初版発行日 2018年7月12日
発行出版社 小学館
スタイル 長編
日本一美しい海の見える駅と言われている下灘駅。ここに訪れた写真を撮っていた小菅信一郎が何者かに殺された。捜査線に浮上したクルーザーと持ち主の男。十津川警部は、殺人容疑で逮捕するのだが……。
あらすじ
「海の見える駅」ーそれは、四国の瀬戸内沿いを走る予讃線伊予市駅から海回りを行く支線「愛ある伊予灘線」の下灘駅という無人駅のことである。ホームの中央に置かれたベンチに座れば、目の前に伊予灘の美しい海原が広がる。
まるで海に溶け込んでしまいそうな小駅だが、日暮れ時ともなれば海面の向こうに夕日が浮かび、この世のものとは思えぬような絶景が生まれる。幾たびか「青春18きっぷ」のポスターにもなり、鉄道ファンのみならず、国の内外からこの駅を訪れる旅人は引きも切らない。
この駅にやって来て夕景を写真に収めていた小菅信一郎が、自宅から遺体で発見された。息子の明は、自宅で発見されたカメラの状況と被写体から父親の突然の失踪とその死に疑念を抱く。旅といえば温泉遊び、カメラの趣味などはこれまで父親は無縁だった。ここで父親と出会ったという平川彩乃の協力を得て謎に迫ろうとするが、核心がみえない。信一郎は、夜の海上で輝く宝石のようなものを撮影していた。
十津川は、小菅信一郎殺害の容疑者に迫っていくが、容疑者は不敵にも十津川の捜査ミスを誘ってくる。事件の裏にはとんでもない策謀が隠されていた。
小説の目次
- 父の失踪
- ある女性の証言
- 海の宝石(前編)
- 海の宝石(後編)
- 夜の下灘沖(前編)
- 夜の下灘沖(後編)
- 下灘の真実(前編)
- 下灘の真実(後編)
- 愛の海が戦場になった(前編)
- 愛の海が戦場になった(後編)
冒頭の文
わがままな父だと、思うことが多い。その父、小菅信一郎は、現在、家族と別れ、ひとりで、マンション暮らしをしている。それも、突然の別居宣言だった。
小説に登場した舞台
- 下灘駅(愛媛県伊予市)
- 伊予市駅(愛媛県伊予市)
- 松山市内(愛媛県松山市)
- 神戸港(兵庫県神戸市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 真田刑事:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 小菅信一郎:
65歳。5年前に会社を辞めて、退職金と年金でひとり暮らしている。旅行にでかけて失踪し、その後死体で発見された。 - 小菅明:
小菅信一郎の息子。三鷹に在住。 - 小菅みどり:
小菅明の妻。 - 平川彩乃:
24歳。3月下旬に四国の下灘で小菅信一郎と出会った女性。下灘に何度も訪れ写真を撮っている。 - 坪内正明:
60歳。築地にある興信所の社長。 - 皆川春彦:
50歳。詐欺師。 - 笠井由美:
45歳。詐欺師。 - 円城真:
52歳。国際弁護士。 - 李:
釜山の水産加工会社の社長。
その他の登場人物
- 青木:
小菅信一郎が住むマンションの管理人。 - 斉藤信一郎:
下灘音楽会のリーダー。 - 戸田三平:
日本一の写真家。 - 田島:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。 - 岡村:
海上保安部の職員。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。
印象に残った名言、名表現
(1)小菅信一郎のことば。
「世の中には無粋な人間もいて、この美しい景色、美しい海のこと、空の色、そうしたものに、全く関心を持たない嫌な人間もいるんだ」
(2)日本社会はコネ社会。
十津川は、日本というのは、昔も今も、コネ社会だと思っている。
ただ、日本人というのは、それを非難するより、自分も政治家に知り合いがいればいいのにと考えてしまうのである。
(3)十津川警部は三上刑事部長のことを、尊敬していないが、嫌いではない。
「三上刑事部長は、別に嫌いじゃないよ。警察だって、同じサラリーマン社会だから、彼みたいに保身と、政治家を怖がる上司がいても、不思議はないと思っているからね」
感想
愛媛県伊予市にある下灘駅。”日本一美しい駅”の異名をもち、青春18きっぷのポスターに何度も採用されている。また、ドラマやCMのロケ地にもなった、有名な駅である。
わたしもこの下灘駅を訪れたことがあるが、この駅から見える伊予灘の美しさは、筆舌に尽くしがたいほどだった。
この下灘駅の前をはしる”夕やけこやけライン”と呼ばれる国道378号線は、海岸沿いにそって30キロもの道がつづく。下灘駅だけでなく、この夕やけこやけラインから見える、夕焼けの景色も素晴らしい。この夕やけこやけライン沿いを、海風をあびながら、バイクや自転車で走るのが、特におすすめだ。
本作に登場する小菅信一郎は、下灘で最も美しい夕景色を、撮るために訪れた。望み通り、美しい景色を撮った。”海の宝石”のような美しい写真も撮った。だが、この写真を撮ったために、殺されてしまう。
なぜ、小菅信一郎は、殺されてしまったのか?この答えが事件解決のカギを握っている。ここからのミステリーは読んでからのお楽しみだが、今回の犯人はかなり手強い。あの手この手を使って、捜査を妨害し、ワナにはめ、十津川に何度も苦汁をなめさせた。
最後のラストシーンは、いろいろな人の思いが交錯する、含みのある終わり方。この美しい下灘駅に、ふさわしい最後だったと思う。
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