初版発行日 2004年12月20日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
沖縄の光と影を描いた社会派トラベルミステリー!基地の街を殺意が走る!
あらすじ
東京で殺された男が遺したダイイングメッセージ「ヒガサ」。沖縄に多い「比嘉」姓が捜査線上に浮かび、十津川は、那覇空港に降り立った。美しい故郷「沖縄」と、基地の街として、いまだ戦後を生きる「オキナワ」。米軍・GIの不審な行動を追う十津川は、事件の背後に、沖縄の悲劇を見た!
小説の目次
- ヒガサ
- 比嘉みどり
- GIと民謡
- 疑惑
- 糸満望郷
- 地位協定
- オキナワと沖縄
冒頭の文
JR巣鴨駅の近くに、典型的なビジネスホテルがある。七階建てで、狭いフロントには、受付の女性が、一人しかいない。しかも、その女性は、パートである。
小説に登場した舞台
- 那覇空港(沖縄県那覇市)
- 那覇空港駅(沖縄県那覇市)
- ゆいレール
- 首里駅(沖縄県那覇市)
- 首里城公園(沖縄県那覇市)
- 石垣空港(沖縄県石垣市)
- 竹富島(沖縄県・竹富町)
- 宮古島(沖縄県宮古島市)
- 名護城跡(沖縄県名護市)
- 海中展望塔(沖縄県名護市)
- コザ(沖縄県沖縄市)
- 糸満(沖縄県糸満市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 井上:
新宿署の刑事。 - 糸数:
沖縄県警の警部補。 - 比嘉大輔:
沖縄県警の刑事。 - 川上:
沖縄県警の刑事。
事件関係者
- 仲宗根雄介:
42歳。沖縄本島で経営コンサルタントをしている。巣鴨のビジネスホテルで殺されていた。 - 比嘉みどり:
那覇市内の旅行会社に勤務。糸満市出身。 - 比嘉さきこ:
27歳。比嘉みどりの姉。東京に在住。 - 戸田秀明:
40歳。東京にある「スバル音楽事務所」の社員。沖縄の民謡酒場をまわって、歌手のスカウトをしている。 - D・C・スタントン:
24歳。嘉手納基地所属の陸軍二等兵。沖縄市内のバーから出た後、何者かに射殺される。 - バークレイ:
35歳。嘉手納基地所属の陸軍二等兵。
その他の登場人物
- 城間:
沖縄本島にある救急病院の医師。 - 小田中:
比嘉みどりが働く旅行会社の社長。 - 吉田源三:
沖縄への旅行客。比嘉みどりが添乗員をつとめる。 - 吉田芙美子:
吉田源三の妻。 - 金城:
沖縄ハイヤーの運転手。 - 伊地知太郎:
糸満で釣具会社を営む。 - 伊地知春江:
70歳。伊地知太郎の母親。仲宗根雄介に比嘉さきこを探すように頼んでいた。 - 阿久根:
伊地知太郎が営む釣具会社の社員。 - 白井:
那覇市内にある救急病院の医師。
印象に残った名言、名表現
(1)沖縄の民謡酒場。
昔から、沖縄人は、歌が好きで、踊りが好きで、嬉しい時も悲しい時も、いつも歌を歌い、踊る。その沖縄人の気質が生んだのだが、民謡酒場だった。
(2)事態が大きく展開する気配。
東京で殺された仲宗根雄介という男は、一見、平凡に見える中年男だが、事態がここまで来ると、ただの平凡な中年男には、見えなくなってくる。少なくとも、彼の死は、平凡な死ではなくなった。
感想
沖縄には二つの側面がある。
一つは、観光地としての沖縄である。美しい海、穏やかな南国の雰囲気、美味しいお酒と料理。それは、明るくキラキラと輝いている。
もう一つは、政治・歴史としての沖縄である。太平洋戦争で唯一、本土決戦が行われた場所であり、多くの民間人が犠牲になった。戦後27年間も占領下にあり、返還後も、本島の15%が米軍基地になっている。
沖縄を語る上で、この米軍基地をはずして考えることはできないほど、その影響力は大きい。とくに、沖縄の大きな問題のひとつが、地位協定であると言われている。
本作でも、この地位協定が、事件の捜査に大きく影響しており、次のように、説明されていた。
地位協定の中に、裁判権というものが、規定されている。
それによれば、基地で働く軍人、軍属、あるいは、その家族が、公務中に起こした事故については、基地の司令官に、権限があると、記されている。
市内で、アメリカ兵や軍属や、あるいはその家族が、車で、沖縄の人間を、はねたとしても、その犯人が、基地に向かって急いでいるとなれば、公務中となり、裁判権は地位協定によって、基地の司令官に、権限があることになってしまう。
日本政府も、この地位協定の見直しを、何度も要望しているが、ほとんど実現していないと言われている。それは、2021年現在においても、変わっていない。
この地位協定があるから、本作も、完全な事件解決とならないのである。本作の結末にも、沖縄の現実が色濃く反映されているのだ。
旅としての沖縄と、社会問題としてのオキナワを、物語の上に乗せて描いている。いわば、社会派トラベルミステリーと言えるだろう。読み応え抜群である。
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