初版発行日 1993年10月25日
発行出版社 光文社
スタイル 短編集
伊豆の河津・下田・鬼怒川・会津若松ー名勝の地を舞台に十津川警部の反撃が冴える短編集!
あらすじ
1.河津七滝に消えた女
十津川警部が、妻の直子と伊豆旅行中に出会ったOLたちのグループの1人、東郷由美子が、河津七滝で行方不明に……。一ヶ月後、彼女の殺害死体が、国立市の豪邸地下室で発見された。事件を追う十津川の前に立ちはだかる数々の謎。ー由美子はなぜ突然、グループ旅行に加わったのか?絵が好きでもないのに、なぜスケッチブックを持参したのか?なぜ月収15万円の身なのに家賃13万円のマンションに住めたのか?由美子の隠された秘密!直子が撮ったスナップ写真は何を意味するのか?
2.鬼怒川心中事件
小説パーティ編集部に平木明名義で「鬼怒川心中事件」の原稿がFAXで送られてきた。しかし、平木明は自分が書いた小説でないという。平木明の死体が晴海埠頭で発見され、事件は意外な展開をむかえていく。「鬼怒川心中事件」の原稿をFAXしたのは誰なのか?
3.伊豆下田で消えた友へ
大学時代の友人・小島進から十津川警部宛に妙な手紙が届く。そこにはいま下田にいて、今度ゆっくり話したいと書いてあった。その後、小島進の死体が晴海埠頭で見つかる。さらに、別居中だった妻の小島みどりも殺されていた。なぜ小島進は十津川警部に妙な手紙を送ったのか?その背後にあった意外な真実とは?
小説に登場した舞台
1.河津七滝に消えた女
- エビ滝(静岡県・河津町)
- 蛇滝(静岡県・河津町)
- 初景滝 伊豆の踊り子の像(静岡県・河津町)
- 河津七滝(静岡県・河津町)
- 石廊崎(静岡県・南伊豆町)
- 蓮台寺温泉 清流荘(静岡県下田市)
- 伊豆急下田駅(静岡県下田市)
- スーパービュー踊り子
- 国分寺市内(東京都国分寺市)
- 数寄屋橋交番(東京都中央区)
- 警視庁本庁舎(東京都千代田区)
- 谷川岳パーキングエリア(群馬県・みなかみ町)
- 越後湯沢(新潟県・湯沢町)
2.鬼怒川心中事件
- 九品仏(東京都世田谷区)
- 浅草駅(東京都台東区)
- 特急スペーシアきぬ
- 鬼怒川温泉駅(栃木県日光市)
- 猪苗代湖(福島県・猪苗代町)
- 福岡空港(福岡市博多区)
3.伊豆下田で消えた友へ
- 晴海埠頭(東京都中央区)
- 蓮台寺駅(静岡県下田市)
- 蓮台寺温泉(静岡県下田市)
- 伊豆急下田駅(静岡県下田市)
- 石廊崎(静岡県・南伊豆町)
- 特急スーパーひたち115号
- 大洗海岸(茨城県・大洗町)
- 特急踊り子111号
登場人物
1.河津七滝に消えた女
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 広田:
警視庁の警部。十津川の先輩。10月に発生した現金強奪事件の捜査をしている。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 東郷由美子:
23歳。世田谷区成城在住。東京の電機メーカーのOL。河津七滝で行方不明になる。 - 藤田義郎:
東郷由美子の同期。 - 原アキ子:
東郷由美子の同期。 - ひろみ:
銀座のクラブ「アモーレ」のホステス。 - 石川敬:
35歳。去年の10月にサイパンで不正と暴行によりW建設をクビになった男。 - 成田誠:
30歳。警備会社勤務。独身。
2.鬼怒川心中事件
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 平木明:
45歳。作家。 - 長谷川真:
小説パーティの編集長。 - 青木美矢子:
平木明を担当している編集者。 - 足立:
編集部長。 - 新見ゆか:
33歳。平木明の妻。 - 竹田:
鬼怒川警察署の警部。 - 木目みどり:
平木明が交際していた女性。東京のK大学の大学生。 - 広田:
作家。 - 関根冴子:
新見ゆかの友人。 - 加東:
鬼怒川温泉のタクシー運転手。
3.伊豆下田で消えた友へ
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。 - 佐伯:
初動捜査班の警部。 - 小島進:
40歳。R食品の営業部長。十津川警部の大学時代の友人。晴海埠頭で死体として見つかる。 - 小島みゆき:
小島進の妻。 - 林:
下田署の刑事。 - 今里亜矢子:
小島みゆきの友人。銀座で画廊をやっている。 - 角田:
R食品の管理部長。 - 大久保敬:
R食品の労務管理部長。 - 良子:
小島みゆきの母。 - 神埼ゆう子:
S銀行東京支店に務める銀行員。小島進と交際していたが、心筋梗塞で亡くなる。 - 井上かおる:
S銀行東京支店に務める銀行員。神埼ゆう子の友人。
個人的メモ
- 十津川警部の妻が事件解決の突破口を開く。女性的な視点が鋭い。
- 小説になぞらえた事件と思わせる巧妙な仕掛け。
- 十津川警部が犯人たちにかける絶妙な揺さぶり。一番痛いところをつく。
・「伊豆・河津七滝に消えた女」→”スケッチブック”。
・「鬼怒川心中事件」→”小説”
・「伊豆下田で消えた友へ」→”ダイエット食品”
・「伊豆・河津七滝に消えた女」→なぜ東郷由美子はスケッチブックを持参したのか?
・「鬼怒川心中事件」→誰が「鬼怒川心中事件」の原稿をFAXしたのか?
・「伊豆下田で消えた友へ」→なぜ小島進は十津川警部に手紙をよこしたのか?
総評
十津川警部シリーズの魅力のひとつは、人間心理をついた十津川警部の揺さぶりである。本作の短編集でも、十津川警部の見事な心理誘導が炸裂した。
「鬼怒川心中事件」では、容疑者に揺さぶりとプレッシャーを掛けるために、あえて捜査の進捗をこまめに容疑者に伝える。「自分たちはどんどんあなたに近づいていっているよ」とプレッシャーを与えるためだ。
そのプレッシャーに耐えられなくなった、容疑者は鬼怒川温泉に動き出す。
また、「伊豆下田で消えた友へ」では、会社の販売会議で録音されたテープは、大久保が罪を逃れるために提出したと幹部連中にいうと脅す。会社人間の大久保は会社に見限られる=死を意味するので、それだけはやめてくれと騒ぎ出す。大久保は自供する。
相手が一番いやなことは何かを冷静に分析し、そこを徹底的につく。これが十津川警部の真骨頂だと思う。今回もほんとうに見事だった。
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