初版発行日 2006年12月20日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
老画家の作品をめぐる女たちの欲望を十津川警部が追いつめる!ロマンあふれる筆致で、人生の愛と裏切りを描く、旅情ミステリーの傑作!
あらすじ
看護師・田代由美子の協力を得て、生涯最後の大作を描くために、三陸海岸の名勝・浄土ヶ浜に向かった老画家・篠崎源一郎。その周辺を調べる私立探偵が東京のホテルで殺され、十津川警部が三陸へ飛んだ。篠崎の妻、謎の美少女、そして女画商。篠崎の作品をめぐって、女たちの欲望が渦巻く!
小説の目次
- 脱出行
- レトロ列車
- 私立探偵
- 一人の少女像
- モデルの肖像
- 狐と狸の世界
- 天使堕落
冒頭の文
田代由美子は、私立の、総合病院の看護婦である。二十八歳の時に結婚し、妊娠したので、一度、看護婦を辞めている。
小説に登場した舞台
- 大宮駅(埼玉県さいたま市大宮区)
- 八戸駅(青森県八戸市)
- 久慈駅(岩手県久慈市)
- 宮古駅(岩手県宮古市)
- 浄土ヶ浜(岩手県宮古市)
- 上野の森美術館(東京都台東区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 田代由美子:
35歳。三田総合病院の看護師。 - 篠崎健一郎:
60歳。有名画家。ガンで三田総合病院に入院中。余命半年。 - 篠崎昌子:
32歳。篠崎健一郎の妻。 - 中沢啓一:
45歳。私立探偵。横浜市旭区に住む。新宿Kホテルにある喫茶店で何者かに毒をもられて死亡する。 - 楠木亜里砂:
14歳。小児喘息を治すために浄土ヶ浜に訪れた謎の美少女。 - 木下拓郎:
50歳。楠木亜里砂の叔父。経営コンサルタント。 - 大下亜矢子:
木下拓郎の妹。浄土ヶ浜で楠木亜里砂に付き添っていた女性。 - 花井久美:
画商。 - 宮本:
篠崎昌子の顧問弁護士。 - 片桐龍太郎:
弁護士。 - 原田卓司:
30歳。画家。篠崎昌子の不倫相手と噂されている。
その他の登場人物
- 三田:
三田総合病院の副院長。 - 高木加奈子:
三田総合病院の若手看護師。 - 湯浅茂:
画家。杉並区永福町にアトリエがある。篠崎健一郎の友人。 - 岡田晴雄:
久慈交通タクシーの運転手。 - 橋本豊:
私立探偵。警視庁捜査一課の元刑事。十津川警部の部下だった。 - 井上:
横浜の私立探偵。 - 森田慶子:
篠崎昌子の友人。
印象に残った名言、名表現
■浄土ヶ浜の景色。
屹立する白い岩肌、紺碧の海面、そして、白い小石の並ぶ砂浜が、見える。
観光客が、何人か見えた。頭上を、たくさんのウミネコが、鳴きながら、飛び交っている。観光客の一人が、何かエサらしきものを、空中に放り投げると、それに向かって、ウミネコが、いっせいに飛びかかる。
感想
本作は、金に群がる人間たちの欲望を描いた作品である。具体的には、余命わずかな一人の天才画家が描いた、最後にして最高の傑作を、めぐっておきた、女たちの欲望の戦いであった。
本作の構成は、十津川警部シリーズでは、珍しい部類に入ると、思う。
物語の半分くらいは、画家が看護師と浄土ヶ浜に行って、人生最後の絵を描きあげるまでの描写である。浄土ヶ浜の美しい描写と、画家のわがままに翻弄される看護師の物語がおもしろい。
だが、これだけで終わってしまったら、ミステリーにならない。
この画家が描いた作品をめぐり、殺人事件が起き、誘拐未遂事件も発生する。いや、そもそも、画家が絵を描きはじめた時点から、画家の絵を狙う女の作為が働いていたのだ。
本作に登場する人物たちは、一見、それぞれ自然な言動に見えるが、よく考えてみると、みんな少しずつ、何かがおかしい。
夫がいなくなったのにまったく探さない妻、患者と看護師が消えたのに捜索願を出さない副院長、画家がいる浄土ヶ浜にとつぜん現れた14歳の少女。タイミングよく登場する弁護士たち。
いずれも、金の亡者であろう。
だが、この中で殺人を犯した人物は誰なのか?ここが十津川班の最大の関心事である。真犯人はいったい誰なのか?ここからは、本作を手に取り、十津川警部の名推理を御覧いただきたい。
個人的な読後の感想としては、真犯人の動機が少し弱いかなぁと、感じた部分はあるが。
ちなみに、浄土ヶ浜を舞台にした作品に「三陸鉄道 北の愛傷歌」がある。三陸の風情あふれる情景と、哀しい愛の物語が交錯する名作。ぜひこちらも読んでもらいたい。
コメント