険であってもー。
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