初版発行日 2014年2月25日
発行出版社 中央公論新社
スタイル 長編
鳴子こけしが泣くとき、また一人の命が……。はじまりは鳴子温泉!山口、伊豆、東京…そして決着の地は京都!
あらすじ
IT業界の雄といわれた男が東京丸の内のホテルで刺殺され、現場には名人作の鳴子こけしが一体残されていた。やがて事件の数日前に不審死した女性の部屋から、同じ名人のこけしが五体持ち去られていたことが判明する。標的はあと四人いるのか!?果たして、SLやまぐち号を撮影していた女性カメラマンの死体が山口県徳佐駅近くで発見されると、そこにも鳴子こけしが。広域連続殺人に東奔西走する十津川警部と亀井刑事。被害者を結ぶ線と、犯人が鳴子こけしに託した思いとは!?
小説の目次
- 名物こけしが五本
- こけしが泣いて二人目が死んだ
- 第三の殺人
- 四人目の犠牲
- 三年前八月二十五日、雨
- 京都に追う
- 「大願成就」か罠か
冒頭の文
東京の千代田区にあるホテルKには、一泊百万円というスイートルームがある。外国の要人が、時々利用する部屋だが、五月十日のこの日に、泊まったのは、日本人だった。
小説に登場した舞台
- 鳴子温泉駅(宮城県大崎市)
- 鳴子温泉神社(宮城県大崎市)
- 日本こけし館(宮城県大崎市)
- 静岡県警察本部(静岡市葵区)
- 京都市役所(京都市中京区)
- 嵐山(京都市右京区)
- 渡月橋(京都市右京区)
- 野宮神社(京都市右京区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 片桐:
三鷹警察署の刑事。 - 青木:
山口県警の警部。 - 井上:
静岡県警の警部。 - 安藤:
宮城県警の警部。 - 近藤:
京都府警捜査一課の警部。
事件関係者
- 大河内敬一郎:
60歳。IT業界の雄。日本で十指に入る資産家。 - 仙太郎:
有名なこけし工人。85歳。 - 広田順子:
下町で和服の染色をしている女性。 - 矢次弥生:
30歳。写真家。世田谷区代田在住。 - 原田健介:
23歳。大手自動車メーカーの新入社員。 - 柴田康夫:
51歳。元歌手。 - 中島小枝子:
柴田康夫と交際している女性。 - 木下保:
42歳。トラベルライター。 - 井崎昭:
32歳の男。
その他の登場人物
- 小林正雄:
大河内の会社の副社長。 - 緒方純一:
大河内の個人秘書。 - 佐々木恵:
有名女性タレントで人気カリスマモデル。大河内敬一郎と交際していた。 - 太田:
日本こけし館にいるこけしの専門家。 - 渡辺:
Nデパートの外商部。 - 落合:
鳴子新報社のデスク。 - 金子大輔:
矢次弥生と仲の良かったカメラマン。 - 田代:
雑誌「中央旅行」の編集長。
印象に残った名言、名表現
(1)今回の事件の謎があまりにも奇妙なことに対し、十津川警部がいったことば。
「この事件が、奇妙に見えれば見えるほど、私としては、その謎を解決したくなる。その謎が分かった途端に、今回の事件は、あっさりと、解決するような気がしているんだ」
(2)捜査が袋小路になったとき、十津川警部が突破口を開くためにいったことば。
「今までに、起きたことだけを考えていたのでは、正しい結論は出てこないだろうと、思っている。」
「したがって、ここでは、少しばかり、飛躍した考えを持ち込んだほうがいいと、思っているんだ」
総評
本作は、連続殺人事件であることが明らかである。しかし被害者の共通点がまったく見えてこない。殺害現場には、なぜか「鳴子こけし」が置いてある。何とも何とも奇妙な事件である。
十津川警部たちは、何度も壁にぶち当たる。袋小路に迷い込む。推理の再考を余儀なくされる。それでも、小さなパズルをひとつひとつはめ直していく。十津川警部の”地道な捜査”によって、少しづつ事件の真相に近づいていく。
実際のストーリーについては、ここで明らかにできないので、本書を手にとってほしい。
最後に、十津川警部シリーズらしさがあふれる、”撮り鉄”に関する表現を紹介する。これは、「貴婦人号」と称され、撮り鉄に人気のSLやまぐち号の撮り鉄に関する一節である。
SLやまぐち号の始発駅、新山口駅の周辺には、いわゆる、撮り鉄たちが集まっていた。
撮り鉄の定番スポットの紹介。
誰もが推薦するいちばんの撮影ポイントは、鉄橋である。
知る人ぞ知る、撮り鉄ポイントについても言及している。
上り坂が撮影ポイントだという人もいる。上り坂にかかると、力を強くしなければならないので、くべる石炭の量も、多くなり、煙突から吐き出される黒煙も、多くなるので、力強いSLというイメージの写真が、撮れる可能性が、高くなるのだ。
暗闇のSLやまぐち号も人気らしい。
秋ともなれば、暗闇の中を走るC571機関車という、この季節ならではの写真を撮ることができる
SLやまぐち号の人気スポットの一つ。
津和野に近い徳佐駅の辺りには、一面の畑が、広がっていて、その田園風景の中を走るSLやまぐち号の姿も、撮影ポイントの、一つとなっている。
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