初版発行日 2012年2月10日
発行出版社 文藝春秋
スタイル 長編
文化遺産・白川郷。伝説の秘薬の謎を追え!驚愕のラスト!!十津川警部の推理が冴え渡る。
あらすじ
雑誌「われらの時代」の編集者、若杉誠は、取材で名古屋と世界遺産・白川郷を訪れた。名古屋では新幹線の最先端技術を、白川郷では世界遺産の現状を取材したが、若杉には別の目的があった。白川郷に古くから伝わるがんの秘薬を入手することー。その薬をめぐって起きた殺人事件は、二〇二七年開業予定のリニア中央新幹線計画と、見えない糸でつながっていた。リニア新幹線=日本の「未来」と、世界遺産=守るべき日本の古き良き「過去」が、十津川警部の中で結びついていく。
小説の目次
- 未来と過去と
- 高速鉄道
- 議員団
- 抗議と反応
- 攻撃と沈黙
- 薬と信仰
- 対決
冒頭の文
三月八日、「時代」出版社が発行している月刊誌「われらの時代」の編集者、若杉誠と、カメラマンの渡辺愛花は、相反する二つの取材のために、新幹線「のぞみ」で東京から名古屋に向かった。
小説に登場した舞台
- リニア・鉄道館(愛知県名古屋市港区)
- 山本屋本店 大門本店(愛知県名古屋市中村区)
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- ワイドビューひだ
- 白川郷(岐阜県・白川村)
- 白川郷 お食事処いろり(岐阜県・白川村)
- 藤が丘駅(愛知県名古屋市名東区)
- 白川郷合掌造り民家園(岐阜県・白川村)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 若杉誠:
30歳。月刊誌「われらの時代」の編集者。 - 渡辺愛花:
26歳。カメラマン。 - 小野田圭介:
若杉誠の大学の先輩。2年前から白川郷に住んでいる。資産家の息子。 - 小野田静香:
小野田圭介の妻。 - 小野田麻里:
7歳。小野田圭介の娘。小児がんを患っていたが、白川郷の秘薬を飲んだら回復した。 - 坂東勲:
M製薬の新薬開発部門で働いている。若杉誠の高校時代の同級生。 - 大西:
高速鉄道研究所の所長。 - 浅井敏夫:
代議士。 - 楠:
K製薬の新薬研究所の所長。 - 小川肇:
楠所長の個人秘書。
その他の登場人物
- 松野:
白川郷の診療所の医師。 - 本間:
月刊誌「われらの時代」の編集長。 - 金井香織:
高速鉄道研究所の秘書。 - 三谷:
JR東海の広報部長。 - 宇田川:
M製薬の新薬開発部門の責任者。 - 木田:
白川郷の博物館の館長。 - 上田博司:
失業中。坂東勲の大学時代の友人。 - 市川隆司:
浅井敏夫の秘書。 - 古木義男:
高速鉄道研究所の所員。 - 高橋:
弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)リニア新幹線と白川郷の共通点。
「ボクの中では、往復というよりも、新幹線の現代と、世界遺産の古代とが、どこかで、一致するんじゃないかと思ってね」
(2)白川郷はかつて時代の最先端だった。
世に取り残された村なのではなくて、その時代には、日本という国の、最先端を行くモノづくりの村だったのです」
感想
本作は、白川郷の秘薬が、その根本にある殺人事件と、リニア新幹線の所長と政治家との攻防、2つのストーリーが同時並行で進む。
リニア新幹線の攻防は、いわゆる”利権”との戦いである。
リニア新幹線の駅が近隣にあれば、注目され発展する。だから、利権が生まれる。政治家が登場し、リニア新幹線の経路について、もっともな理由をつけてあれこれ要求してくる。平たく言えば、自分の選挙基盤になっている場所に駅を作れと要求してくるのだ。
「この十一人の先生方の意見を入れたら、リニア中央新幹線が、何時間かかるか、どう曲げられてしまうか、わかったものじゃないぞ」
画期的だったはずのモノが、いろいろな横槍や意見を取り入れた結果、凡庸なモノに成り果ててしまったという事例は、枚挙にいとまがない。
だから、高速鉄道研究所の大西は、次のように話している。
「向うは、人情でくるさ。東京、大阪以外の人は、どうするんだ。リニアが走っても、利益を得るのは、東京、大阪の人間だけだ。だから、Nにも停めろとね。そのうちに、Nに住む人たちの署名簿を、送ってくるよ。それに、こちらも人情で対応していら、負けてしまう。だから、科学と数学で対応する。この二つは、冷徹な公理と数学だから動かすことは、出来ない。」
このリニア新幹線の攻防のストーリーは、まるでノンフィクションのように、読み応えがある。2011年から2012年当時から話題になっていた、リニア新幹線の問題を描いているからだ。
では、このリニア新幹線の攻防が、白川郷の秘薬を原因とした殺人事件にどう結びつき、つながっていくのか?ここが、西村京太郎先生の腕の見せどころである。
すべてを読み終わったとき、こう思うだろう。
「すべての道は白川郷につづいていた」
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