初版発行日 2000年7月25日
発行出版社 角川書店
スタイル 長編
私の評価
新宿裏社会を陰で操る黒幕との熾烈極まる頭脳戦を描いた傑作サスペンス!!
あらすじ
新宿歌舞伎町の治安を守るため新設された歌舞伎署。十津川警部の同期・小早川が初代署長に抜擢されたが、開設早々署員が泥酔して車に轢き殺されるという不祥事が発生。しかもその刑事が脅し・ゆすりをはたらき、裏で暴力団と繋がっていたと週刊誌にスクープされてしまう。十津川は事実確認のため歌舞伎町で聞き込みを進めるうち、刑事の死に疑問を抱く。事件の陰に潜む大きな闇の存在を感じ取った十津川は、黒幕を焙り出すべく孤独な捜査を開始するが……。
小説の目次
- 前兆
- 誘拐事件
- ストーカー
- 対決
- 攻防の果てに
冒頭の文
四月十日の深夜、三鷹市内の道路上で、歌舞伎署の加倉井刑事四十三歳が、車にはねられて死亡した。
小説に登場した舞台
- 新宿駅(東京都新宿区)
- 三鷹駅(東京都三鷹市)
- 新宿歌舞伎町(東京都新宿区)
- 晴海埠頭(東京都中央区)
- コマ劇場(東京都新宿区)
- 新宿中央公園(東京都新宿区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 柴田:
警視庁捜査一課の警部。十津川警部の同僚。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
歌舞伎署
- 小早川一夫:
歌舞伎署の署長。十津川警部の同期。出世コースを走るエリート。 - 加倉井:
43歳。歌舞伎署の刑事。独身。三鷹駅から徒歩20分のマンションに在住。三鷹市内の道路上で車に轢かれて死亡する。 - 吉田:
歌舞伎署の刑事。 - 大木:
歌舞伎署の刑事。 - 酒井:
28歳。歌舞伎署の刑事。東中野のマンションに在住。新宿中央公園で死体となって発見された。
その他警察関係者
- 平井:
三鷹署の刑事。 - 中村:
科研の技官。
事件関係者
- 菊池亘:
25歳。フリーター。加倉井刑事をはねた運転手。 - サチコ:
歌舞伎町のクラブ「ラブ・ラブ」で働くニューハーフ。加倉井刑事の友人。言問橋近くの隅田川で水死体となって発見された。 - 工藤信次:
歌舞伎町を縄張りとするK組の組長。 - 小柴卓郎:
45歳。歌舞伎町にあるMKビルのオーナー。国立に在住。MKビルの地下駐車場の車の中で死体となって発見された。 - 桜井功:
25歳。自殺した建設会社社長の息子。小柴卓郎殺害容疑で逮捕された。 - 柳修二:
23歳。大学生。歌舞伎町の韓国クラブのママ殺害容疑で逮捕された。 - 青木浩三:
歌舞伎町にあるSMクラブのオーナー。生方謙と共同経営している。何者かに誘拐された。 - 生方謙:
歌舞伎町にあるSMクラブのオーナー。青木浩三と共同経営している。青木浩三誘拐容疑で逮捕された。 - 近藤伍郎:
歌舞伎町にある中華料理店「タンタン」の店主。元S組の組員。青木浩三と加山アキを誘拐した容疑で、歌舞伎所の刑事に射殺される。 - 加山アキ:
歌舞伎町のホステス。近藤伍郎の女。 - 平木康一:
25歳。サラリーマン。青木浩三誘拐容疑で逮捕された。 - 横山信:
25歳。歌舞伎町にある「河合工事」の社員。サチコのストーカーをしていた男。晴海埠頭に落ちた車の中で水死体となって発見された。 - 河合:
歌舞伎町にある「河合工事」の社長。 - 柴田
- 柴田:
32歳。歌舞伎町にある「河合工事」の社員。元自衛隊員。 - 松原明:
55歳。歌舞伎町のビジネスホテル「マイセルフ」の支配人。サチコ殺しの容疑で逮捕され、留置所で自殺した。
その他の登場人物
- ユミ:
歌舞伎町のクラブ「ラブ・ラブ」で働くニューハーフ。 - 田島:
「週刊タウン」の編集長。 - 森口:
「実話ジャパン」の編集長。 - 青木誠:
歌舞伎町のホストクラブ「LOVE」の新人ホスト。 - 平井みゆき:
歌舞伎町のスナック「舞」のママ。 - 松本哲次:
41歳。歌舞伎町にあるC劇場の掃除係。三鷹市上連雀に在住。 - 戸川勇:
29歳。歌舞伎町にあるC劇場の掃除係。練馬区東大泉のマンションに在住。 - 春木朝正:
38歳。歌舞伎町にあるC劇場の掃除係。杉並区久我山のマンションに在住。 - 小野田正:
新宿のホームレス。 - 松原晴美:
29歳。松原明の前妻との娘。横浜のスーパーに勤務。 - 柿沼:
保守党の代議士。法務委員会の議長。
印象に残った名言、名表現
(1)警察が聖人君子とは限らない。
刑事だからといって、全員が聖人君子とは限らない。箸にも棒にもかからない人間は、どの世界にもいるものだ。賄賂を平気でとる政治家、万引きをする教師、恐喝で捕まる刑事。そんな者は、昔からいたのだ。
(2)かつての歌舞伎町は異質な空気を放っていた。
「歌舞伎町」のアーケードを通ったとたんに、周囲の空気が変わった感じを受ける。
感想
本作は、新宿歌舞伎町を舞台とした、事件である。そのため、日本各地を飛び回るトラベルミステリーとは、趣が異なる。が、よくよく考えてみると、十津川警部は警視庁の警部である。東京が舞台になるのは、当然なのだ。
ただ、本作は、東京が舞台になっていることを実感させるスピード感がある。日本一の歓楽街である歌舞伎町らしく、次から次へと事件が起こる。目が回るくらいのスピードだ。
建て続けに起こる事件を、歌舞伎署の署長・小早川が、圧倒的なスピードで解決していく。凄まじいスピードだ。この圧倒的なスピード解決には、裏があり、この裏こそが、今回の事件の本質でもあるのだが、この裏の中身については、本書を読んでもらいたい。
とにかく、サスペンスフルでスピード感があるので、夢中になって読んでいたら、すぐ読み終わってしまうだろう。
最後に、今回の事件は、物語の前半で、誰が黒幕なのか?だいたい想像がつくのである。犯人探しというよりかは、十津川が黒幕の尻尾を掴んでいく過程に面白さがあるといっていいだろう。
この黒幕について、十津川が語っていることばが実に印象的。最後にこの言葉を紹介して、終わりにする。
「昔から頭が良かった。ただ、若い時は、それに正義感が伴っていたんだ。青年の純朴といってもいい。それが、頭の良さだけは、残っていて、正義感と潔癖さは、徐々に変質してしまったんだろうね」
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