初版発行日 1983年6月10日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
遺品をめぐる暗闘が!宮崎へとひた走るブルートレイン車内で次々と起る奇怪な事件。
あらすじ
網走刑務所を出所した橋本豊は、所内で死亡した宇野晋平の遺品を届けるため、東京の小田切正を尋ねた。が、その住所には小田切の贋物が待ち構えていたのだ。やがて、本人を名のる男から寝台特急「富士」の車内で会いたいとの連絡が入る。宮崎に向う列車内で奇怪な事件が次々と起こり、橋本と恋人の亜木子は、謎の遺品をめぐる暗闘に巻き込まれる……。
小説の目次
- 狙われた遺品
- 消えた乗客
- 追跡
- 五年前の事件
- 切り取られたページ
- 旅の終わり
冒頭の文
橋本豊と、一年ぶりに名前で呼ばれた。
小説に登場した舞台
- 網走刑務所(北海道網走市)
- 網走駅(北海道網走市)
- 特急「オホーツク号」
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 寝台特急「富士」
- 横浜駅(神奈川県横浜市西区)
- 熱海駅(静岡県熱海市)
- 沼津駅(静岡県沼津市)
- 浜松駅(静岡県浜松市中区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 柳井駅(山口県柳井市)
- 防府駅(山口県防府市)
- 下関駅(山口県下関市)
- 宇佐駅(大分県宇佐市)
- 別府駅(大分県別府市)
- 大分駅(大分県大分市)
- 北川駅(宮崎県延岡市)
- 宮崎駅(宮崎県宮崎市)
- 青島(宮崎県宮崎市)
- 鵜戸神宮(宮崎県日南市)
- 堀切峠(宮崎県宮崎市)
- みやざき臨海公園(宮崎県宮崎市)
- 御崎神社(宮崎県串間市)
- 都井岬(宮崎県串間市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
警察関係者
- 五井:
宮崎県警捜査一課の刑事。 - 三輪清:
宮崎県警の捜査一課長。 - 石原:
宮崎県警の本部長。
事件関係者
- 橋本豊:
元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。1年間の服役を経て、網走刑務所を出所した。網走刑務所で死亡した宇野晋平の遺品を小田切正に届けることに。 - 青木亜木子:
雑誌記者。2年前、橋本豊が逮捕された事件で橋本の味方になった女性。 - 宇野晋平:
60歳。橋本豊と同じ房にいた受刑者。5年前、2億5千万円の現金強奪で逮捕された。網走刑務所の病室で死亡した。 - 小田切正:
宇野晋平の友人。新宿左門町のマンションに在住。 - 小林博之:
32歳。詐欺の前科あり。5年前、宇野晋平と一緒に現金強奪をした。下り特急「富士」で死体となって発見された。 - 戸田きみ子:
小田切正の恋人。青島近くの海岸で死体となって発見された。 - 川西勇:
30歳。前科あり。5年前、宇野晋平と一緒に現金強奪をした。鵜戸神宮で死体となって発見された。 - 藤本五郎:
5年前、宇野晋平と一緒に現金強奪をした男。 - 柏木悠:
27歳。5年前、宇野晋平と一緒に現金強奪をした男。
その他の登場人物
- 奥田チエ:
21歳。大学生。男から頼まれて寝台特急「富士」に乗っていた女。 - 松井:
寝台特急「富士」の車掌長。 - 井上:
寝台特急「富士」の専務車掌。 - 中井:
日南K病院の医師。
感想
十津川警部シリーズで、最もドラマティックな人生を送っており、随一の名物キャラクターと言っても過言ではない私立探偵の橋本豊。
彼がなぜ、警視庁捜査一課の刑事をやめたのか?その時に何があったのか?それを描いたのが1981年に刊行された「北帰行殺人事件」である。この作品は、個人的には、十津川警部シリーズの最高傑作に推す名作である。
本作「下り特急「富士」殺人事件」は、「北帰行殺人事件」の続きを描いた作品。逮捕起訴され、服役が終わった後の橋本豊を描いている。そのため、本作は「北帰行殺人事件」を読んだ後に読むと、この作品の背景がわかるし、登場人物たちの背景もより深く理解できる。
そして、本作の主人公は実質的に橋本豊であり、ヒロインは青木亜木子だった。青木亜木子も「北帰行殺人事件」で橋本豊の味方になった女性であり、この作品においても、重要なキャラクターであった。
本作については、網走刑務所から橋本豊が出所するところからスタートし、最終的には宮崎県で事件が終わる。北海道の哀愁ただよう景色と、宮崎県の明るい南国のキラキラした雰囲気の対比が実におもしろい。
作品もスラスラと読みやすく、物語の世界観に没入しやすい。
繰り返しになるが、本作は「北帰行殺人事件」とセットで読むべき作品である。
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