初版発行日 1993年5月30日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
つばめレディ危うし!男女の死体、襲われる目撃者。十津川の捜査を阻む巨大な闇!鹿児島、福岡、佐賀、熊本、大分。舞台は九州全域に広がっていく!!
あらすじ
鹿児島・指宿の海岸で、男女の死体が発見された。二人は東京在住で、死因から殺人事件と断定される。所持品に搭乗券があったが、空路の時刻、特急「つばめ」の添乗員・宏子が列車内で二人を目撃していた。そして宏子に襲いかかる不可解な事故。捜査を進める十津川警部の前に、巨大な力が立ちふさがる!
小説の目次
- つばめレディの眼
- 指宿
- 嬉野温泉
- 尾を引く影
- 派閥
- リアクション
- 最後の闘い
冒頭の文
山本宏子は、明日十月十七日に、二十四歳の誕生日を迎える。しかし、今日は、十二時十七分博多発、西鹿児島行きの特急「つばめ13号」に乗車しなければならないので、二十四歳のバースディは、鹿児島で迎えることになりそうである。
小説に登場した舞台
- 九州特急つばめ
- 西鹿児島駅(現・鹿児島中央駅)(鹿児島県鹿児島市)
- 指宿海岸(鹿児島県指宿市)
- 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
- 嬉野温泉(佐賀県嬉野市)
- 和多屋別荘(佐賀県嬉野市)
- 長崎空港(長崎県大村市)
- 阿蘇くまもと空港(熊本県・益城町)
- 阿蘇(熊本県阿蘇市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 沖:
鹿児島県警の警部。 - 伊地知:
鹿児島県警の本部長。 - 竹内:
佐賀県警の警部。 - 中城:
熊本県警の警部。 - 杉本:
大分県警の警部。 - 田村:
大分県警の警官。
井崎:
大分県警の警官。 - 沢田:
警視庁捜査四課の警部。十津川警部の友人。 - 三田:
検事。
事件関係者
- 山本宏子:
24歳。特急「つばめ」の添乗員。博多出身。 - 塚原豊:
29歳。東京の週刊誌「週刊グローバル」の記者。山本宏子の恋人。西本刑事の大学時代の同級生。 - 石田淳:
30歳。M銀行新宿支店の貸付課長。指宿海岸で死体で発見される。 - 君原真希:
26歳。六本木のクラブのホステス。指宿海岸で死体で発見される。 - 大崎信一郎:
46歳。詐欺師。倒産した新興物産KKの社長と名乗る。福島県出身。 - 新井ひろ子:
銀座のクラブのホステス。大崎の女。 - 佐々木信:
世田谷の大手ディスカウントショップの社長。鹿児島の生まれ。 - 佐々木明:
50歳。運輸政務次官。佐々木信の義理の兄。 - 鬼島専太郎:
鹿児島県出身の代議士。57歳。保守第一党の政調会長。 - 五十嵐明:
国務大臣。佐々木信の兄。派閥を飛び出して「新生日本の会」という政策集団を作る。 - 粕屋一郎:
52歳。鹿児島の県会議員。国務大臣・五十嵐明の派閥に所属している。 - 後藤昭之:
43歳。K組の組長。国立大学卒業。 - 白崎恭介:
43歳。K組の幹部だったが破門された。 - 高田洋:
元K組の組員。元自衛隊。 - 古池五郎:
元新聞記者。鹿児島の生まれ。 - 平林功成:
38歳。右翼「J会」の代表。鬼島専太郎の元秘書。
その他の登場人物
- 青木みどり:
特急「つばめ」の添乗員。 - 藤田ユカ:
特急「つばめ」の添乗員。 - 梅本美子:
特急「つばめ」の添乗員。 - 中川:
週刊グローバルの編集長。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 小中進之助:
代議士。保守第一党の派閥のリーダー。 - 有田洋介:
政治評論家。 - 水野:
代議士。「新生日本の会」のメンバー。
印象に残った名言、名表現
(1)十津川警部が普通の刑事と違う理由。
自分たちの失敗をあっさりと認め、話してくれる十津川を、塚原は、不思議なものでも見るように眺めていた。
(2)エキゾチックな長崎空港。
長崎空港は、大村湾の上に作られた空港である。小さいが、何となく、エキゾチックな建物が、いかにもナガサキの感じがする。
(3)今回の事件の重大さを物語る、三上刑事部長のことば。
「君のいうとおりなら、これは、大変なことだよ」
「しかし、もし間違っていたら、君も私も、辞職しなければならなくなるかもしれん」
感想
本作は、指宿で起きた殺人事件の被害者が、九州特急「つばめ」に乗車しており、それをつばめレディが目撃していたことが発端となった。
一見すると、普通の殺人事件のように見えるが、その裏には、”政治とカネ”の問題があった。十津川警部たちが、相手にしなければならないのは、海千山千の政治家たち。一筋縄では行かない。
十津川警部も、こう話している。
「この世界は、すっぱりと割り切れないからね。われわれのいちばん苦手な世界だし、相手だよ」
政治家相手となっては、当然、捜査も慎重にならざるを得ない。犯人を逮捕できたとしても、捜査に失敗したとしても、その影響は甚大である。もちろん、失敗したら十津川警部たちもタダではすまない。
保守的で政治的な三上刑事部長のことばが、今回の事件の影響度をものがたる。
「君のいうとおりなら、これは、大変なことだよ」
「しかし、もし間違っていたら、君も私も、辞職しなければならなくなるかもしれん」
この事件の大きさを物語るように、舞台は鹿児島から九州全域にひろがっていく。そして、最後に大どんでん返しが起こる。
やはり、政治の世界。謀略の限りが尽くされているのだと思い知るのだ。
最後に、西村京太郎先生が、本作刊行にあたって発表した、著者のことばを紹介する。
特急「つばめ」は、鉄道好きの人間にとって、永遠のアイドルである。そのため、戦前から戦後にわたっって、「つばめ」の名前は、消えてはまた、不死鳥のように蘇り、その名前が続くことにほっとする。
今度、新しく装いを凝らした特急「つばめ」が九州を走り出したと知って、早速、乗ってみた。鹿児島本線を走る新しい「つばめ」は、優雅さの代わりに、強さと威厳を持っていて、私を喜ばせてくれた。
鉄道好きの先生らしい、コメントである。
ちなみに、九州を走る列車が舞台になった作品は、2012年刊行の「九州新幹線マイナス1」、1999年刊行の「九州特急「ソニックにちりん」殺人事件」もある。こちらも良書だ。
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