初版発行日 1999年7月20日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
物事や出来事にたいし、最初から色眼鏡をかけてみてしまうと、本質とはまったくかけ離れた理解をしてしまう。そのことを痛感した本作!
あらすじ
東海道新幹線の車内で時限爆弾が炸裂し、乗客の小柳夫妻が即死した。犯行は明らかに彼らを狙ったものだった。その直後、「犯行を指示するビデオがある」との通報に、十津川警部は色めきだった。ところが容疑者すべてに完璧なアリバイがあり、第二第三の殺人が発生。やがて、小柳が関わる十年前の事件が明るみに出るや、捜査は意外な展開に!
小説の目次
- ビデオテープ
- 三田商会
- 新しい展開
- ひかり121号の再現
- 早すぎたダイイング・メッセージ
- 終局への道
- 最後の罠
小説に登場した舞台
- 新大阪駅(大阪市淀川区)
- 十三(大阪市淀川区)
- 奥多摩(東京都・奥多摩町)
- 貴船神社(京都市左京区)
- 関西国際空港(大阪府泉佐野市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 若林刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 井上匡:
郵便配達員。三田商会から白石透宛に送られたビデオをダビングしてしまう。 - 白石透:
フリーター。 - 小柳直記:
50歳。品川区の戸越銀座で手打ちうどん店「楽進」を営む。新幹線ひかり爆破事件で死亡する。 - 小柳玲子:
43歳。小柳直記の妻。新幹線ひかり爆破事件で死亡する。 - 岡島多加志:
23歳。井上の高校時代の同級生。四谷で両親のパン屋を手伝っている。 - 脇田三郎:
35歳。三田商会の社長。 - 坂本ひろみ:
38歳。新宿歌舞伎町のクラブ「ムーンライト」のママ。 - 小笠原欽也:
40歳。政治家・香取英太郎の秘書。香取英太郎の後釜として政治家を狙っている。 - 水野努:
元K組の構成員。傷害の前科あり。警備会社「水野警備保障」を経営していたが、倒産させている。 - 秋山アキ:
水野警備保障に勤めていた女性。
その他の登場人物
- 岡島文子:
岡島多加志の母親。 - 川口:
大阪府警生活保安課の警部。 - 小暮:
大企業の課長。坂本ひろみの常連客。 - 青木:
中堅タレント。坂本ひろみの常連客。 - 仁村健治:
10年前、脇田三郎とともに「三星商会」を経営していた。 - 森恒彦:
10年前、脇田三郎とともに「三星商会」を経営していた。 - 服部:
なにわ経済社の記者。 - 青田:
60歳。バッジのコレクター。 - 竹山:
月島にあるR倉庫の社員。
印象に残った名言、名表現
(1)あえて静寂さを際立たせる。「何かが起きる」ことを予見させる秀逸な表現。
「その日は、朝から、寒かった。今秋になって、一番の寒さだという。急に秋が深くなった感じだった」
(2)郵便配達員・井上のイタズラについて、読者の気持ちを代弁する十津川と亀井の発言。
「と、すると、井上という青年の悪戯心は、われわれにとって、幸運だったわけですね」
「しかし、井上が、ビデオをダビングするようなことをしなければ、彼の友人の岡島も、殺されずにすんでいたんだ。その点で、井上の行為は、許せない」
総評
本作は、十津川警部シリーズ史上、もっともモヤモヤが長かった事件の一つである。このモヤッとした気持ちを的確にあらわしたことばを追っていく。
まず、捜査会議で三上本部長が放った一言。ここに本件の印象が凝縮されている。
「奇妙な事件だな。犯人も、殺しの方法もわかっているのに、逮捕できないとはね。」
最初から犯人もわかっている。どうやって殺したのかもわかっている。それでも、証拠がないから逮捕できない。そのもどかしさが続いていくのである。
次に、本作の中盤で、思わぬできごとがおき、捜査は暗礁に乗り上げた。その時の様子がこれだ。
「捜査そのものも、壁にぶつかってしまった」
「最初は、簡単に見えた事件だった。十年目の復讐。その一言で、説明できる事件に思えたのである。十津川たちも、その線で、捜査を進めていた。だが、捜査が、進展しない。」
「どうも、はっきりしないな。靴の上から足を掻くというやつだ」
十津川警部に感情移入している筆者は、同じようにまどろっこしい気持ちになった。
しかし、ここからが十津川警部の腕の見せ所である。粘りの捜査で突破口になるものを見つける。捜査会議で三上本部長に次のように報告する。
「今回の事件を、別の視点で、見る必要が、出来たと思っています」
今までまったくお門違いの捜査をしてきたが、違ったアプローチが必要だという結論に至る。しかし、まだまだ事件の核となるものがみえてこない。
それでも、十津川警部たちはあきらめない。これまで見えていなかった新たな視点で、もう一度捜査することで、事件の全体像が明らかになり始める。
「少しずつ、事件の本質が、見えてきたような気がした。」
まったく意味不明だった事件に一筋の光が差し込み、ここから怒涛の終盤が始まる。
「事態が、動き出していると、十津川は、感じた。まだ、どう動いているのか、わからなかったが、見えないところで、今回の事件が、終局に向かって、動いているのだ。」
終盤に近づくまで霧がかったような状態が続き、最後の最後で一気に霧が晴れ、本当の姿が明らかになる。スカッとする。スカッと十津川。
本作のモヤモヤ→スカッとをぜひ体感してほしい。
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