初版発行日 2011年12月10日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 長編
事件は東京の下町から始まったー。小樽に潜む歴史の哀しみが新たな事件の謎を呼ぶ!十津川警部、北の大地へ飛ぶ!
あらすじ
東京の下町で居酒屋を営む男のもとに、訳ありげな若い女が転がり込む。だが突如失踪し、女も自分と同じ小樽出身であることを男が知った翌日、新小樽新聞の東京支社長が何者かに殺される。ふたつの事件につながりはあるのか?男はなぜ故郷を追われたのか?捜査を開始した十津川警部は、事件の真相を探るため小樽に飛ぶが、新聞社の周辺ではさらに不審な動きが……。
小説の目次
- 一人の男の履歴
- 北の街
- 過去に向かって
- 携帯電話
- 帰郷
- 小豆景気
- 帰らざる北の駅、小樽よ
冒頭の文
東武伊勢崎線を、鐘ヶ淵駅で降りると、その周辺は、典型的な、東京の下町である。荒川と隅田川に挟まれた、この町の正式な名称は、墨田区鐘ヶ淵である。
小説に登場した舞台
- 鐘ヶ淵(東京都墨田区)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 国立国会図書館支部上野図書館(東京都台東区)
- 小樽警察署(北海道小樽市)
- 小樽港(北海道小樽市)
- 小樽駅(北海道小樽市)
- 水天宮(北海道小樽市)
- 栄町本通り(北海道小樽市)
- 小樽運河(北海道小樽市)
- 南小樽駅(北海道小樽市)
- おたる水族館(北海道小樽市)
- 小樽グランドホテルクラシック(現・UNWIND HOTEL&BAR OTARU)(北海道小樽市)
- 琴似駅(北海道札幌市西区)
- 銭函駅(北海道小樽市)
- 札幌(北海道札幌市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
事件関係者
- 合田勝郎:
小樽出身。鐘ヶ淵の居酒屋「北国」を先代のママに代わって営む男。 - 井上勝敏:
アルミ弁当箱製造工場の社長。「北国」の常連客。 - 水沼江美:
25歳。合田が営む居酒屋「北国」で働くことになった。 - 池永実:
新小樽新聞東京支社の支社長。50歳。 - 小野寺圭:
若手の作家。35歳。新小樽新聞で小説『小樽ストーリー』の連載を始めた。 - 徳大寺功:
26歳。新小樽新聞社の若手記者。 - 南田清之:
小樽市議会の議長。5年前に自殺している。 - 柏木進:
36歳。無職。小樽市在住。 - 浅井修:
私立探偵。5年前、南田清之の秘書をやっていた。元小樽署の刑事でもある。 - 広田専永:
小樽の第一法律事務所の所長。新小樽新聞社の顧問弁護士。北海道総合農業進興会の理事長。 - 合田亜紀:
合田勝郎の妻。 - 橋本:
新小樽新聞社の社長。 - 崎田明:
30歳。広田専永の秘書。 - 野村功:
広田専永の秘書。
その他の登場人物
- 池永紀美子:
45歳。池永実の妻。 - 相原:
北海道警の警部。 - 南田智子:
南田清之の妻。 - 木下:
新小樽新聞社のベテラン記者。 - 三木市郎:
小樽のガラス工房の責任者。
印象に残った名言、名表現
(1)物事が動き出す、狼煙。
これは偶然だろうか?
おれがやっている店に、小樽の女が、突然現れた。しかも、その女が、何者かの手で、誘拐された。
何かが、再び、始まろうとしている、と合田は思った。
(2)外から見るのと、中から見るのとでは、まったく違う印象になる。どんな街もそうなのかもしれない。
「警部さんは、小樽は、ロマンチックな街に見えるといわれたが、僕から見ると、ロマンチックな街なんかじゃありませんね。どちらかといえば、小樽は、荒々しい街ですよ。街も空気も、荒っぽい。」
(3)新小樽新聞社の社長が語った小樽人の特徴。とくに抵抗精神は、北海道人に共通した性格だと思う。中央に安易に迎合しない。
「私は、小樽人の性格には、三つの特徴があると思っています。一つは頑固であること、2つ目は正直であること、そして、三つ目は進取、要するに、社会の先端を走るということですが、これは抵抗精神でもあります。」
感想
冒頭は、東京の下町・鐘ヶ淵のチューハイ街道にある居酒屋「北国」。下町らしい人情あふれる人間模様が描かれる。
次に、小樽の歴史についての描写がある。それは、作家の小野寺圭の小説『小樽ストーリー』を通して、描かれていく。
この小樽についての歴史描写が、実に秀逸である。
北海道の近代の歴史の出発点となったのが小樽であり、明治維新の小樽の開拓、黒田清隆の赤磐砲撃事件にいたるまで、詳細に描かれている。
また、北海道は”開拓の歴史”といわれているが、アイヌ民族にとっては、侵略された歴史でもある。さらに、明治維新で活躍した志士も、政府の要職につくと、派閥を作り、財界から賄賂を受け取るようになり、けっきょく、徳川幕府とやっていることは変わらなかった。と記載している。
こうした、北海道史の光と闇について、詳しく書かれているのだ。これだけでも、読み応えがある。
もちろん、ミステリーも非常に面白い。今回は、十津川警部の活躍は、サイドストーリー的になっており、メインの主人公は、小樽出身で、5年前の事件の渦中にいた合田勝郎である。
彼は、力強く、賢く、それでいて、優しく繊細な男。訳ありでどこか影がある。合田勝郎の生き様を、哀しい最後を、ぜひ見届けてほしい。
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