初版発行日 2016年4月8日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
神戸、宮古、函館……日本周遊8泊9日の船旅の途上ー突如、豪華客船に爆発音が響く!孤立無援の洋上で、十津川はシージャック犯との交渉に乗り出す!国際問題を背景とした社会派ミステリー!
あらすじ
未確認テロ情報を受けた十津川警部は、乗客の危険を未然に防ぐため豪華客船「飛鳥Ⅱ」に乗船する。平穏な日本一周の船旅は、船内に響き渡る爆発音とともに急転、乗客乗員千名は、突如人質となってしまう。姿見せぬ犯人の正体とは、その要求とは?十津川は彼らとの交渉に乗り出すが……
小説の目次
- 神戸出港
- 低気圧
- 様々な予測
- 迷走
- 中東に展開
- 犯人の貌
- 陰の支援者
冒頭の文
警視庁捜査一課、十津川警部の机の上には、客船の模型が置かれている。
小説に登場した舞台
- 新神戸駅(兵庫県神戸市中央区)
- 神戸港中突堤旅客ターミナル(兵庫県神戸市中央区)
- 飛鳥Ⅱ
- 宮古港フェリーターミナル(岩手県宮古市)
- 浄土ヶ浜(岩手県宮古市)
- 能登空港(石川県輪島市)
- 函館港(北海道函館市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 三宅伸一:
飛鳥Ⅱの船長。 - 後藤:
飛鳥Ⅱの副船長。 - 大塚:
飛鳥Ⅱの航海長。 - 菊池妙子:
飛鳥Ⅱのクルー。 - 恵子:
シリア難民・アブダビの妻。 - 清家明:
飛鳥Ⅱの乗客。大学生。 - 味岡弓枝:
飛鳥Ⅱの乗客。大学生。 - 島田:
T大学の名誉教授。「日本に定住を希望する難民を救う会」の代表。 - 城之内弘之:
48歳。小児科医。「日本に定住を希望する難民を救う会」のメンバー。 - 島田紅花:
48歳。島田名誉教授の妻。「日本に定住を希望する難民を救う会」のメンバー。
その他の登場人物
- 横山卓郎:
52歳。飛鳥Ⅱの乗客。 - 横山悠子:
飛鳥Ⅱの乗客。 - 飯島:
函館港湾事務所の所長。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
印象に残った名言、名表現
■東日本大震災の復旧作業が今も続く浄土ヶ浜。震災でいなくなったウミネコが戻ってきたことにホッとする十津川。
十津川たちが、バスから降りると、ウミネコが、十数羽集まってきた。その光景に、十津川は、ホッとするものを感じた。
昔通りの風景が復活したことに、十津川は、ホッとしたのである。
感想
本作は、豪華客船「飛鳥Ⅱ」を舞台としている。
前半は、十津川警部、亀井刑事、妻の直子の3人が飛鳥Ⅱに乗り込み、飛鳥Ⅱの食事やショーを堪能する。穏やかで豪華な時間が流れる。ゆったりとした展開である。
しかし、徐々に不穏な空気が流れ始め、シージャックされたことが分かると、一気に緊張感が高まった。
今回は、”船の上”なので、逃げ場がない。外部との連絡手段もつたない。ある意味、究極の密室空間である。十津川警部も、この船の上で捜査に挑む難しさを、次のように感じていた。
十津川が、いちばん強く、感じたのは、一度乗ってしまうと、船の上では、何もできないということだった。港を離れ洋上に出てしまうと、自分の力ではどうしようもないのである。
陸上ならば、車、電車、タクシー、バイク、バス、など、あらゆる交通手段の中から最適な手段を選ぶことできる。しかし、船の上ではそれができない。
また、警視庁の組織力を活かした、連携捜査も難しい。
陸地からかなり離れた外洋を航行中なので、十津川が三上刑事部長に連絡を取ろうとしても、携帯電話の電波は、届かない。また、船を停めることもできないし、部下の刑事に、電話をして、来てもらうこともできないのだ。
読者としては、この窮地にワクワクするのだろうが、十津川警部は、捜査の難しさを感じていただろう。
今回の事件で提示された3つの疑問。
- なぜ、今回のシージャックが起こったのか?
- 犯人たちがシージャックをした目的は何か?
- この事件の真相は何だったのか?
1と2については、国際問題が絡んでいる。とくに、2016年当時、大きな注目を集めていた中東情勢である。
3については、まさかの展開が待っている。大どんでん返しである。これは読んでからのお楽しみだ。
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