初版発行日 2006年2月25日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
推理小説に歴史小説を組みこんだ新しい試み!「忠臣蔵」と「吉良町」が舞台の傑作!
あらすじ
四谷のお岩稲荷近くの路上で若い男が銃撃された。運転免許証から、男は近くに住む吉良義久と判明したが、彼は記憶を失っていた。銃撃事件の謎と記憶を求めて義久は三河へ旅立った。吉良義久を追って、十津川と亀井も現地に向かった。
小説の目次
- 吉良の末梢
- 逆さ忠臣蔵
- 奥三河
- 男と女
- 闇の中
- 賭ける
- 秘密法廷
冒頭の文
三月二十五日、ようやく、春めいてきていたのが、その日は、夕方から、雨が降り出して、夜になると、それが、春時雨になった。
小説に登場した舞台
- 西浦温泉(愛知県蒲郡市)
- 吉良町(愛知県西尾市)
- 宮崎海岸(愛知県西尾市)
- 湯谷温泉駅(愛知県新城市)
- 湯谷温泉(愛知県新城市)
- 鳳来寺山(愛知県新城市)
- 下田(静岡県下田市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
事件関係者
- 吉良義久:
25歳。小説家。お岩稲荷近くで撃たれて負傷。記憶を失っている。 - 三木のり子:
四谷に事務所をかまえる弁護士。 - 藤崎美香:
東京の女子大に通う学生。湯谷温泉のそば屋の娘。 - 大山啓一:
品川の警備会社OAIで働く警備員。元警官。40歳。 - 朝原孝介:
三河出版の編集者。 - 前田真一:
劇団「三河座」のリーダー。 - 柴田:
常磐劇場の支配人。 - 木原:
劇団「三河座」の団員。 - 須田亮介:
中央不動産の営業部長。 - 落合良一:
中央不動産の社長。 - 落合徳治郎:
落合良一の父親。中央不動産の元会長。75歳。
印象に残った名言、名表現
(1)第一感の印象は、だいたい合っている。
別に、それが、どうということはない筈なのだが、何となく、十津川は、イヤな気がした。
(2)十津川警部の強硬手段。
「時間は、あまりないんです。ですから、私たちを、そこに案内してください。もし、あなたが、イヤだといっても、無理にでも、連れていきますよ!」
総評
本作は、『逆さ忠臣蔵』という架空の歴史小説を、作品の中に組みこんだ、推理小説になっている。舞台も吉良町。メインの登場人物の名前も吉良義久。すべて、忠臣蔵の世界観で統一されている。
『逆さ忠臣蔵』の原文が、分割しながらも、まるまる小説の中に入っており、その内容がまたおもしろい。歴史小説家としても非凡な西村京太郎先生の実力が発揮されているのではないだろうか。
前半は、歴史小説と、記憶を失った吉良義久の記憶をめぐる内容。湯谷温泉の旅情もあいまって、ゆったりとしたペースで進む。
後半から、事件性が強くなり、緊張感が高まる。そして、終盤で一気に加速。最後まで駆け抜ける。
十津川警部シリーズの面白さは、緩急がよく効いているところにあると、筆者は思っている。本作も、旅情と歴史という”緩”から、事件という”急”の差が激しく、読者を飽きさせない。歴史組込型ミステリーの秀作だと思う。
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