初版発行日 1977年11月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
会心の海洋ミステリー!十津川警部シリーズの初期代表作!
あらすじ
アマチュア無線を楽しむカメラン野口浩介の無線機に、午前二時になると決まって弱々しい救難信号が送られてきた。調査の結果、南太平洋のトラック諸島で沈没した潜水艦・伊号五〇九から発信されたものだったのだ!そして元海軍中佐の不可解な死!?この艦が積んでいた十億円の金塊の行方は?真相を追って野口は南の島に向かった……!
小説の目次
- 三十二年目の夏
- 伊五〇九潜の謎
- トラック諸島
- 金塊
- 南原機関
- 匿名の手紙
- 潮岬
- パンフレット
- 脅迫状
- 圧力
- ある告白
- 苦闘
- サメ狩り
- 海中の戦い
冒頭の文
五日前から、毎夜午前二時になると、その電波は、いかにも弱々しく、遠慮がちに、野口浩介の受信機に飛び込んでくるようになった。
小説に登場した舞台
- 海上保安庁(東京都千代田区)
- 国立国会図書館(東京都千代田区)
- グアム国際空港(アメリカ合衆国グアム)
- トラック諸島(現・チューク諸島)(ミクロネシア連邦・チューク州)
- 館山(千葉県館山市)
- 串本駅(和歌山県・串本町)
- 潮岬(和歌山県・串本町)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 逗子駅(神奈川県逗子市)
- 八王子駅(東京都八王子市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 野口浩介:
カメラマン。アマチュア無線が趣味。調布市仙川に在住。 - 氏家由紀子:
23歳。売れないモデル。野口浩介のダイビング仲間。 - 江上周作:
37歳。ヨットの設計士。野口浩介のダイビング仲間。四谷三丁目のマンションに在住。 - 佐伯賢次郎:
N造船の相談役。元潜水艦の専任将校。四谷に在住。車にはねられて死亡する。 - 橋本邦栄:
元陸軍大佐。半年前、房総の海で不審死する。 - 神谷信博:
63歳。東明大学の学長。目黒の豪邸に在住。神谷太郎の弟。 - 神谷太郎:
当時33歳。太平洋戦争時代にあった南原機関の理事。昭和20年に死亡している。 - 塚田寛一:
塚田設計事務所の社長。久我山に在住。行方不明になった後、三浦半島で海に転落した車の中から死体となって発見された。 - 小山純:
鈴木製薬の営業課に勤務。佐伯賢次郎のひき逃げ事件で逮捕された男。留置場で自殺した。 - 森明夫:
伊五〇九潜の生き残り。救難信号の発信者。
その他の登場人物
- 塚田京子:
塚田寛一の妻。 - 佐伯明子:
佐伯賢次郎の妻。 - 清水:
戦史研究家。 - 田島きみ子:
伊五〇九の大杉艦長の未亡人。水戸市内に在住。 - フレッド・アンガー:
トラック諸島のヨットの持ち主。 - エリザベス:
フレッド・アンガーの妻。 - 塩見:
四谷出版の社員。 - 阿部:
東明大学の理事。 - 田島:
新宿署の刑事。 - 上野晋吉:
62歳。銃砲店の店主。 - 和辻:
元海軍中佐。辻堂に在住。
印象に残った名言、名表現
(1)十津川警部の怒り。
十津川は、その声に、深い悲しみと同時に、強い憎悪を感じて、はっとなった。
(2)トラック諸島。
波静かな礁湖は、鮮やかなコバルト・ブルーに彩色され、厚い積乱雲が立ち昇っていた。
感想
本作は、十津川警部シリーズの7作目の作品であり、初期の代表作の一つとしても知られている。
若者3人組が一攫千金を狙う冒険劇、殺人事件、そして、太平洋戦争時代における逸話の3つのストーリーからなっている。この3つの話が一本の線に繋がっていくところに、本作の美しさがあった。
若者3人組の冒険劇は、トラック諸島(現・チューク諸島)の美しい海やサンゴ礁、黄金色の夕陽を背景に、若者らしいみずみずしさが溢れるタッチで描かれており、ロジカルな十津川警部シリーズの中では珍しい作品になっている。
また、太平洋戦争時代に日本海軍が使用していたモールス信号の解説もあったり、太平洋戦争時代のエピソードが満載である。
ミステリーについても、どんでん返しあり、水中アクションあり、そして、意外な結末もあり、完成度が高い。
最後の結末については、十津川警部としては納得できないが、人間・十津川としては納得できるという終わり方も良かった。
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