初版発行日 1983年6月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
元部下のために、十津川と亀井が立ち上がる。西村京太郎によるトラベルミステリー代表作の一つ!
あらすじ
刑事を辞めた田辺は、大阪で私立探偵を開業するが、なかなか客がこない。そこへ、娘と一緒に佐世保に行ってほしいとの母親からの依頼。美人のエスコートだ。喜んで引き受けた彼は、「あかつき」に乗り込んだ。同じ頃、佐賀市で殺人事件が発生、その容疑が田辺に!証拠は不利。
小説の目次
- 奇妙な依頼
- 第一の殺人
- アリバイ
- 四年前の事件
- 第二の殺人
- 国鉄佐賀駅
- 死亡診断書
- 姫路の町
- 終局
冒頭の文
田辺淳は、東京警視庁を依願退職すると、兄夫婦の住む大阪に行き、私立探偵の仕事を始めた。
小説に登場した舞台
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
- 寝台特急「あかつき3号」
- 大阪駅(大阪府大阪市北区)
- 姫路駅(兵庫県姫路市)
- 高橋駅(佐賀県武雄市)
- 早岐駅(長崎県佐世保市)
- 佐世保駅(長崎県佐世保市)
- 南九十九島(長崎県佐世保市)
- 梅田(大阪府大阪市北区)
- 下関駅(山口県下関市)
- 門司駅(福岡県北九州市門司区)
- 佐賀駅(佐賀県佐賀市)
- 呉服元町(佐賀県佐賀市)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 伏見稲荷大社(京都府京都市伏見区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
警察関係者
- 野崎:
佐賀県警捜査一課の部長刑事。 - 安元:
佐賀県警捜査一課の刑事。 - 吉井:
佐賀県警捜査一課長。 - 曾根:
大阪府警本部の部長刑事。 - 江島:
大阪府警捜査一課の警部。
事件関係者
- 田辺淳:
新大阪駅近くで私立探偵を営む。元警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の元部下。 - 坂口文子:
田辺淳に仕事の依頼をした女性。淀川区宮原に在住。大阪にあるクラブ「ふみ」のママ。 - 坂口良介:
65歳。坂口文子の夫。大阪にある佐世保交易の社長。すでに病死している。 - 坂口由美子:
坂口文子の娘。田辺淳のエスコートで佐世保に行った女性。 - 宝木真一郎:
坂口由美子の婚約者。梅田にある「宝木宝石店」の店主。 - 原田功:
40歳。詐欺や恐喝などの前科あり。4年前、田辺淳と西本刑事に恐喝容疑で逮捕した。都内に住んでいたが半年前に佐賀市白山のマンションに移り住んだ。自宅で刺殺死体となって発見された。 - 米山信吉:
新大阪駅近くに事務所をもつKOタクシーの運転手。田辺淳を乗せた運転手。田辺を乗せた後に退職し、現在は大田区田園調布に在住。自宅で死体となって発見された。 - 浅井三郎:
57歳。梅田駅近くにある綜合病院の院長。坂口良介の主治医。 - 川路美津枝:
かつて田辺淳と文通していた女性。北新地にあるクラブ「シバ」のホステスをしていたが、去年心臓発作で亡くなっている。出身は京都市伏見区。以前、坂口文子の営むクラブ「ふみ」のホステスだった。 - 田原政次郎:
姫路の資産家。現在行方不明。その後、千里の雑木林の中で見つかった身元不明の遺体だったことがわかる。
その他の登場人物
- 武宮玉枝:
60歳。坂口家の家政婦。 - 小田中徳子:
58歳。半年前まで坂口家の家政婦をしていた女性。佐賀出身で現在佐賀市の呉服元町に在住していたが、すでに他界している。 - 山本明子:
小田中徳子の姪。 - 西尾くに子:
佐賀市内のクラブ「マキシム」のホステス。 - 加代:
姫路市のS横丁にある居酒屋のママ。 - 本田:
加代のお店の常連客。 - 田原トク子:
田原政次郎の妻。 - 野村:
北新地にある野村不動産の社長。
印象に残った名言、名表現
■男は自分の都合のいいように解釈する。
酔っていたとはいえ、キスを許したのは、こちらに、気があるということではないのか。あわてて、押しのけたのも、こちらを嫌いだからではなく、恥しかったからであろう。
感想
本作は、タイトルにもある通り、寝台特急あかつき3号の特性を利用した、列車のアリバイトリックを見破るのが、クライマックスの一つになっている。
具体的には、門司駅で長崎行と佐世保行に分離した後、鹿児島本線と筑豊本線に分離して走るが、その後長崎本線を前後して走るという、あかつき3号だけの特性を利用したものであった。
事件の全体像としては、元警視庁捜査一課の刑事で現在は大阪で私立探偵を営む田辺淳が罠にはめられて殺人事件の容疑者に仕立て上げられ、その窮地を救うために、十津川警部が捜査を進めるという、十津川警部シリーズの王道パターンの一つである。
読者側としては田辺淳が罠に嵌められたことはわかっており、真犯人は序盤から見えている。だが、強固なアリバイ偽装があるため、それをロジックと証拠で崩していくのがテーマになる。
捜査を進めていく中で、過去の殺人事件が明るみになっていき、真犯人の人間的な背景も浮き彫りになっていくという構造であった。
本作は、十津川警部シリーズの中でも、名作の一つと言われており、前評判通りの力作であった。
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