初版発行日 1992年11月30日
発行出版社 徳間書店
スタイル 短編集
私の評価
十津川警部シリーズから短編3作品、十津川警部シリーズ以外のミステリー短編も2作品収録!!
あらすじ
1.会津若松からの死の便り
銀座の交番で訊ねてきた若い女性が、突然苦しみだし死亡した。何者かに青酸カプセルを飲まされたらしい。彼女は失踪した姉の捜索を探偵社に依頼し、報告書を受けるとるため、その日、会津若松から上京したのだった。しかし調査を担当した探偵も報告書とともに前日から行方がわからず、彼の銀行口座には不可解な大金が振り込まれていた。十津川警部は探偵がマークしていた都下の病院で意外な事実を発見する。
2.日曜日には走らない
フリーカメラマンの田所は、雑誌の取材で兵庫駅から和田岬駅を走る和田岬支線に乗った。が、電車の車内でたまたま話しかけた女性が死んでいた。田所は殺人容疑で警察署に連行されてしまう。田所は警察に「S出版の依頼で取材した」と説明したが、S出版の編集長は「田所に仕事の依頼をしていない」という。田所は罠にはめられたのか?
3.下呂温泉で死んだ女
短編集「湯けむりの殺意」に収録。下記を参照↓↓
→「湯けむりの殺意」
4.身代り殺人事件
天涯孤独で人生に疲れ果てた竹中幸子25歳は、自殺を決意してL特急「踊り子号」に乗り込む。幼少時代家族で旅行した美しい思い出が残る下田の海で死にたいと思ったのだ。列車の中で死への思いを馳せていたところ、終点の伊豆急下田の直前で列車事故に遭遇し、病院へ運ばれてしまう。幸子は病室で意識が朦朧とするなか、見知らぬ老夫婦が自分のことを「涼子」と呼んでいるのを目にする…。
5.残酷な季節
合成樹脂メーカー「安田プラスチック」の専務・水島は、社長の安田から経営危機を打開するために、子会社「安田玩具」を設立することを知らされる。安田は水島に子会社の社長になるよう打診された。子会社の社長になった水島は意気揚々と仕事に励んでいたが、突然、安田プラスチックが倒産する。さらに水島は30億円の業務上横領の容疑で逮捕されてしまう……。
小説に登場した舞台
1.会津若松からの死の便り
- 数寄屋橋(東京都中央区)
- 伊東(静岡県伊東市)
- 成田空港(千葉県成田市)
- 東京駅(東京都千代田区)
2.日曜日には走らない
- 兵庫駅(兵庫県神戸市兵庫区)
- 和田岬駅(兵庫県神戸市兵庫区)
3.下呂温泉で死んだ女
短編集「湯けむりの殺意」に収録。下記を参照↓↓
→「湯けむりの殺意」
4.身代り殺人事件
- L特急「踊り子号」
- 下田(静岡県下田市)
5.残酷な季節
- 中目黒(東京都目黒区)
登場人物
1.会津若松からの死の便り
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 柏木:
25歳。数寄屋橋交番の巡査。 - 五十嵐由美:
22歳。会津若松のスーパーに勤務。会津若松市内のマンションに在住。数寄屋橋交番で道を訪ねている最中に毒死する。 - 五十嵐真紀:
25歳。五十嵐由美の姉。都内の鉄鋼会社に勤務。現在、行方不明。 - 五十嵐慶子:
19歳。五十嵐由美の妹。短大生。喜多方市に在住。 - 三浦:
数寄屋橋の青木ビルにある「中田探偵社」の副社長。 - 小島保:
「中田探偵社」の社員。現在、行方不明。 - 東田:
国立にある栗田総合病院の脳外科医。 - 早坂哲次:
28歳。自動車販売の仕事をしている。 - 田口:
警視庁の鑑識の技官。 - 須永:
警視庁の警部。十津川警部の同期。 - 加東滉:
金貸しや暴力団などをやっていた男。白金のマンションに在住。
2.日曜日には走らない
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田所:
フリーカメラマン。明大前のマンションに在住。雑誌の取材で山陽本線の兵庫駅に訪れる。 - 山本:
兵庫県警の刑事。 - 三沢:
S出版社の編集長。 - 有賀めぐみ:
23歳。新宿に本社のあるK石油の会計課に勤務。世田谷区成城のマンションに在住。山陽本線の車内で死体となって発見された。 - 鈴木:
フリーカメラマン。
3.下呂温泉で死んだ女
短編集「湯けむりの殺意」に収録。下記を参照↓↓
→「湯けむりの殺意」
4.身代り殺人事件
- 竹中幸子:
25歳。東京在住。人生に疲れて伊豆の下田で死ぬためにL特急「踊り子号」の乗ったが、列車事故で負傷する。 - 井上和男:
竹中幸子がホステス時代に付き合った男。 - 浜崎晋助:
下田市にある浜崎興業の社長。 - 浜崎文江:
浜崎晋助の妻。 - 浜崎健太郎:
浜崎晋助の息子。浜崎興業の副社長。 - 田辺涼子:
浜崎健太郎の恋人。 - 鈴木:
浜崎健太郎の友人。下田市役所の職員。 - 中原:
浜崎健太郎の友人。 - 佐藤:
浜崎健太郎の友人。下田のレコード店の息子。 - 三浦冴子:
浜崎健太郎の友人。
5.残酷な季節
- 安田:
60歳。合成樹脂メーカー「安田プラスチック」の社長。 - 水島:
55歳。「安田プラスチック」の専務。子会社の「安田玩具」の社長に就任する。 - 木下:
38歳。「安田プラスチック」の秘書課長。「安田玩具」の部長に就任する。 - 谷岡久美子:
「安田玩具」の社長秘書。 - 山中:
刑事。 - 文子:
水島の妻。 - 章子:
水島の娘。
印象に残った名言、名表現
(1)刑事も心証で対応が変わる。
「なぜ、急に、優しくなったんですか?」
「何となく、君が、犯人とは思えなくなって来たからだよ」
(2)人が旅に出る理由。
人は、何のために旅に出るのだろうか?
太宰治は、悲しいから旅に出るのだろうと書いたが、それだけではないだろう。ハネムーンに出発するカップルの胸にあるのは、喜びだけだろうし、失恋の痛手をいやすために旅に出る人もいるだろう。
(3)自分の死に場所。
死ぬのなら、あの思い出の海を見てから死にたいと思った。
感想
本作には5作品が収録されているが、3作品が十津川警部シリーズの短編で、2作品は十津川警部ではない、ミステリー短編作である。
この作品を読むと、十津川警部シリーズの特徴と、それ以外のミステリー小説の特徴の違いが顕著にわかる。
十津川警部シリーズは、警察小説らしく、ロジカルな表現が多い。だが、十津川警部シリーズではない、ミステリー小説は、情緒的で文学的な表現が多いのだ。
私は十津川警部シリーズを中心に読んでいるが、今回、それ以外のミステリー短編を読んでみて、西村京太郎先生の、表現の幅広さに改めて驚いた。
十津川警部シリーズだけしか読んだことがない方は、本作を読んでみることをおすすめしたい。
十津川警部シリーズと、それ以外の違いがよくわかるし、十津川警部シリーズ以外の作品には、また違う魅力があることに気がつくはずである。
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