初版発行日 1994年7月20日
発行出版社 祥伝社
スタイル 長編
私の評価
萩の撲殺死体と津和野の服毒死体。二つを結ぶ十津川警部の苦悩!
あらすじ
”あいつを殺す”との置手紙を残し、OL木下由美子が姿を消し、後を追うように恋人の白井も姿を消した。事件を未然に防ごうとした十津川だったが、山口県萩で白井の撲殺死体が発見され、津和野城跡で由美子の服毒死体が発見された。事件は、彼女が白井を殺害した結果の自殺と見られた。が、不審を抱く十津川は独自の捜査を開始した。二転三転する事件と犯人像。やがて露呈する信じられない結末……。
小説の目次
- ある旅立ち
- 萩・菊ヶ浜
- 遺書
- モンタージュの男
- 裁判
- 遠い疑惑
- 留学
- 悲しみの終章
冒頭の文
井の頭公園近くの派出所に、一人の女が、青い顔で、駆け込んで来た。
小説に登場した舞台
- 山口宇部空港(山口県宇部市)
- 小郡駅(現・新山口駅)(山口県山口市)
- 特急「おき6号」
- 津和野駅(島根県・津和野町)
- 津和野殿町通り(島根県・津和野町)
- 津和野城跡(島根県・津和野町)
- 森鴎外旧宅(島根県・津和野町)
- 菊ヶ浜(山口県萩市)
- 東萩駅(山口県萩市)
- 益田駅(島根県益田市)
- 東光寺(山口県萩市)
- 旧萩藩校明倫館(山口県萩市)
- 松陰神社(山口県萩市)
- 太皷谷稲成神社(島根県・津和野町)
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 松江駅(島根県松江市)
- ホテル一畑(島根県松江市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 広田:
井の頭公園派出所の巡査。 - 青木:
30歳。井の頭公園派出所の巡査。 - 浅野:
津和野署の刑事。 - 室井:
萩署の刑事。 - 青木:
山口県警の刑事。 - 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。 - 市川:
50歳。検事。
事件関係者
- 木下由美子:
24歳。M銀行井の頭支店の行員。井の頭公園近くのマンションに在住。「あいつを殺しにいきます」という置手紙を残して失踪した。その後、津和野城跡近くの林で毒殺死体となって発見された。 - 木下とし子:
45歳。木下由美子の母親。 - 木下悟:
木下由美子の父親。新宿にある「S旅行社」に勤務。 - 木下冴子:
19歳。木下由美子の妹。短大一年生。 - 白井敬一郎:
M銀行井の頭支店の行員。木下由美子の恋人。阿佐ヶ谷のマンションに在住。菊ヶ浜で撲殺死体となって発見された。 - 早見まり子:
25歳。新宿にあるカメラ店に勤務。木下由美子の親友。世田谷区代田のマンションに在住。自宅で絞殺死体となって発見された。 - 岡崎幸男:
28歳。無職。親の遺産で暮らしている。世田谷区松原のマンションに在住。津和野の稲成神社で死体となって発見された。 - 岡崎まゆみ:
岡崎幸男の妹。 - 高橋ふゆみ:
21歳。女子大生。大阪・豊中市に在住。津和野の稲成神社で男に襲われて負傷した。 - 天野博:
30歳。フリーカメラマン。津和野で女性を襲ったと自首してきた男。
その他の登場人物
- 東田:
益田市の個人タクシー運転手。 - 浅井亜紀:
木下由美子の高校時代の親友。練馬区のメッキ工場の事務員。 - 小田中勇:
弁護士。 - 三原:
38歳。天野博の弁護士。 - 戸田:
木下冴子が通っている短大の学生部長。 - 岩崎:
K新聞の記者。
印象に残った名言、名表現
■津和野の「掘割りの鯉」。
武家屋敷を、そのまま使ったような町役場、可愛らしいカトリック教会、アンティックなレストランなどが並ぶ通りの両側に、掘割りがあり、片側に、鯉が、放流されている。
感想
津和野と萩の旅情あふれる描写、二転三転するストーリー展開、そして、驚くべき事件の真相と結末。すべてのバランスが取れた良作ミステリーだったと思う。
今回の事件の真相は、ほんとうに驚くべきものだった。
ミステリー小説だから、当然、”疑ってかかる”。前半で事件が解決したように見えたが、読者は「当然、真相は別にあるのだろう」と思いながら読み進める。もちろん、わたしもそうだった。
読み進めるうちに、「恐らく、こいつが真犯人でこんな展開なのではないだろうか?」と思って読み進めていたが、事件の真相は、私の予想の斜め上をいくものだった。
この大どんでん返しを、十津川警部より先に気がつくことができるか?ぜひ、トライしてみてほしい。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
山口県の萩と島根県の津和野は、小さな町である。特に、津和野は、人口が少なく、いまだに、市ではなく、町である。歩いて、ゆっくりと観光するのに適しているし、気ぜわしい人でも、自転車を利用すれば、簡単に廻ることが出来る。津和野の町に行くと、やたらに、レンタ・サイクルの看板が、眼につく。
萩は、津和野より広いが、行ってみて、共通して感じるのは、「控えめなたたずまい」である。歴史が売り物のはずなのに、それを、観光客に押しつけるところがない。この二つの町が、旅行客の心をつかんで放さない理由ではないだろうか?
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