初版発行日 2017年5月12日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
私の評価
十津川警部、大震災から復興の足音が響く東北で浮かび上がった闇資金の謎を追う!
あらすじ
青梅の精神科病院で殺人未遂事件が発生した。被害者は入院患者の千石典子。容疑者として浮上した男性が、松島海岸で遺体で発見された。殺人事件の捜査を進めていくと、東日本大震災で沈没し、海底から引き揚げられたグズマン二世号の客室から発見された大量のプラチナ事件と繋がり、十津川警部がそこに潜む闇資金の謎を追う。
小説の目次
- 石巻以北
- モデルクラブ
- 事件発生
- 仙石線爆破事件
- モンゴル
- 最後の戦い
- 最後の賭け
冒頭の文
松島観光のルートは、いくつかある。そのうち、いちばんよくしられているのは、仙台駅から仙石線に乗るルートだろう。
小説に登場した舞台
- 女川町(宮城県・女川町)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 仙石線
- 松島海岸駅(宮城県・松島町)
- 石巻駅(宮城県石巻市)
- 陸前赤井駅(宮城県東松島市)
- 東根(山形県東根市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 吉川:
宮城県警の警部。 - 後藤:
宮城県警の刑事。
事件関係者
- 柏原恵美:
31歳。藤井観光会社営業第三課の課長。5年前、東日本大震災の津波で沈んだグズマン二世号に乗っていた。今回の引き揚げ作業で遺体が発見された。遺留品として2億円相当のプラチナが発見された。 - 柏原美紀:
柏原恵美の妹。東京にあるS大学の4年生。柏原恵美の妹。東京にあるS大学の四年生。 - 千石典子:
5歳。「清心院」に入院している患者。世田谷区世田谷に在住。青山のモデルクラブ「NNNクラブ」に在籍していた。 - 小西大介:
毎週、千石典子のお見舞いに来る男。松島海岸近くの林の中で死体となって発見された。 - 小暮:
「清心院」の医師。
新アジア倶楽部
- 松田英太郎:
70歳。新アジア倶楽部の会長。 - 木村健吾:
65歳。新アジア倶楽部の理事。 - 村越新太郎:
64歳。新アジア倶楽部の理事。 - 塚本信之介:
60歳。新アジア倶楽部の理事。 - 山下勝之:
60歳。新アジア倶楽部の理事。
その他の登場人物
- 若宮康介:
28歳。藤井観光会社営業第三課の社員。 - 藤井:
藤井観光会社の社長。 - 渡辺:
藤井観光会社の秘書課長。 - 柿沼玲子:
32歳。東京・青梅にある精神科の病院「清心院」の看護師。 - 成瀬けい:
53歳。モデルクラブ「NNNクラブ」の社長。 - 大田黒:
大学の教授。太平洋戦争の研究をしている。 - 小西大次郎:
小西大介の父親。山形県東根市で果樹園を営む。 - 小西冴子:
小西大介の母親。
印象に残った名言、名表現
なし。
感想
本当に西村京太郎先生が書いた作品なのだろうか?と首を傾げたくなる作品だった。
まず、事件の出発点は、70年も前の太平洋戦争時代にある。日本陸軍が軍の資金を集めるために暗躍した千石商会が、70年五の現代に、千石ファンドと名前を変え、活動しているというものである。
こうした日本の歴史が背景にあるのは、近年の西村京太郎先生の特徴でもある。これは、問題ない。
問題は、表現とリアリティの部分である。
十津川班が捜査をはじめることになった経緯が、青梅にある精神病院の患者・一人が襲われて怪我をした事件。
果たして、このくらいの事件でで、本庁の刑事が7人もの部下を引き連れてくるだろうか?十津川たちが、なぜ一生懸命、調べているのか、理解できなかった。というか、切迫感が伝わってこないのだ。
かつての西村京太郎先生は、こうしたリアリティをすごく重視していたのではないか?大きな事件になっていない時は、十津川警部がお忍びで捜査をしていたり、休暇をとって捜査をしていたことも多々あった。十津川班として捜査を開始するのは、殺人事件が起こった後だった。
それなのに、今回は、青梅の患者一人が襲われただけで、7人もの刑事が出動した。なぜ?
もう一つ気になったのが、表現である。
例えば、本作の一節↓↓
繰り返すが、この時まで、十津川はまったく、金華山沖で起きた事件。東日本大震災で沈んだ、当時、ホテルとして使われていた北欧の豪華船「グズマン二世号」が発見され、引き揚げられ、その後、二億円相当のプラチナが船内から発見されたことが、自分たちの事件と結びついてくるとは、考えてもいなかった。
西村京太郎先生は、こんな冗長な表現を使っただろうか?
スピード感と緊迫感で読者を圧倒したかつての西村京太郎先生の作品では見られなかった表現である。もっとシンプルでサスペンスフルな表現だった。
さらに、十津川警部と亀井刑事が、仙石線爆破事件について、話しているときの、亀井刑事のセリフ。
「もうひとつ、不審な点があります」
熱血漢でストレートな亀井刑事が、こんな冷静な言葉を使っただろうか?
また、十津川警部が推理を働かせるときに用いられた言葉。
十津川は、想像力を広げていった。
これまでの西村京太郎先生なら、「十津川は、想像力を逞しく」という表現を使っていたのではないだろうか?確かに、意味は変わらないが、味わいまったく違ってくる。
十津川は、これは間違いなく事件に関係あるとみて
これも、十津川警部シリーズファンとしては違和感のある表現である。
「事件に関係あるとみて」と言葉で書くのではなく、十津川警部らが動くことによって、間接的に関係があると十津川が睨んでいることを示していた。
一番気になったのは、文章全体がさらっとしすぎていることである。
かつての西村京太郎先生は、文章やセリフに味わいがあり、哀愁が漂っていた。日本各地のスポットが旅情たっぷりに描かれていた。被害者や犯人たちの怒りや悲しみといったものが伝わってきた。サスペンスな場面では、手に汗握る緊迫感があった。
しかし、本作では、いずれも伝わってこない。ファンとしては、すごく、残念である。
コメント