〈景品表示法に基づく表記〉当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

十津川警部「修善寺わが愛と死」感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

修善寺わが愛と死小説

初版発行日 2009年3月10日
発行出版社 集英社
スタイル 長編

POINT】
鎌倉幕府3代の盛衰を老舗デパート3代の盛衰になぞらえた告発小説!悪魔の所業でデパートを乗っ取った一家に対し、十文字多恵子が最後に残したリベンジとは?老舗デパートのお家騒動が舞台の傑作サスペンス!
スポンサーリンク

あらすじ

十文字多恵子32歳が、自宅で殺された。老舗の六国デパートの元副社長秘書だった、というには分不相応の豪華なマンション暮らしに、十津川警部は不審を抱く。さらに、多恵子が『修善寺わが愛と死』という原稿を残していたことを知る。その小説は、鎌倉幕府三代の興亡にことよせて、六国デパートの内紛を描いていると思われた。六国デパートを探り始めると社長が次々と交代しており……。

小説の目次

  1. 一人の女の死
  2. 小説に秘めた謎
  3. 修善寺探索
  4. 愉悦の海
  5. アリバイ
  6. 刺のある花
  7. 決着をつける

小説に登場した舞台

  • 修善寺(静岡県伊豆市)
  • 桂川(静岡県伊豆市)
  • 伊豆高原(静岡県伊東市)
  • 特急踊り子105号
  • 安房鴨川(千葉県鴨川市)
  • 阿佐ヶ谷(東京都杉並区)
  • 深大寺(東京都調布市)

登場人物

警視庁捜査一課

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の刑事。主人公。
  • 亀井定雄:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
  • 日下淳一:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 西本明:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 北条早苗:
    警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
  • 本多時孝:
    警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
  • 三上刑事部長:
    刑事部長。十津川警部の上司。

六国デパート関係者

  • 十文字多恵子(じゅうもんじたえこ):
    自宅で死体として見つかる。3か月前まで六国デパートの副社長秘書として勤めていた。
  • 六月健太郎(むつき・けんたろう):
    六国デパートの創業者。すでに亡くなっている。伊豆の生まれ。
  • 六月健介(むつき・けんすけ):
    六月健太郎の息子。2代目社長。27歳のときに心臓発作で急死した。
  • 六月健司(むつき・けんじ):
    六月健太郎の息子。3代目社長。社長に就任した最初の夏に沖縄で溺死する。
  • 葛城奈津子(かつらぎ・なつこ):
    六月健太郎の妻。健太郎の死後、健介の後見人として六国デパートの実権を握り、4代目の社長に就任。現在は顧問だが影の実力者として影響力を残す。
  • 葛城清之(かつらぎ・きよゆき):
    六国デパートの常務。六国デパート創業のときから社長の右腕となって支えた功労者。
  • 葛城郁子(かつらぎ・いくこ):
    六国デパートの副社長。葛城清之の姪御。
  • 葛城久幸(かつらぎ・ひさゆき):
    六国デパートの現社長。
  • 黒田肇(くろだ・はじめ):
    六月健太郎の遠い親戚。60歳。数ヶ月前まで六国デパートの商品管理部長として勤務。現在は代田橋駅近くで小さな喫茶店を営む。
  • 黒田芙美子(くろだ・ふみこ):
    肇の妻。数年前まで六国デパートの惣菜売り場の主任として働いていた。
  • 小柳清(こやなぎ・きよし):
    六国デパートの重役。58歳。国立S大学を優秀な成績で卒業した後、アメリカに留学。2年間アメリカに滞在した後、六国デパートに就職。
  • 本田洋一(ほんだ・よういち):
    六国デパートの重役。55歳。会津若松に生まれ警察官になりたくて上京し警察学校に入学。巣鴨の近くに警備会社を設立し、警備会社の社長をつとめた後、六国デパートに入社。
  • 水野雅之(みずの・まさゆき):
    六国デパートの重役。56歳。国立大学を卒業し、文化庁に入庁。宗教法事関係の調査を担当していたが、50歳の時に引き抜かれて葛飾興行に入社。
  • 水野美智子(みずの・みちこ):
    水野雅之の妻。
  • 小西勲(こにし・いさお):
    六国デパートの重役。55歳。S大学卒業後、東京都文化部に入庁。52歳で文化部長になり、53歳で辞職。その後葛飾興行に入社。
  • 後藤喜八郎(ごとう・きはちろう):
    六国デパートの重役。60歳。資産家の家に生まれる。六国デパート創立のときから葛飾清之とともに六月健太郎を支えてきた。しかし、政治力がなく発言力が弱い。
  • 西山哲男(にしやま・てつお):
    3年前に六国デパートを定年退職した元人事部長。
  • 桜井浩(さくらい・ひろし):
    六国デパートの顧問弁護士。60歳。六国デパート創業当時からの顧問弁護士。
  • 木下秀夫(きのした・ひでお):
    葛城清之の秘書。
  • 城田次郎(しろた・じろう):
    六国デパートの広報部長

その他の登場人物

  • 田島:
    十津川の大学時代の友人。中央新聞の社会部の記者だったが、2か月前に週刊中央の編集長に異動になった。
  • 柴田きみこ:
    十文字多恵子の大学時代の友人。多恵子の死体の発見者。
  • 丸山みゆき:
    40歳。南伊豆のLH教団の教祖。
  • 井岡めぐみ(いおか・めぐみ):
    25歳。LH教団の巫女。
  • 橋本豊:
    私立探偵。元捜査一課の刑事。
  • 宇野康雄(うの・やすお):
    43歳。殺人の前科がある男。

個人的な推しポイント

  • 鎌倉幕府の盛衰がまさに六国デパートの盛衰そのもの。歴史好きにはたまらない展開。
  • 企業の乗っ取りはどのようにして行われているのか?その流れが興味深い。
  • 企業内の政治力、パワーバランスが緻密に描かれている。
  • 本命をあぶり出すために外堀から埋めていく十津川警部の策略が巧み!
本作の重要な謎は「なぜ六国デパートは葛城家に乗っ取られてしまったのか?」「十文字多恵子が描いた小説に登場する「官位の海」とは何を暗示していたのか?
『修善寺わが愛と死』のキーアイテムは小説。この小説が事件の発端となった。

総評

本作でもっとも考えさせられたのは「合議制」である。

物語では社長で創業者の六月健太郎亡きあと、社長がすべてを決めるスタイルから、重役で話し合う合議制を導入した。

本作では次のように記されていた。

「創業者の六月健太郎さんの時代は、ワンマン経営だったんですよ。最初は、それで、うまく行っていたんですが、二代目社長のときから、どうにも時代に合わなくなってきた。そこで、常務の葛城さんと、副社長の葛城郁子さんを、含めた七人と、社長そして顧問の六月奈津子さんを入れて、九人の合議制を取ることにしたんですよ。」

合議制とはつまり、「みんなで話し合って決めましょう」ということだ。

力のある者が力のない者を強制するのではなく、みんなで話し合い、みんなが納得したやり方で進めようとするやり方は現代的であり、民主主義である。

一見すると、とても美しい響きである。これこそ公平公正の極みに聞こえる。

しかし、実際は力のある者が主導権を握っていく。

形式的には全員の合意があって物事が決まっているように見えるが、一番力のある者が出した意見に残り全員が賛同せざるを得ない場合がほとんどである。つまり、力のある者がすべて決めているのと何ら変わらないのだ。

こうした”形式的な合議制”は、会社の会議や町内会の話し合い、国際的な機関にいたるまであらゆる所で見られる。安土桃山時代、豊臣秀吉亡き後は、五大老・五奉行の合議制のはずが、実際は徳川家康が実験を握っていたのも同じである。

会社勤めをしたことがある人なら、合議制はけっきょく力関係で決まっていることが腑に落ちて理解できるだろう。

普段、仕事のやり方を手取り足取り教えてもらっている先輩に会議の場で反論できるだろうか?自分の評価を決める上司に面と向かって反論できるだろうか?

ほとんどの人間はできない。

もし会議の場で反論したら、普段の仕事で仕返しをされるかもしれない。最悪、会社で自分の居場所をなくされてしまうかもしれない。だから、力のある者に従うしかないのだ。

今作においては、葛城清之が実務的な影響力で実権を握り、唯一対抗できた後藤喜八郎も葛城清之の政治力で封じ込めた。

六国デパートは合議制だが、実際は葛城清之がすべてを決めていたのだ。

葛城家が六国デパートを乗っ取るプロセスで非常に大きな役割を果たしたのが、合議制を制度化したことにある、と筆者は思うのである。

コメント