初版発行日 2011年1月20日
発行出版社 実業之日本社
スタイル 長編
あらすじ
現職の法務大臣の愛娘が姿を消し、「君は飯島町を知っているか?」という謎のメッセージが。折しも首相の政治資金疑惑で東京地検特捜部は秘書を逮捕し、首相にも捜査の目が向けられつつあった。検察の手が首相に及べば、法務大臣は指揮権発動という伝家の宝刀を抜くかもしれない。疾走した娘を捜せと内密に命令を受けた十津川は、捜査の結果、長野県飯島町に導かれる!
小説の目次
- 君は飯島町を知っているか?
- 草莽の人
- 攻防の開始
- Dデイ
- 戦いの時
- 駆け引き
- 赤と白の記憶
小説に登場した舞台
- 飯島駅(長野県・飯島町)
- 飯島陣屋(長野県・飯島町)
- 飯島町役場(長野県・飯島町)
- 駒ヶ根駅(長野県駒ヶ根市)
- 飯島町陣嶺館(飯島町歴史民俗資料館)(長野県・飯島町)
- 千人塚公園(長野県・飯島町)
- 志をじ(長野県・飯島町)
- 道の駅 花の里いいじま(長野県・飯島町)
- 天竜川(長野県・飯島町)
- 天七(長野県・飯島町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 小西清太郎:
法務大臣。 - 小西由紀:
25歳。小西清太郎大臣の娘。イラストレーターの仕事をしている。 - 木村秀之:
40歳。小野寺首相の第一秘書。東京地検特捜部に逮捕される。 - 小野寺:
内閣総理大臣。 - 山野辺守:
小西清太郎と大学の同級生。飯島町に住む。 - 青山:
T建設の社長。
その他の登場人物
- 小西由美子:
小西清太郎の妻。 - 早川:
早川病院の病院長。 - 峯岸:
小西清太郎の秘書官。 - 三輪:
小野寺首相の顧問弁護士。 - 青木:
中野警察署の交通係の警部。 - 森川:
警視庁の女性刑事。 - 田島:
中央新聞社会部に所属。十津川の大学の同級生。 - 村田:
小野寺首相の秘書。 - 長谷川:
S大学の教授。小野寺首相の友人。
印象に残った名言、名表現
(1)飯田線から見た車窓の風景。
豊橋を出ると、東に南アルプス、西には中央アルプスがそびえ、山頂には、すでに白い雪があった。二つの山脈の間を、二人を乗せた二両連結の列車が、北に向かって進む。
ふと、十津川が眼下に、目をやると、天竜川の急流を、天竜下りの舟が、水しぶきを上げながら下っていくのが見える。
(2)飯島駅前から見た信州の景色。
駅の外に出ると、嫌でも目の前に、日本アルプスの山脈が、視界をさえぎる。雪をかぶった峰々が、陽の光を受けて、キラキラと、美しく輝いている。
ー(略)ー
見上げると、空が高い。湖の透明度みたいに、東京に比べて、この町の空は、透明度が大きいので、高く見えるのか?
(3)やみくもに動き回るのではなく、まず理解すること。十津川の哲学。
「私としては、今日一日、この町を、歩き回って、この飯島町という町が、いったい、どんな町なのかを、知りたいと思っている。それが分かれば、自然に、小西由紀が、どうして、この町に来たのかも、分かるんじゃないかな?」
総評
本作は、前半と後半でまったく趣が異なる。前半は、信州の飯島町の旅紀行のようなスタイルだ。
表立った捜査ができないため、十津川と亀井がジーンズにジャンパー、リュックサック、スニーカーの装いで飯島へ向かう。
途中、アルプス山脈の間を飯田線が走り、奥三河で長篠の戦いの古戦場を見て、天竜川を下る舟を見る。信州の小京都・飯田を超えて、飯島駅につく。駅前はのどかな田園風景がひろがる。
その後、白壁と障子の白、屋根瓦や板塀の黒のコントラストに彩られた飯島陣屋で写真を撮る。
信濃の歴史に思いを馳せ、
「から衣 裾にとりつき 泣く子らを おきてぞ来ぬや 母なしにして」
有名な和歌を唄う。
二人はりんご園に行き、密一杯の旬のりんごを食べる。昼食はもちろん、信州そばで。
2日目は、飯塚駅前から見える高い空とアルプス山脈の峰々に胸を熱くし、陣嶺館でお陣屋祭りの写真を見て、武田軍が眠る千人塚公園を歩き、「志をじ」のソースカツ丼で腹を満たす。
食後は、道の駅 花の里いいじまで、五平餅や五色おやきなどの名産品を味わい、天竜川の清流で心を鎮める。最後に飯島商店街の老舗「天七」で、天ぷらそばを食べる。
読者は、十津川とともに信州ツアーを楽しめるのである。
しかし、中盤以降の後半は、ほとんどが政治の話になる。ひたすら政局について十津川警部と亀井刑事が調べるくだりが続く。正直にいうと、2人がここまで政局について調べる”動機”が弱いのである。
たしかに、小西清太郎の娘にケガをさせた人物を特定するために警視庁が動いており、特定のためには政治的背景や政局を知る必要がある。
だが、政治の話をここまで掘り下げる必要があるのか?というほど長い。事件についてはまったく動きがない。ひと言でいえば、退屈なのである。筆者としては、美しい信州の飯島で事件が起きてほしかった。
この作品は、後半の政局のくだりが残念でならない。
コメント