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十津川警部「子守唄殺人事件」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

子守唄殺人事件小説

初版発行日 2005年9月10日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編

POINT】
おしゃぶり、でんでん太鼓、こけし。犯行現場に遺された子守唄を連想させる品々……。事件に隠された謎の真相と、少子化問題についてメスを入れる、本格社会派ミステリー。
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あらすじ

銀座クラブのママが絞殺された。現場にでんでん太鼓がのこされ、口にはおしゃぶりが!続いて、東京で演歌歌手、仙台で女性評論家が殺される。この現場にもなぜかこけしや人形が……。十津川は、奇妙な遺留品が各地の子守唄を暗示することに注目。被害者たちのような自立した女性を批判する「子守唄を守る会」なる団体の存在を知る。連続殺人に隠された真相とは!?

本作の謎は、「誰が、何のために、おしゃぶりやでんでん太鼓を現場に遺したのか?

小説の目次

  1. 発端
  2. 宮城の子守唄
  3. あるグループ
  4. Wの会
  5. 裁判
  6. 別の動機
  7. 真犯人の顔

冒頭の文

銀座X丁目の、雑居ビルの最上階の七階に、その店が、あった。

小説に登場した舞台

  • 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
  • 秋保温泉(宮城県仙台市太白区)
  • 京都駅(京都府京都市下京区)
  • 石塀小路(京都府京都市東山区)
  • 石神井公園(東京都練馬区)
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登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 日下淳一:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 北条早苗:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三田村功:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 田中大輔:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 片山明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三上刑事部長:
    刑事部長。十津川警部の上司。

子守唄を守る会

  • 北村伸太郎:
    名古屋で新聞社を経営している。子守唄を守る会の代表。
  • 北村文子:
    北村伸太郎の妻。子守唄を守る会のメンバー。
  • 君塚圭子:
    京都に住むエッセイスト。子守唄を守る会のメンバー。
  • 吉田千恵子:
    東京の主婦。こけし集めと子守唄が好き。子守唄を守る会のメンバー。
  • 朝倉好:
    石塀小路のカフェのマスター。子守唄を守る会のメンバー。
  • 朝倉良枝:
    朝倉好の妻。子守唄を守る会のメンバー。
  • 近藤圭介:
    52歳。子守唄の作詞作曲をしている。子守唄を守る会のメンバー。

事件関係者

  • 桜井恭子:
    50歳。銀座のクラブ「ミラージュ」のママ。お店の中で死体で発見される。
  • 早月乙女友紀:
    30歳。演歌歌手。ホテルの中で殺されていた。
  • 香取八重子:
    40歳。大学助教授。戦う女性の会「Wの会」を主催している。秋保温泉のホテルで殺されていた。
  • 永井久美子:
    26歳。香取八重子の秘書をしていた。「Wの会」のメンバー。
  • 橋本美雪:
    24歳。「Wの会」のメンバー。
  • 野口洋一:
    35歳。中野駅近くのビルで宝石店を経営している。離婚裁判中。
  • 野口恵子:
    35歳。野口洋一の妻。離婚裁判中。
  • 安田良子:
    40歳。弁護士。既婚で子持ち。離婚裁判の専門家。野口夫妻の民事裁判で夫側の弁護を担当している。
  • 桑野節子:
    38歳。弁護士。独身。野口夫妻の民事裁判で妻側の弁護を担当している。
  • 小坂茂樹:
    裁判官。野口夫妻の裁判を担当している。
  • 島田孝子:
    35歳。教師。裁判の調停委員。
  • 木村明:
    弁護士の卵。調停委員。

その他の登場人物

  • 井上:
    東京タクシーの運転手。
  • 小沢:
    クラブ「ミラージュ」のマネージャー。
  • 崎田:
    桜井恭子の元夫。
  • 水谷:
    早乙女友紀のマネージャー。
  • 小島:
    レコード会社「TOKYOレコード」の副社長。
  • 谷本:
    宮城県警本部捜査一課の警部。
  • 阿部:
    京都府警捜査一課の警部。
  • 梅田良介:
    私立探偵。安田良子が使っている探偵。
  • 永田康子:
    北条早苗刑事の大学時代の同級生。

印象に残った名言、名表現

(1)東京の子守唄。

ねんねんころりよ おころりよ
坊やはよい子だ ねんねしな
ねんねんの子守は どこへ行った
あの山こえて 里へ行った
里のみやげに 何もろた
でんでん太鼓に 笙の笛

(2)宮城県の子守唄。

ハースサスサスサヨ スサスサスサヨ
こけしぼっこ 木ぼっこ
土でこしやだの 土ぼっこ
わらでこしやだの わらぼっこ
おらえのぼっこは 何ぼっこ

(3)長崎県・島原の子守唄。

おどみゃ島原の おどみゃ島原の
なしの木育ちよ
何の梨やら 何の梨やら
色気なしばよ しょーかいな
はよ寝ろ泣かんで
おろろんばい
おんの池ん久助きゅうすけどんの
連れんらるばい

(4)静岡の子守唄。

坊やはよい子だ ねんねしな
この子の可愛さ 限りなき
天に上れば 星の数
七里ヶ浜しちりがはまでも 砂の数
山では 木の数 かやの数
沼津ぬまづへ下れば 千本松
千本松は 小松原
松葉の数より まだ可愛い

(5)青森県の津軽地方の子守唄。

ねんねんころりよ おころりよ
泣けば山がら もこぁ ろぁね
泣がねで 泣がねで こんこせぇ
山のおぐ白犬しろいぬこぁ
一匹吠えれば みな吠える
ねんねこ ねんねこ ねんねこせぇ

(5)群馬県の子守唄。

ねんねんよ かんかんよ
嬢やはよい子よ ねんねしな
ねんねして起きれば おちちやろ
おちちのおでばが いやならば
お米のご飯にととせえて
さらさら食べたら うまいだろ
嬢やのお守りは どこへ行った
八島やしまの宿屋へ あんも買いに
あんもを買って 誰にくりょ
いい子にくれて はらませて
を生んだら とりあげよ

(6)京都の子守唄。

優女やしようめ 優女
京の町の優女
売ったるものを 見しょうめ
金襴緞子きんらんどんす あや緋縮緬ひじりめん
どんどん縮緬 どん縮緬

(7)京都の美山の子守唄。

ねんねしなされ おやすみなされ
起きて泣く子は つら憎い ヨホホ
つらの憎い子を まな板にのせて
青菜あおな切るよに ザクザクと ヨホホ
切ってきざんで 油でげて
道の四辻よつじに ともしておくよ ヨホホ
人が通れば なみあむだぶつ
親が通れば 血の涙 ヨホホ

(8)熊本県の五木の子守唄。

おどまかんじんかんじん
ぐゎんぐゎら打ってさるこ
ちょかでままたいて 堂に泊まる
おどまばかばか
ばかんもった子じゃっで
よろしゅたのんもす 利口じこかひと
子持ちよいもの 子に名をつけて
添い寝するちゅて 楽寝する
つらいもんだよ 他人のめし
にえちゃおれども のどこさぐ
おどまいやいや 泣く子の守りは
泣くといわれて にくまるる
こどんかわいけりゃ 守りに餅くわせ
餅がこくれば 子もこくる

感想

本作は、「子守唄」と「少子化」がテーマになっている。

確かに、本作で言われていたとおり、現代では、子守唄を歌うことが少なくなったように思う。だが、日本には、数多くの子守唄があり、地域性がある。優しい子守唄もあれば、少し怖い子守唄もある。

全国津々浦々にある子守唄の意味や歴史をたどったり、日本子守唄協会が発表している日本各地の子守唄を聞いてみるのも面白いだろう。

もう一つのテーマが、少子化である。

本作が刊行された2005年。すでに少子高齢者社会に突入していたが、日本は、いよいよ人口減少社会に突入することが確定し、日本の衰退、構造不況の問題が盛んに叫ばれていた。

この少子化という”国家危機”をどのように解決すべきか、この当時から盛んに議論が行われていた。

2005年当時に主張されれてた対策は、2021年現在で主張されている対策と、ほとんど変わっていない。それは、「女性が子育てしやすい環境を作るべき」という主張である。

女性の社会進出が当たり前になり、女性が子育てする余裕がなくなった。だから、子供を産まなくなったのである。よって、女性が働きながらでも、子育てできるような環境を整備すれば、女性は安心して子供を産むことができる。これで少子化は解決できる、という主張だ。

しかし、2021年現在においても、少子化問題が解決されるどころか、さらに進行しており、この当時の問題はまったくもって解決されていない。

では、なぜ少子化問題が解決できないのか?どうすれば解決できるのか?

原因と対策については、数多くの議論がなされているので、ここで挙げるつもりはない。

ただ、本作でひとつの解決策が提示されているので、それを紹介したい。

「先に安心して、子供を産める環境を作れというのは、反対で、子供がたくさんできれば、自然に、政府も世間も、子供が育つ環境を整備していくものなんですよ。」

環境を作るとか、ゴチャゴチャ小難しいことを考えるのではなく、「とりあえず、産んでしまえ」ということであろう。

一件、むちゃくちゃな主張だが、理にかなっていると思う。”市場原理”で考えれば、この主張の通りである。需要が少ないのに、供給をしようとは思わない。

では、どうすれば、「とりあえず産もう」という、意識を定着することができるのか?

その答えについて、本書では、こう回答している。

「子供を生み育てて初めて一人前の夫婦、大人になれるのだ」という風潮をつくることだ。

この答えが正しいのか、間違っているのかはわからない。

だが、「どうすれば、少子化を解決できるのか?」という重大な問題について、国民一人ひとりがもっと真剣に考えるべきなのだと、本作を読んで改めて感じたのである。

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