初版発行日 2004年8月30日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
同人仲間の容疑を晴らそうとした、友情に厚い片山がなぜ殺されたのか?北陸の小京都で十津川が知る悲痛な真実は!?
あらすじ
<刑事がホステスと無理心中!?>死体で発見された部下・片山の無実を信じ、十津川警部は彼の故郷・若狭小浜に飛んだ。兄の死を予感していたという片山の妹みどりの家には空き巣が潜入。狙いは、遺品の日記と手紙だった。高校時代の同人誌仲間四人とのことを記したものがなぜ?そして十津川は、一年前のお水送り神事の夜に起きた市議殺しを、片山が極秘調査していたことを知る。
小説の目次
- 若狭小浜
- 高校時代の故郷
- 新聞記事
- 遺言
- 私立探偵
- 相関図
- 小浜を去る日
冒頭の文
現場は、凄惨を極めていた。
小説に登場した舞台
- 米原駅(滋賀県米原市)
- 敦賀駅(福井県敦賀市)
- 小浜駅(福井県小浜市)
- 小浜港(福井県小浜市)
- いづみ町商店街(福井県小浜市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。中野の有料駐車場に停まっていた車の中で刺殺死体となって発見された。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 松本:
福井県警の警部。 - 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。
事件関係者
- 広瀬ゆかり:
六本木のクラブのホステス。中野駅近くのマンションに在住。自宅で刺殺死体となって発見された。 - 片山みどり:
片山刑事の妹。小浜在住。 - 木村雄介:
片山刑事の高校時代の同級生。片山と一緒に同人誌を出していた。小浜駅前の商店街にある佐伯文具店の娘。 - 佐伯香織:
片山刑事の高校時代の同級生。片山と一緒に同人誌を出していた。小浜港にある水産物の土産物店を営む。 - 三浦信行:
片山刑事の高校時代の同級生。片山と一緒に同人誌を出していた。 - 黒田大輔:
片山刑事の高校時代の同級生。片山と一緒に同人誌を出していた。水谷精一郎の甥。 - 荒木豊:
佐伯香織の元夫。水谷精一郎の秘書をしていた。 - 水谷精一郎:
当時56歳。小浜市の市議議員。去年3月に行われたお水送りの神事で死体となって発見された。 - 中西進:
40歳。神田に事務所をかまえる私立探偵。片山刑事のことを調べていた。 - 益田善行:
65歳。益田水産の社長。小浜市の水産業界のドン。 - 笠原謙三:
小浜にある笠原興業の社長。
印象に残った名言、名表現
(1)北陸の春。
ようやく、北国の小浜も、春めいてきて、市内のところどころで、梅が、開花し始めていた。
今日も、風がなく、穏やかな、春の日差しが、小浜の港全体に降り注いでいた。
(2)小浜の街が好きになった十津川警部。
「ここに来ているうちに、だんだんと、この小浜の街が、好きになっていくんだ。そして、こんな穏やかで静かな街が、自分の故郷だったら、よかったのに、そう思うようになっている」
感想
本作は、良作だったと思う。
タイトル通り、「故郷」がテーマになっており、故郷の舞台を小浜にしたところも良かった。東京での殺人事件が発端となったものの、捜査のほぼ全編が小浜で行われ、登場人物もほとんどが小浜の人間だった。
小浜という街の穏やかさ美しさも旅情たっぷりに描かれており、自分もこの小浜に行ってみたいと思えるほどだった。故郷の哀愁と旅情が絶妙なバランスだったと思う。
事件の真相については、とても悲しいものだったが、逆に納得感があった。
真相については、ここで明かすことはできないが、十津川警部が話した次の言葉が、本質をついている。
「彼にとって、君たちとの友情は、高校を出た時の、ままだったんだ。」
「片山にとって、二十五歳になった今でも、香織は、昔のままの、美しいマドンナだったんだと思う。空白の七、八年の間に、君たちが、大人になり、そして、友情も、変化するということに、片山は気付かなったんだ。なぜなら、片山一人だけが、その七、八年を、君たちと一緒に生きていなかったからね」
高校時代ともに過ごした仲間。上京して仲間と離れる者もいれば、故郷に残って仲間が続いてく者もいる。故郷に残った者と故郷を離れた者の間では、当然、空白ができ変化が起こる。故郷を離れた者は、その変化に気が付かない。昔のままの故郷と仲間である、そうあってほしいという思いがある。
このすれ違いが起こした悲しい事件であった。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
誰にとっても、故郷は忘れ難い。故郷を遠く離れて生きる人間ほど、故郷は、なつかしく、胸に迫ってくるといわれる。しかし、故郷とは、いったい何だろう。若い時、働くために故郷を離れて、大都会に出たが、年老いると、故郷に帰って行く人が多い。そう考えれば、故郷は生まれ、そして死ぬ場所かも知れない。その一方、故郷を追われた人もいる。故郷は、大都会ほど、寛容ではないということだろう。故郷は、優しいと同時に、厳しい。温かいと同時に、時には、人を裏切る。そんな故郷が、私は好きだ。
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