初版発行日 2016年11月30日
発行出版社 角川書店
スタイル 長編
売れない作家が書いた『北海道新幹線殺人事件』と、そっくりの殺人事件が開通初日の北海道新幹線で起こる。はじめから仕組まれた罠だったのか?
あらすじ
売れないミステリー作家・三浦に、明日書房の高橋社長から「ベストセラーを出しませんか」と依頼が来る。3月26日開業の北海道新幹線を題材にしたミステリー作品を書き、3月25日までに発売して、売り出そうと言うのだ。無謀とも言える依頼だったが、高橋社長の熱心さに折れ、引き受けることに。本のタイトルはその名も『北海道新幹線殺人事件』。無事に脱稿し、3月26日当日、東京発の北海道新幹線に乗り込んだが、グリーン車両内で小説同様の殺人事件が起きてしまう。さらに、三浦の隣に座っていた女性も、東京の自宅で殺害されており……。
小説の目次
- 二〇十六年三月二十五日
- 三月二十六日
- 訊問
- お知らせ
- グランクラスの死
- 会員制の罠
- 崩壊
冒頭の文
三浦康平は、四十二歳。ミステリー作家である。
小説に登場した舞台
- 北海道新幹線はやぶさ
- 新函館北斗駅(北海道函館市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 三浦康平:
42歳。売れないミステリー作家。 - 高橋:
明日書房の社長。 - 若林香織:
新人賞を受賞した女性作家。 - 古川恭:
42歳。北海道新幹線の9B席に座っていた男。 - 小谷愛:
六本木のクラブ「愛」のホステス。 - 小金井豊:
作家。 - 鬼島慎太郎:
54歳。N市のボスと呼ばれる大物実業家。今年に入って持病が悪化して病死。 - 佐々木恵子:
N市在住。数年前、娘の由美子が交通事故で亡くなっている。 - 柴田忠男:
明日出版の社員。 - 梅田修:
明日出版の社員。
その他の登場人物
- 皆川:
世田谷署の刑事。 - 鈴木:
週刊日本の編集者。 - 矢沢:
宮城県警の警部。 - 八代栄太郎:
政治家。57歳。国土交通副大臣。 - 栗田:
N大学の教授。株の研究をしている。 - 真田:
S出版の編集長。 - 佐々木順:
若手代議士。 - 小金井晴代:
40歳。小金井豊の妹。翻訳の仕事をしている。 - 北原:
作家志望の男。5年前まで明日書房で働いていた。 - 原口のぶえ:
以前、明日書房で会計を担当していた。 - 田島:
中央新聞の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
印象に残った名言、名表現
■被害者の遺族が抱える問題、鬱屈についての深い考察。
「自分の家族や親戚、知人が殺されたとします。犯人が逮捕されて、裁判で刑が決まっても、その時に被害者の家族や知り合いは、それ異常、亡くなった者のためにしてやれることがなくなってしまうんです。
裁判が終わってしまえば、後は悲しくて虚しい思いばかりが残ることになるんですから」
「普通の容疑者は、独房に入れれば、孤独に耐えられずに、何もかも喋ってしまうでしょうが、作家という代物は、一人にすると、どんどん空想の世界に入りこんで、自分が歴史に残る世界一の殺し屋、英雄と思い込んで、手に負えなくなる恐れがありますから」
総評
本作は、その名の通り、北海道新幹線の車内で起こった殺人事件をテーマにしている。劇中で出版された小説『北海道新幹線殺人事件』とそっくりな殺人事件が発生。この劇中の小説名が、そのまま作品タイトルになったというシャレのきいた作品でもある。
また、北海道新幹線が開業した2016年に出版された本なので、当時の時流にもそくした作品とも言える。
この作品で、とくに面白いと思ったのが、作家についてのお話が数多く出てきたところである。作家の酸いも甘いも知り尽くした、西村京太郎先生ならではの深い洞察が記されていた。
これは、高橋社長が売れない作家・三浦康平にハッパをかけた言葉。
「一行読んだだけで、何かありそうだと思ってくれないと困るんですよ。ああ、それから、東京から新函館北斗まで、はやぶさで四時間二分です。本の中では、それに合わせて、一時間に一回は、驚きと興奮を読者に与えたいんです。それがないと、本を買ってくれても、途中で放り投げますよ」
次に、ミステリー作品におけるKFS(成功の主要因)についての解説。
「とにかく、ミステリーにはリアリティが必要です。何しろ殺人という究極の犯罪を書くんですから。原稿に書く倍以上の細部についての情報が必要です」
殺人事件を扱うミステリーで必要な要素も書いています。
「殺人事件が起きるんですよ。そんな大事件が起きる作品には、逆に細かいところでリアリティが必要なんです。」
さらに、”面白さ”についての真実も。
「退屈な美談よりも、刺激のある裏切りの方が、人間は好みますからね」
作家の本音も飛び出します。
「売れてくれれば嬉しいんです。少しばかり危険な思いをしても、売れる小説を書きたい。そう思うのが作家ですから」
そして、作家の”性癖”についてのくだりもあった。
作家というものは、自分の本が売れる、売れないにかかわらず、自分が興味を持ったもの、あるいは関心のあることがあれば、やたらに首を突っ込んでくるものなのだ。だから作家をやっているともいえる。
ミステリーの本筋だけでなく、作中に登場する表現や考察に注目すると、作品をより深く味わえるのだ。
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