初版発行日 2008年9月10日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
失踪した老夫婦を追って、歴史と自然の地へー。十津川警部、”円空仏”の謎に挑む!
あらすじ
熟年雑誌の読者モデルをつとめる鈴木夫妻が失踪した。楽しみにしていたお伊勢参りの旅に出けかる当日、乗車予定の「のぞみ」に姿を見せなかったのだ。それどころか、二人の名を騙り旅行を続ける不審な中年カップルが出現。夫妻に何が起こったのか?捜索願が出されるが、直後、隅田川に他殺体が浮かぶ。遺体は伊勢路に現れたカップルの女性と判明。捜査に乗り出した十津川は、鈴木家で厳重に保管された円空仏を発見する。木彫りの仏像と事件に関わりはあるのか?謎を追って、十津川は伊勢志摩に向かうが……。
小説の目次
- 還暦の旅
- 失踪
- 小さな秘密
- 円空に賭ける
- 脱出・救助
- 京都別宅
- 逆転
冒頭の文
月刊誌「マイライフ」は、来るべき老人社会を見据えて、一昨年創刊された雑誌である。
小説に登場した舞台
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 伊勢志摩ライナー
- 宇治山田駅(三重県伊勢市)
- おかげ横丁(三重県伊勢市)
- 五十鈴川にかかる宇治橋(三重県伊勢市)
- 伊勢神宮(三重県伊勢市)
- ミキモト真珠島(三重県鳥羽市)
- 伊勢市駅(三重県伊勢市)
- 鳥羽駅(三重県鳥羽市)
- 賢島駅(三重県志摩市)
- 岐阜羽島駅(岐阜県羽島市)
- 近江長岡駅(滋賀県米原市)
- 関ケ原古戦場(岐阜県・関ケ原町)
- 醒ヶ井駅(滋賀県米原市)
- 醒井養鱒場(滋賀県米原市)
- 伊吹山(滋賀県米原市)
- 高山駅(岐阜県高山市)
- 上三之町通り(岐阜県高山市)
- 片田漁港(三重県志摩市)
- 立神の薬師堂(三重県志摩市)
- 弥勒寺(岐阜県関市)
- 奥多摩(東京都・奥多摩町)
- 払沢の滝(東京都・奥多摩町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 有田:
月刊誌「マイライフ」の編集長。 - 楠本弘志:
月刊誌「マイライフ」の編集者。 - 味岡みゆき:
月刊誌「マイライフ」の編集者。 - 鈴木明:
60歳。AK実業に勤務するサラリーマン。月刊誌「マイライフ」の読者モデル。 - 鈴木京子:
60歳。鈴木明の妻。月刊誌「マイライフ」の読者モデル。 - 小田天成:
60歳。資産家。美術品収集家。 - 近藤康友:
資産家。美術品収集家。数年前、飛行機事故で亡くなる。 - 近藤房江:
近藤康友の妻。
その他の登場人物
- 鈴木徹:
30歳。鈴木夫妻の息子。 - 鈴木さくら:
26歳。鈴木夫妻の娘。 - 井上健一:
三鷹署生活保安課の刑事。 - 中村:
三鷹署生活保安課の刑事。 - 太田美奈子:
鈴木夫妻が利用していた銀座にある旅行会社の係員。 - 安藤:
110番司令室の担当官。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 剣持:
三重県警の警部。 - 三宅優子:
小田天成のお手伝い。 - 片桐絹香:
小田天成が京都別邸に囲っている女。
印象に残った名言、名表現
(1)宇治山田駅のレトロな建物。
昔風の、宇治山田駅のアンティークな美しさに、二人は、鈴木夫妻のことを忘れて感動した。
駅舎は、クリーム色のタイルが貼られ、屋根が、スペイン風の赤で、駅舎の中は、八角形の明かり取りの窓があったりして、落ち着いた美しさを、醸し出していた。
(2)どんなに些細なことでも調べ尽くす。これが十津川流。
「われわれの考えが及ばないような過去のことが原因で、誘拐されたり、殺されたりすることもあるからな。念のため、調べてほしいんだ」
感想
本作には、二つのポイントがある。
一つは、円空仏である。
円空は、一六三二年、寛永九年、美濃国、今の岐阜県で、生まれている。その後、日本各地を巡礼しながら、生涯、十二万体の木像を彫ったといわれている。
円空がキーワードになっており、この円空の作品が事件の中心に添えられている。そのため、本作では、円空という人物について、円空の作品、円空と深く関わった場所が、登場するのだ。
よって、円空についてのあらましを学ぶことができる、教養の書になっている。
二つ目は、上質なミステリー作品であることだ。
本作は、ミステリーの王道である、大どんでん返しがある。この大どんでん返しを、最初から気づける読者は、それほど多くはないだろう。途中から、いくつかのヒントや伏線が顔を出し始めるので、勘の鋭い読者は、「もしかして!」と気づくかもしれない。
ちなみに、わたしは十津川警部が、答えを告げてくれるまで、気がつかなった。
この大どんでん返しを、十津川警部より先に、明かすことができるか?ぜひ、挑戦してもらいたい。
最後に、本作刊行にあたり、西村京太郎先生の談話が発表されいているので、紹介しておこう。
毎年、日本各地に取材に行くと、思わぬ事件、事故にぶつかることがある。伊勢志摩の取材の時も、赤福事件が起きた。
あの時は、赤福が、悪者扱いされたが、丁度、伊勢に行っていた私の眼から見ると、赤福は、とても悪者には見えなかった。今、観光客で賑わう、「おかげ横丁」は、赤福が建てたもので、赤福が復活すると、みんなが祝福した。こんなことは、現地に行かないとわからないから、誰が善者で、誰が悪者かも、簡単にはわからない世の中である。
コメント