初版発行日 2011年3月4日
発行出版社 集英社
スタイル 長編
官僚の出世争い、事故をめぐる利害関係の衝突、複雑怪奇な官僚の闘争を描いた社会はミステリー!正義を糾すため、十津川警部が難事件の究明に果敢に挑む!
あらすじ
K省官僚の合田仙一が深夜帰宅途中に襲撃され、意識不明の重体に。妻の智子は、長野県諏訪へ向かい、夫の愛唱歌『琵琶湖周航の歌』のオルゴールを注文。看病にそのメロディを聴かせ、意識回復に望みをかける。十津川警部は、合田が太平洋航空機事故の審議委員だったことを知る。だが、K省関係者から、情報を得られぬまま、事故調査の結論が発表。折しも、経営不振の太平洋航空に絡む不穏な動きが……。官僚襲撃の裏に、航空機事故隠蔽の陰謀か!?
小説の目次
- 一撃
- テレビ
- 航空機事故
- 天竜下りとソースかつ丼
- 嘘と真実と
- 特急「伊那路三号」
- 心の旋律
冒頭の文
それは突然だった。
小説に登場した舞台
- 下諏訪駅(長野県・下諏訪町)
- 日本電産サンキョーオルゴール記念館すわのね(長野県・下諏訪町)
- 松江(島根県松江市)
- 富山空港(富山県富山市)
- 飯田線
- 天竜峡駅(長野県飯田市)
- 駒ヶ根駅(長野県駒ヶ根市)
- 木曽駒ヶ岳(長野県上松町・木曽町・宮田村)
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 豊橋駅(愛知県豊橋市)
- ワイドビュー伊那路
- 飯田駅(長野県飯田市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 合田仙一:
50歳。K省官僚の部長。帰宅途中に襲撃されて意識不明の重体。太平洋航空機事故の事故調査委員をしていた。 - 合田智子:
45歳。合田仙一の妻。 - 合田あかり:
22歳。合田仙一の娘。 - 三村:
脳外科専門の医師。 - 浜中進:
K省官僚。。太平洋航空機事故の事故調査委員。 松江にある日本ハイウェイ研究所の理事長に就任した。 - 小林啓太:
31歳。K省の吉永信一郎大臣の秘書。 - 篠崎明:
太平洋航空の社長。元K省の事務次官。 - 富岡誠:
太平洋航空の副社長。 - 高橋秀之:
日本ハイウェイ研究所の所員。 - 江藤:
警察庁審議官。
その他の登場人物
- 山城清二:
56歳。個人タクシーの運転手。 - 村田:
オルゴール工房の責任者。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 三島征夫:
中央テレビのプロデューサー。 - 原田明彦:
S大学の教授。日本の航空機事故を研究している。 - 真田孝宏:
55歳。富山空港の空港長。 - 池田由美子:
旅館「富山館」の若女将。事故が起こった太平洋航空機の旅客機に乗っていた。 - 川本哲次:
「日本における航空機の発達と事故の歴史研究会」の所長。 - 小田敬一郎:
32歳。日本ハイウェイ研究所の業務主任。 - 溝口三郎:
50歳。K省の部長。 - 梅津雅彦:
太平洋航空の秘書課長。 - 井上良治:
60歳。合田仙一が住むマンションの管理人。 - 浅井:
N週刊誌の記者。 - 佐川:
N週刊誌の副編集長。 - 村川:
S週刊誌の編集長。 - 荒木純也:
30歳。合田仙一と同じマンションに住む住民。 - 荒木明菜:
荒木純也の妻。 - 羽田:
警視総監付きの警視。
印象に残った名言、名表現
■飯田線から見える自然美。
東を見れば、そこには、南アルプス、反対の西を見れば、中央アルプスが連なっていて、冬が近づくと、山々は、真っ白く化粧をする。また、天竜川に沿って、走っているので、有名な天竜下りを楽しむことがえきる。
感想
本作は、本格的社会派ミステリーと、言っていいだろう。
事件の背景には、太平洋航空機事故の原因捜査をめぐる利害関係、政治的闘争、官僚内の出世争いがある。ここに警察上層部がからんでいく。まさに、魑魅魍魎の世界である。
そのため、特に前半は、難しい内容になっている。トラベルミステリーを期待している読者にとっては、重く感じるかもしれない。この重さは、社会派ミステリーのそれだろう。
ただ、トラベルミステリーとしての、旅情を感じさせるシーンも盛り込まれている。飯田線の絶景や、天竜下りで智子が民謡を唄うシーン、駒ヶ根名物のソースかつ丼も登場する。伊那路を走りながら、『琵琶湖周航の歌』のオルゴールを流すシーンも、郷愁がただよう。
トラベルミステリーファンにも配慮しているところが、西村京太郎先生のぬかりのなさである。
社会派でも旅情でもないが、すごく面白いと感じたのが一つ。
それは、週刊誌の買収工作について、詳しく描かれているところだ。
マンションの管理人、郵便配達員、隣に住む住民の盗聴、ヘリコプターから超望遠レンズを使って部屋の様子の写真を取ろうとするなど、あの手この手を使って、犯罪スレスレで情報を盗もうとうする、マスコミ各社の攻防が、とくに興味深かった。
マスコミはここまでやるのか?と、驚愕してしまった。
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