初版発行日 1993年6月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編
私の評価
二重の罠が西本を殺人犯に仕立て上げる。十津川警部の捜査線上に浮かんだ犯行グループの狙いは?謎を追う十津川の東奔西走が始まる。
あらすじ
警視庁捜査一課十津川警部の部下である西本刑事は、ある夜、自宅マンション前で意識不明の女性を救護したが……これは罠かもしれない!?やがて、十津川の不安は現実のものとなる。マスコミを逃れて、西本は国東の旅へー。
小説の目次
- 新谷みやこ
- 別府
- 国東の死
- 電話の声
- 再び国東へ
- 記憶の糸
- 別ルート
- 苦しい戦い
- 崩壊
冒頭の文
その女は、小雨の中で、倒れていた。
小説に登場した舞台
- 国立駅(東京都国立市)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- ブルートレイン「はやぶさ」
- 小倉駅(福岡県北九州市小倉北区)
- 特急「にちりん」
- 宇佐駅(大分県宇佐市)
- 宇佐神宮(大分県宇佐市)
- 熊野磨崖仏(大分県豊後高田市)
- 杉乃井ホテル(大分県別府市)
- 海地獄(大分県別府市)
- 大分空港(大分県国東市)
- 広島駅(広島県広島市南区)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 四ツ谷駅(東京都新宿区)
- 成田空港(千葉県成田市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。罠にはめられ、監禁&暴行容疑と殺人容疑で逮捕される。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 森中:
大分県警の刑事。 - 青木:
大分県警の刑事。 - 白井:
静岡県警の警部。
事件関係者
- 新谷みやこ:
23歳。城南プロに所属する新人AV女優。西本刑事の自宅マンション前で倒れていた女性。その後、別府の海地獄で死体となって発見された。 - 小野木恭:
50歳。城南プロの社長。 - 林洋一:
35歳。新谷みやこのマネージャー。 - 崎田:
城南プロと久保隆介の顧問弁護士。 - 青木:
宇佐タクシーの運転手。西本刑事を乗せて国東半島を案内した。大分空港近くの山林で死体となって発見された。 - 久保隆介:
40歳。有名カメラマン。バツイチ。西本刑事の向かいにある高級マンションに住む。 - 渡辺友之:
久保隆介の弟子。原宿の高級マンションに在住。福井の生まれ。 - 片桐:
久保隆介の弟子。 - 高木晴美:
26歳。元池袋北口のクラブ「クイーンズ」のホステス。久保隆介と親しくしていた。
その他の登場人物
- 藤谷マキ:
城南プロに所属する歌手。 - 森:
中央新聞の記者。 - 戸田:
宇佐タクシーの運転手。 - 岡本亘:
38歳。都内近郊にあるスーパーチェーンのオーナー。バツイチ。西本刑事の向かいにある高級マンションに住む。 - 仁科:
写真家。 - 仲西ゆか:
池袋北口のクラブ「クイーンズ」のホステス。 - 山下:
70歳。池袋駅前にある宝石商。 - 若宮伍郎:
青年実業家。赤坂の高級マンションに在住。 - 前畑ゆう子:
新宿にあるRプロダクションに所属しているAV女優。久保隆介と親しくしていた。 - こずえ:
コンパニオン会社「アリス」に所属するコンパニオン。 - 三原:
上野にある質店「ミハラショウジ」の社長。
印象に残った名言、名表現
(1)テレビの影響力。
今のテレビのような、派手なパフォーマンスを見せられると、どうしても不安になってくるのだ。あのテレビを見た人たちは、百人中、九十人は、真実だと、思い込むだろう。
(2)疑惑は膨らむ。
「疑惑というのはのね。普通、最初は、小さなものなんだよ。そして、それは、自然に、大きくなっていく。疑惑が、疑惑を呼ぶんだ」
感想
本作は、犯人たちの罠によって、監禁&暴行容疑でマスコミから袋叩きにされ、さらに、殺人容疑で逮捕までされてしまった西本刑事を救うため、殺人事件の真犯人を逮捕するために、十津川班が奮闘する、という事件である。
今回は、十津川警部の”男気”がすさまじかった。
自分の部下を、何をしてでも守り抜く、そんな覚悟と執念を感じさせる捜査だった。
「私はね、卑劣な連中の罠にかかって、今、大分で、拘置されている部下を助けるためなら、どんなことでも、するつもりですよ」
この言葉とおり、十津川警部は、違法捜査すれすれの手を使ってでも、犯人たちを追いつめていった。そして、罠にかけた犯人たちに対し、逆に罠をしかけたのである。
その罠は、犯人たちの間に、疑心を生じさせ、内部崩壊させるものだった。
「疑惑というのはのね。普通、最初は、小さなものなんだよ。そして、それは、自然に、大きくなっていく。疑惑が、疑惑を呼ぶんだ」
十津川が仕掛けた罠によって、ほころびができ、次第に修復不能になほど広がり、やがて自爆する。この過程が生々しく描かれていた。
読者をゾクゾクさせる、十津川警部の執念の捜査。その一端がみえた本作であった。
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