初版発行日 2003年2月28日
発行出版社 徳間書店
スタイル 短編集
あらすじ
1.友の消えた熱海温泉
十津川が訪れた熱海はヒガンザクラが満開だった。高校時代の友人で画家の本山に誘われ、休暇をとって訪ねてきたのだ。ところが滞在しているはずの旅館に本山はいない。休暇は一日だけ。翌日になっても本山は帰らず、後ろ髪を引かれる思いで東京に戻った十津川を待っていたのは、別居中の本山の妻・由美が殺されたという知らせだった!本山が犯人なのか?なぜわざわざ十津川を呼び出したのか?友はどこに消えたのか?苦悩する十津川。謎を追って十津川は再び熱海へ向かう。
2.河津七滝に消えた女
短編集「伊豆・河津七滝に消えた女」に収録。下記を参照↓↓
3.神話の国の殺人
夫婦で九州周遊旅行に出かけている十津川の親友、岡部功が妻・ひろみの殺人容疑で逮捕された。本人は否認している。大学時代の友人で弁護士の小沼、大洋商事大阪支店の営業部長・中田が岡部功のもとを訪れ、真犯人探しをする。一方、世田谷で発生したホステス殺害事件を捜査していた十津川に、ある一つの仮説が思い浮かび……。
4.信濃の死
亀井は2日間の休暇をとり、野沢温泉へ骨休みにでかけた。現地でモデル、マネージャー、モデルクラブの社長と知り合う。亀井が帰京後、野沢温泉で知り合ったモデルの殺害事件が発生。社長も行方不明になったことが判明する。社長の容疑が濃厚だったが、事件は意外な展開を迎える!
小説に登場した舞台
1.友の消えた熱海温泉
- 熱海駅(静岡県熱海市)
- 逢初橋(静岡県熱海市)
- 伊豆山神社(静岡県熱海市)
- 熱海サンビーチ(静岡県熱海市)
- 熱海梅園(静岡県熱海市)
2.河津七滝に消えた女
短編集「伊豆・河津七滝に消えた女」に収録。下記を参照↓↓
3.神話の国の殺人
- 大阪(大阪府大阪市)
- 高千穂駅(宮崎県・高千穂町)※現在は廃駅
- 高千穂警察署(宮崎県・高千穂町)
- 天の岩戸(宮崎県・高千穂町)
4.信濃の死
- 長野駅(長野県長野市)
- 戸狩野沢温泉駅(長野県飯山市)
- 野沢温泉(長野県・野沢温泉村)
- 飯山駅(長野県飯山市)
- 健命寺(長野県・野沢温泉村)
登場人物
1.友の消えた熱海温泉
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 本山仁:
40歳。新進の画家。十津川の高校時代の友人。 - 万利香:
熱海の芸者。 - 藤原由美:
本山仁の妻。世田谷区の成城に在住。 - 佐々木かおり:
32歳。熱海の喫茶店の店主。 - 中西健一郎:
R建設の取締役。 - 中西みゆき:
中西健一郎の娘。
2.河津七滝に消えた女
短編集「伊豆・河津七滝に消えた女」に収録。下記を参照↓↓
3.神話の国の殺人
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 岡部功:
十津川の大学時代からの友人。妻殺害容疑で逮捕される。 - 岡部ひろみ:
岡部功の妻。高千穂の天の岩戸で何者かに殺害される。 - 原田:
高千穂署の刑事。 - 小沼:
弁護士。十津川や岡部功の大学事務所のクラスメート。 - 中田信夫:
大洋商事大阪支店の営業部長。十津川や岡部功の大学事務所のクラスメート。 - 沢木:
歯科医。 - 高見まり子:
銀座のクラブ「ゆめ」のホステス。 - 大竹:
大洋商事大阪支店の支店長。
4.信濃の死
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 武田勇:
モデルクラブの社長。 - 青木徹:
29歳。モデルクラブのマネージャー。 - 松浦ゆかり:
人気モデル。 - 小堀美奈子:
モデルクラブの副社長。30歳。元モデル。 - 麻里あけみ:
モデルクラブに所属するモデル。20歳。 - 戸田:
長野県警の警部。
印象に残った名言、名表現
■春、満開の桜が咲く、熱海の景色。
北条政子と源頼朝の出会いで有名な、朱色の逢初橋をわたると、伊豆山神社の石段が見えてくる。石段の両側に植えられたサクラは、満開だった。
竹林が広がり、その向うに満開のヒガンザクラが植えられている。眼を遠くに走らせると、海が見えた。
サクラの枝に、緑色の羽の小鳥がとまって、花の蜜を吸っている。海の方向は、ゆるい坂になっている。波の音以外は、何も聞こえてこない。
総評
本作は、”刑事の休日”が絡んだ事件である。
収録された4作品のいずれも劣らぬ良作であるが、一つおすすめをあげろと言われたら、筆者は「友の消えた熱海温泉」を推したい。
本作は、十津川の高校時代の友人で画家の本山仁と妻の藤原由美が殺されてしまった痛ましい事件。「友人を疑いたくない、でも刑事としての仕事をしなければならない」という、人間・十津川と刑事・十津川の間で悩み苦しみ、揺れ動く心が描かれている。
犯人の異常な愛憎もあいまり、ラストは美しくも哀しいシーンになる。このラストシーンは、十津川警部シリーズファン必見だ。
最後に、西村京太郎先生らしさが如実に現れていた、”地図の妙”があらわれた一節を二つ紹介しておく。
下の一節は、容疑者にアリバイがあると思われていたが、バス停を発見したことで、アリバイが成立しないことに気がつくシーン。
バス停が見えた。(おや?)と、いう感じで、十津川が、立ち止まったのは、そこに、<高森駅行>という字が、見えたからだった。十津川の眼が、高千穂線で延岡方向へだけ向いていたのに、ここから熊本県の高森へ出る方向もあるのだなと、気付いたのだ。
ここから十津川は、高森から南阿蘇鉄道→豊肥本線→寝台特急というルートで大阪に到着できることを知り、犯人のアリバイが崩れたことに気がつく。
次に、在来線ではなく、新幹線側を使うと、アリバイがないことに気がつくシーン。
なるほど、十日町は、飯山線だけを見れば、野沢温泉より、ずっと、長野から遠い。駅にして、十六も先なのだ。従って、長野へ出ると考えると、遠いのだが、上越新幹線を見ると、野沢温泉より、ずっと、近くに十日町がある。
十日町駅から越後湯沢駅に向かい、そこから新幹線を使えば、ゆうゆうと上野に到着する。ここでも犯人のアリバイが崩れたことになる。
”神は細部に宿る”
こうしたリアリティがあるからこそ、十津川警部ワールドにハマるのである。
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