〈景品表示法に基づく表記〉当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

「神戸 愛と殺意の街」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

神戸 愛と殺意の街小説

初版発行日 1998年3月20日
発行出版社 新潮社
スタイル 長編

POINT】
<神戸の悪党>が描く夢の計画ー。十津川警部と白熱の知恵くらべの行方は?
スポンサーリンク

あらすじ

東京の銀行と大手企業にそれぞれ五億円と二億円を要求する脅迫状が届いた。送り主は<神戸の悪党>。十津川警部は犯人逮捕の罠を仕掛けるが、まんまと現金を強奪されてしまう。神戸へ向かった十津川は怪しいグループを発見するも、金融機関に新たな脅迫状が届く。十津川と知恵比べを続ける<悪党>が神戸で実現しようとする「夢の計画」とは!?

小説の目次

  1. 事件
  2. 神戸
  3. 身代金
  4. 愛の街
  5. 焦燥
  6. メリケンパーク
  7. 夢と死と

冒頭の文

その時、十津川は、京都のホテルにいた。

小説に登場した舞台

  • 新神戸駅(兵庫県神戸市中央区)
  • 三ノ宮駅(兵庫県神戸市中央区)
  • 長田区(兵庫県神戸市長田区)
  • 有馬温泉(兵庫県神戸市北区)
  • ポートアイランド(兵庫県神戸市中央区)
  • 異人館通り(兵庫県神戸市中央区)
  • 芦屋(兵庫県芦屋市)
  • 須磨海岸(兵庫県神戸市須磨区)
  • メリケンパーク(兵庫県神戸市中央区)
  • 関西空港(大阪府泉佐野市)
  • 香港(中国・香港特別行政区)
  • 福岡空港(福岡県福岡市博多区)
スポンサーリンク

登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 日下淳一:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 北条早苗:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三田村功:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 三上刑事部長:
    刑事部長。十津川警部の上司。

兵庫県警

  • 土井:
    兵庫県警の警部。
  • 吉田:
    兵庫県警の刑事。

VIPローン

  • 神木実:
    35歳。神戸のVIPローンの副社長。
  • 石橋和夫:
    41歳。VIPローンの社員。元M銀行神戸支店勤務。
  • 小玉明:
    28歳。VIPローンの社員。元プロ野球選手。
  • 中島英治:
    32歳。VIPローンの社員。T銀行勤務の後、東京の大手探偵社に入社。
  • 林光彦:
    36歳。VIPローンの社員。元大阪府警。
  • 菅野ゆりえ:
    26歳。VIPローンの社員。
  • 坂口みどり:
    23歳。VIPローンの社員。

事件関係者

  • 遠藤貢一郎:
    S公団の理事長。67歳。
  • 青木:
    遠藤貢一郎の顧問弁護士。
  • 片山明:
    遠藤貢一郎の甥。
  • 井之口三郎:
    東京にあるNRローンの社長。
  • 内山:
    東京にあるNRローンの秘書。
  • 菅原あずさ:
    25歳。神木実の恋人。阪神淡路大震災で亡くなる。
  • 服部栄:
    メリケンパークのMホールの保安主任。
  • 服部みどり:
    服部栄の娘。
  • 沼田:
    メリケンパークのMホールの支配人。
  • 小野寺:
    弁護士。
  • 広田健吾:
    35歳。神木実の高校時代の親友。
  • 楠木清:
    35歳。神木実の高校時代の親友。
  • 江本進太郎:
    35歳。神木実の高校時代の親友。

その他の登場人物

  • 中村:
    科研の技官。
  • 五十嵐功:
    Rタクシーの運転手。
  • 夏代:
    有馬温泉の芸者。35歳。
  • 服部可奈子:
    服部栄の妻。
  • 十津川直子:
    十津川警部の妻。

印象に残った名言、名表現

(1)十津川警部の性格の一端が垣間見える。

十津川は、自分を、臆病な人間だと思っている。自分の悲惨なら、耐えられる。だが、他人の悲惨さを正視する勇気がないのだ。

(2)十津川と亀井の問答が突破口を開く。

迷路に落ちた時、壁にぶつかった時、十津川は、よく、亀井と話をした。夜の街を歩きながら、食事を共にしながら、時には、温泉につかりながら。

感想

本作は、1997年の神戸が舞台になっている。1995年に発生した阪神淡路大震災から2年後の神戸である。

阪神淡路大震災は、日本ではじめて近代的な都市で発生した直下型地震。地震の中心になった神戸は街が壊滅し、多くの死傷者を出すなど、未曾有の被害をもたらした。

あれから2年。1997年の神戸は、着実な復興を遂げていた。

本作では、震災によって倒壊し、高速道路の”安全神話”を崩したといわれる阪神高速道路の復興の様子が描かれている。

市内を通る高架の高速道路は、横倒しに崩れて、一躍、有名になったが、あの高速もきれいになって、車が走っていた。

また、液状化現象でガントリークレーンが使えなくなり、神戸大橋が破壊されるなど、大地震における人工島の脆さを露呈した、ポートアイランドも見事に復活していたことにも触れている。

液状化現象で、一時、交通が途絶したポートアイランドも、橋が修理され、崩れた港湾設備も、外見だけなら、立派になってしまている。

そして、神戸の玄関口であり顔でもある、山陽新幹線・新神戸駅や三宮も、見事に復活を遂げていた。

だが、神戸の下町と呼ばれる長田区まで来ると、様子が一変する、と書かれている。

新神戸駅の周辺や三宮あたりは、全てが新しい。倒壊したビルは、片付けられ、新しいビルが建っている。デパートも、人を集めている。

それが、長田区に近づくにつれて、周囲の景色が、何か、汚れて見えてきた。

更地とプレハブだらけの長田区。

更地に生い茂った雑草と、そこに咲く菜の花が、長田区に暮らす人々の悲しみを物語る。

プレハブの家が、沢山建っているかと思うと、更地が点々とあって、そこには、雑草が生い茂っている。その更地に、花が咲き乱れているのは、地元の人々が、タネをまいたのだろう。

長田区だけ、復興のエネルギーが届いていないのだ。

長田区の目抜通りの一部が、板塀で囲まれている。そこだけが、復興から、完全におくれているのだ。他の地区に、次々に新しいビルが建ち、新しい店が開店しているのに、そこだけが、タイムマシーンを逆回転したみたいに、空地が点在し、仮店舗があり、有名会社のマンションが一つ、ぽつんと建っているだけだった。

舞台は、この神戸市長田区である。

正確にいえば、事件は東京と神戸のメリケンパークで起こる。しかし、事件の根があるのは、この長田区である。この散々たる長田区の復興と自分の夢を実現させるために、立ち上がった若者たちの哀しい事件が、本作なのだ。

阪神淡路大震災は、数多くの被害者を出した。死者6434人、住宅被害は約64万棟。数字を聞いてもピンとこない。

だが、被害者ひとりひとりに人生があり、家族があり、恋人がいて、友人がいた。夢もあった。希望もあった。愛もあった。

この作品は、阪神淡路大震災のオフィシャルの資料には載らないだろう。しかし、1997年当時の長田区の様子や、そこに住む人々が感じていた鬱屈がよくわかる。

ミステリーだけではなく、当時の被災者の人間ドラマにもなっているのだ。

コメント