初版発行日 2009年4月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
1年前に起きた殺人事件の目撃者が連続で不審死していた。事件の全体像が見えないまま、さらに行方不明者が出る。捜査線上に浮上した一人の霊感師は何者なのか?
あらすじ
ある殺人事件で証人を務めた二人の男女が、相次いで突然の死を遂げた。判決時、「証人全員を殺してやる」と叫んだ殺人犯の松本は、すでに獄中で病死していたのだが……。残る三人の証人に接触する十津川警部だったが、また一人が行方不明に!何者かによる復讐なのか!?捜査線上に浮上した謎の霊感師は、十津川に、さらに不吉な予言を口にするのだったー。
小説の目次
- 二人消えた
- 失踪
- 予告殺人
- プラス二人
- 椅子取りゲーム
- 一人一千万円
- 最後の賭け
冒頭の文
六月三日の朝、十津川は、朝食をとりながら、新聞を読んでいて、その小さな記事に、引きつけられた。
小説に登場した舞台
- 府中刑務所(東京都府中市)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 山形新幹線つばさ111号
- 猪苗代湖(福島県・苗代町)
- 大磯(神奈川県・大磯町)
- 郡山駅(福島県郡山市)
- 奥多摩(東京都・奥多摩町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 宮田直人:
小説家志望の中年。同人誌「二十一世紀文学」に所属していた。三鷹市の自宅アパートで死んでいるのが発見される。去年の本間順一殺害事件で松本弘志が殺害したと証言した目撃者の一人。 - 大石あずさ:
喫茶店「サンクチュアリ」のウエイトレス。5月に沖縄の石垣島で溺死する。去年の本間順一殺害事件で松本弘志が殺害したと証言した目撃者の一人。 - 本間順一:
喫茶店「サンクチュアリ」のオーナー。去年、刺殺される。 - 松本弘志:
松本金融の社長。本間順一殺害事件で有罪が確定し懲役したが、3ヶ月後に獄中で病死している。 - 小川長久:
79歳。定年退職し、中野で悠々自適の生活を送っている。去年の本間順一殺害事件で松本弘志が殺害したと証言した目撃者の一人。 - 黒柳恵美:
S大学を卒業。商社「日本実業」でOLをしている。去年の本間順一殺害事件で松本弘志が殺害したと証言した目撃者の一人。 - 内海将司:
中央自動車の営業部の社員。去年の本間順一殺害事件で松本弘志が殺害したと証言した目撃者の一人。 - 佐藤賢:
21歳。R大学の4年生。去年の本間順一殺害事件に遭遇。証人になることを拒否した。 - 佐藤聡:
19歳。R大学の2年生。賢の弟。去年の本間順一殺害事件に遭遇。証人になることを拒否した。 - 小島伸一:
40歳。失業中。去年の本間順一殺害事件に遭遇。証人になることを拒否した。 - 柴田晃子:
35歳。パチンコ好きの主婦。去年の本間順一殺害事件に遭遇。証人になることを拒否した。 - 佐久間有也:
35歳。大磯にあるマンションに住む。霊感師。 - 中田哲也:
通称テッちゃん。28歳。
その他の登場人物
- 鈴木:
三鷹署の警部。 - 渡辺明:
同人誌「二十一世紀文学」の主催者。 - 小川富美子:
小川長久の妻。73歳。 - 川田:
松本弘志の裁判を担当した弁護士。 - 沼部:
府中病院の脳神経外科の部長。 - 青木はるか:
大学院生。黒柳恵美の大学時代の友人。 - 花田美由紀:
K工業の社員。黒柳恵美の大学時代の友人。 - 池永真理:
K工業の社員。黒柳恵美の大学時代の友人。 - 江藤修:
神田のK出版の編集部員。黒柳恵美の恋人。 - 佐藤:
福島県警の警部。 - 井上明:
松本金融の元社員。 - 外山周斉:
世界予知能力研究会の会長。60歳。佐久間有也に西洋占星術を教えた。 - 吉田ツネ子:
佐久間有也の家政婦。 - 藤村:
福島県警の警部。
印象に残った名言、名表現
(1)小説家志望の宮田直人に関する、渡辺明のコメント。
「たぶん、何かが、足らなかったんですよ。しかし、書いている本人には、それが、わからない。周りの人間にだって、わからない。小説は、そういうものなんですよ。ある日突然、脚光を浴びたりする。逆に、一生書き続けても、ものにならないことも、ありますからね」
(2)作家に必要なこと。
「真面目で、何事にも、一生懸命でしたね。二十年間、ひたすら、小説を書いていました。しかし、作家には、もう少し奔放なところが、必要なんですよ。」
「夢物語を、真面目に書いてしまう。飛躍が、ないんですよ。性格が真面目だから、ウソが書けなかったんじゃないかな」
(3)前途ある若者の死はいつも悲しい。
さまざまな可能性のある若者の死というのは、いつも悲しいものである。黒柳恵美のように、大学を卒業し、社会人としての、第一歩を踏み出したばかりの若者の死は、なおさら、悲しいものである。
(4)十津川警部の豊富な経験に裏打ちされた嗅覚。
「ジメジメとした人間的な匂いが、してくるんです。うまくいえませんが、むき出しの殺意とか、あるいは復讐とか、そんな匂いが、感じられるのです。」
総評
本作は、常軌を逸した連続殺人である。大金を目の前にすると、人間はここまで異常になれるのか?ということを考えさせられる。
恐らく、正常な状況ならば、こうはならないだろうと思う。だが、人々にある種の”仲間意識”をもたせ、社会から隔離させる状況を作り出せれば、人は時としてこのような異常性を発揮するのだと思う。そういう意味で、今回の犯人は、人が異常性を発揮する前提条件を敏感に察知し、その環境をうまく作り上げたのだと思う。
事件の真相については、本作を手にとって読んでもらいたいが、全体像が見えるまでは、動機も人間関係も容疑者も皆目検討がつかない。
一つだけヒントをあげておく。今回の事件の発端となった、本間順一殺害事件の目撃者が以下9人である。
- 宮田直人
- 大石あずさ
- 小川長久
- 黒柳恵美
- 内海将司
- 佐藤賢
- 佐藤聡
- 小島伸一
- 柴田晃子
この9人の人物を、よく頭に入れながら、読み進めていってもらいたい。
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