初版発行日 1995年7月20日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
全知全能のライバル出現に苦悩する十津川警部!死力を尽くした頭脳戦の結末は?
あらすじ
人気超能力者の田代貢が念力による殺人を宣言、批判者の大学助教授が自宅で死んだ。凶器、目撃者がない、立証不能の犯罪である。一躍、時の人となった田代は「北へ向かって走る列車で女が死ぬ」と新たな殺人を予告。だが、厳重な警戒の中、またしても死体が……。捜査陣を翻弄する田代は、やがて南関東の大地震を予言した!神をも恐れぬ田代の、真の目的は何なのか?
小説の目次
- 殺人方程式
- 背後の影
- G1レース
- 危険な賭け
- 破局
- やまびこ39号
- 再び北へ
冒頭の文
中央テレビの『あれこれ法律相談室』の収録が終わり、そのあと、お茶になった。中西ディレクターを中心に、軽く反省会という感じになる。
小説に登場した舞台
- 東京駅(東京都千代田区)
- 山形駅(山形県山形市)
- 寝台特急北斗星
- 札幌駅(北海道札幌市北区)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
北海道警の警部。 - 三宅:
大阪府警の警部。 - 高田:
宮城県警の警部。 - 橋本実(後の橋本豊):
私立探偵。警視庁捜査一課の元刑事で、十津川警部の元部下。
事件関係者
- 田代貢:
37歳。人気超能力者。秋田沖地震を予言したことで一躍有名になった。 - 生方昭夫:
41歳。N大学の助教授。世田谷区成城のマンションに在住。田代貢が「念力で殺す」と指定した後、自宅で死体となって発見された。 - 篠原由加:
24歳。Iデパートの紳士装身具売り場に勤務。杉並区高井戸のマンションに在住。田代貢の予言通り、寝台特急北斗星の車内で死体となって発見された。 - 杉山:
42歳。神田に事務所を構える私立探偵。田代貢が契約していると噂されている。 - 黒川:
代議士。元国務大臣。 - 平井:
35歳。黒川代議士の秘書。 - 川村正:
元K組の組員。 - 入江明:
45歳。西新宿にある「サン交易KK」の社長。 - 堀込悠一郎:
50歳。「サン交易KK」の役員。 - 倉田勇:
39歳。「サン交易KK」の役員。 - 福田隆:
42歳。「サン交易KK」の役員。 - 塚本秀樹:
48歳。元暴力団員。
その他の登場人物
- 中西:
中央テレビの『あれこれ法律相談室』のディレクター。 - 原田:
中央テレビのアナウンサー。 - 桂小鈴:
若手落語家。『あれこれ法律相談室』のレギュラー。 - 今井可奈子:
女流漫画家。『あれこれ法律相談室』のレギュラー。 - 木本康夫:
ベテラン弁護士。『あれこれ法律相談室』のレギュラー。 - 若宮けい子:
タレント。 - 林ゆかり:
女性歌手。 - 山下:
寝台特急北斗星の専務車掌。 - 古川光彦:
29歳。R交易副社長の息子。中野のマンションに在住。篠原由加の恋人。 - 立花:
S製薬に勤務。阿佐ヶ谷のマンションに在住。篠原由加に惚れていた男。 - 川口ひろみ:
人探しテレビ番組で田代貢に行方不明になった息子を捜してほしいと依頼した女性。 - 川口茂:
川口ひろみの息子。去年の10月、学校帰りに行方不明になった。田代貢が調べ、ラーメンキング福島店で働いていることがわかった。 - 藤沼:
タレント。G1レース「秋花賞」中継番組に出演。 - 本郷:
タレント。G1レース「秋花賞」中継番組に出演。 - 君原:
G1レース「秋花賞」中継番組のアナウンサー。 - 賀山:
評論家。田代貢が南関東地震を予言した番組に出演していた評論家。 - 荒木肇:
56歳。蒲田にあるベアリング会社の社長。以前、サン交易KKを告訴した。
印象に残った名言、名表現
■現代社会の病理。
現代は、未来の見えない時代といわれる。自由が、大きくなればなるほど、将来が、不安定になる。十年先どころか、明日の自分もわからない。だから、占いが流行する。
感想
本作は、1995年に刊行された作品である。当然だが、2021年現在とは、社会的背景が異なっている。
現在、超能力者や霊能者といった類の人物が、テレビなどで取り上げられることはほとんどない。恐らく、インターネットが発達し、物事の検証を、即座に行えるようになったからだと思う。また、超能力や霊能者を信じている人が、ほとんどいなくなったという理由もあるかもしれない。
だが、1990年代ころまでは、超能力者や霊能者が、よく、テレビに登場していたのだ。
とくに、心霊写真をもちだして、これは幽霊の仕業だと、解説している霊能者が数多くいた。
だが、写真がデジタル化されたことで心霊写真がなくなり、また、「心霊写真は、現像ミスによって起こるものだ」という写真屋なら誰もが知っていたことが、社会認知されたことで、霊能者は、表舞台から姿を消していった。
しかし、1990年代までは、そうした技術も社会的背景もないため、超能力者や霊能者、予言者といった人物を信じている人たちが、一定数いたのだろう。
こんな時代背景のもとに、本作がある。
ただ、本作は、超能力者のインチキを見破る事件ではない。この裏に、巨額の詐欺事件があり、詐欺事件にからんだ殺人事件がある。
これを捜査していくのが、本作の、主要命題であった。ミステリーの内容については、本書を手にとって、確かめてもらいたい。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
予言とか、超能力といったものは、どこか、うさん臭い。しかし、予言や超能力に人気があるのも、多分、この、うさん臭さのせいだろう。2プラス2イコール4といった、きちんと答が出るものだったら、信用はするだろうが、面白みは、感じられないからである。
うさん臭いものは、信じようが、それとも信じないようにしようが、各自の判断に委せられる。それは、賭けである。それも、危険な賭けになる。だからこそ、人々は、一層、予言と、超能力に惹かれるのだろう。
この二つを、利用して、犯罪を企む人間がいたら、どういうことになるのか。そんなことを考えているうちに生まれた作品である。
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