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十津川警部「絹の遺産と上信電鉄」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

絹の遺産と上信電鉄小説

初版発行日 2015年9月2日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編

私の評価 3.5

POINT】
十津川班の若きエース・西本刑事、世界遺産に死す!十津川警部、慟哭の捜査の行方は?
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あらすじ

警視庁捜査一課の西本刑事が、群馬県の世界遺産・富岡製糸場で毒殺された。難事件に共に挑んできた若きエースの死に、十津川警部は凍りついた。捜査に乗り出すと、犯行当日、西本が行動を共にしていた謎の二人組が浮上。九ヵ月前には、西本は捜査を休み、富岡を走る上信電鉄の写真を撮影していた。なぜ列車の写真を撮ったのか?やがて、高校の同窓生・牧野美紀の失踪が判明、十津川は西本の死との関連を疑う。そんな折、高崎の達磨寺で女性の他殺体が発見され、西本が達磨寺で特別祈祷をしていたことが判る…。

小説の目次

  1. 西本刑事が死んだ
  2. 西本刑事と女
  3. 京都の町
  4. フィリピン
  5. 他者の眼
  6. 総括
  7. 一万人の子供

冒頭の文

その時、捜査会議の空気が、一瞬凍りついた。

小説に登場した舞台

  • 東京駅(東京都千代田区)
  • 高崎駅(群馬県高崎市)
  • 上州富岡駅(群馬県富岡市)
  • 富岡製糸場(群馬県富岡市)
  • 京都駅(京都府京都市下京区)
  • 祇園(京都府京都市東山区)
  • 達磨寺(群馬県高崎市)
  • 特急サンダーバード
  • 南蛇井駅(群馬県富岡市)

登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。富岡製糸場で死体となって発見された。
  • 日下淳一:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 北条早苗:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三田村功:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三上刑事部長:
    刑事部長。十津川警部の上司。

警察関係者

  • 田中:
    富岡警察署の刑事。
  • 浅井:
    群馬県警の警部。
  • 遠山:
    京都府警東山警察署の警部補。

事件関係者

  • 牧野美紀:
    28歳。西本刑事の高校時代の同級生。祇園にあるクラブ「プチドール」のホステス。2年前から西本刑事と交際していた。京都東山にあるマンションに在住。去年の6月から行方不明。
  • 牧野正直:
    53歳。牧野美紀の父親。嵐鉄で事務をしていたが、騙されて1億円の借金を作った。7年前、交通事故に見せかけて殺された。
  • 牧野君江:
    50歳。牧野正直の妻。6年前に病死している。
  • 江古田卓郎:
    東京平河町にある「ジャパン21」の社長。富岡製糸場の世界遺産登録運動の役員をしていたことがある。
  • 江古田勇士:
    江古田卓郎の祖父。太平洋戦争時代、フィリピンの防衛司令官だった。戦後、「ジャパン21」を創業した。すでに死亡している。
  • アリサ・ロバーツ:
    フィリピン人。牧野美紀とアリサ・ロドリゲスの実母。すでに死亡している。
  • アリサ・ロドリゲス:
    牧野美紀の妹。達磨寺で死体となって発見された。
  • 加藤肇:
    「ジャパン21」東京本社の係長。
  • 上田大輔:
    「ジャパン21」東京本社の係長。

その他の登場人物

  • 古田真一:
    西本刑事の高校時代の同級生。八坂神社の近くにある扇子店の店主。
  • 野々村恵子:
    西本刑事の高校時代の同級生。三条烏丸近くで父親が営む古本屋を手伝っている。
  • 小松:
    西本刑事の大学時代の同級生。
  • 高木陽一:
    観光会社「高木観光」の社長。
  • 佐々木隆:
    サラ金「佐々木信用」の社長。元暴力団員。
  • 戸田明:
    35歳。サラ金「佐々木信用」の幹部。
  • 近藤:
    世界遺産案内事務所の所長。
  • 古木:
    「ジャパン21」高崎支社の支社長。
  • 山崎清一郎:
    65歳。国際問題専門の弁護士。六本木に事務所を持つ。
  • 高橋:
    外務省南東アジア第二課長。
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感想

本作は、十津川班の若手刑事のエース・西本刑事が殺害されるという、一大事件が起こった作品である。

十津川警部シリーズにおいて、西本刑事は重要キャラクターであった。これまでの重要度でいえば、十津川警部、亀井刑事に次いで3番目だったと思う。シリーズの初期から登場しており、登場頻度も3番目に多かった。

その西本刑事が殺されてしまったのである。これは作品全体として大事件であったし、十津川班としても大きな痛手であり、悲しい出来事である。

だからこそ、もう少し、十津川班のメンバー達の怒りや悲しみを描いてほしかった。なんというか、あっさりしているのである。もちろん、十津川班は刑事なので、冷静にロジカルに捜査をしなければならないのはわかる。

ただ、心の底では怒り悲しんでいるはずである。それなのに、その心の内の描写がほとんどないのだ。

本作は、ミステリーとしては良かったと思う。西本刑事がなぜ富岡製糸場で殺されたのか?その理由も納得できるものだったし、複雑な人間関係も見事だった。

だが、内面の描写がほとんどないのが非常に残念だった。最後の終わり方もあっさりし過ぎている。短編のような終わり方だったのが残念。例えば、エピローグで西本刑事の墓前で、語りかけるシーンがあっても良かったのではないか?

本作は、ミステリーとしては良作だが、シリーズ全体の位置づけとしては残念である。

そして、何よりも、西本刑事を死なせてしまったのが、シリーズとして良かったのか?ここも疑問である。

最後に、本作刊行にあたって発表された西村京太郎先生のことばを紹介しておく。

上信電鉄が走る富岡といえば、今や、世界遺産の富岡製糸場以外に考えられないが、太平洋戦争末期に、長野県松代に巨大な地下大本営が造られた時には、この松代を守るために、何処に防衛戦を敷くかが問題になり、郡山、沼田、軽井沢を押さえて富岡が選ばれたのである。その理由が、上信電鉄だった。私鉄の上信電鉄の軌道の巾が国鉄と同じなので、東京から物資や人間を運ぶ時、鉄道だけで可能だったからである。最初に移転したのは、陸軍中野学校で、昭和二十年四月に、富岡中学(今の富岡高校)に移転を完了。中野学校終焉の地が、富岡になった。富岡は、歴史の上で、平和の製糸場と戦争の陸軍中野学校の双方を受け入れたのである。

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