初版発行日 1980年7月20日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
累計160万部を突破!日本推理作家協会賞を受賞した、愛と郷愁のトラベル・ミステリーの白眉!
あらすじ
青森県F高校の男女七人の同窓生は、上野発の寝台特急「ゆうづる7号」で、卒業後七年ぶりに郷里に向かおうとしていた。しかし、上野駅構内で第一の殺人。その後、次々に仲間が殺されていく―。上野駅で偶然、事件に遭遇した亀井刑事は、十津川警部とともに捜査を開始するが……。
小説の目次
- 終着駅「上野」
- 第一の犠牲者
- ゆうづる7号
- 前科者カード
- 第二の犠牲者
- 津軽あいや節
- まゆみの遺書
- 東北自動車道
- 青森駅
- 突破口を求めて
- 始発駅「上野」
冒頭の文
「明日、休暇をとらせて頂きたいんですが」亀井刑事が、遠慮がちにいった。
小説に登場した舞台
- 有楽町駅(東京都千代田区)
- 上野駅(東京都台東区)
- 寝台特急「ゆうづる7号」
- 水戸駅(茨城県水戸市)
- 青森駅(青森県青森市)
- 新宿二丁目(東京都新宿区)
- 初台駅(東京都渋谷区)
- 青森県警察本部(青森県青森市)
- 特急「みちのく」
- 新川島橋(茨城県筑西市)
- 浅草(東京都台東区)
- 新町通り(青森県青森市)
- 弘前駅(青森県弘前市)
- 岐阜駅(岐阜県岐阜市)
- 仙台駅(宮城県仙台市)
- 四ツ谷駅(東京都新宿区)
- 丸子多摩川(東京都大田区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 桜井:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 中山:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 早川:
警視庁捜査一課の警部補。十津川警部の部下。
警察関係者
- 日下:
上野署の刑事。 - 三浦:
32歳。青森県警の刑事。 - 渡辺:
青森県警の刑事。 - 江島:
青森県警捜査一課の警部。 - 田口:
警視庁資料室の職員。 - 藤田:
池袋署の刑事。 - 青木:
岐阜県警の刑事。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。
事件関係者
- 森下:
亀井刑事の高校時代の友人。青森にある母校で教師をしている。 - 松木紀子:
22歳。森下の教え子。浅草にある郷土料理屋「つがる」で働いていたが1週間前に辞めている。以前、新宿にあるスナック「ピカレスク」のホステスをしていた。渋谷区初台のアパートに在住。現在、行方不明。 - 西山英司:
35歳。以前、新宿にあるスナック「ピカレスク」のバーテンをしていた。傷害と詐欺の前科あり。 - 宮本孝:
24歳。四谷に事務所をかまえる「春日法律事務所」で働いている。東十条のアパートに在住。青森県のF高校の卒業生。 - 村上陽子:
24歳。芸能事務所「NFプロダクション」所属の無名歌手。青森県のF高校の卒業生。 - 片岡清之:
24歳。新宿で津軽物産店を営む。青森県のF高校の卒業生。 - 内野秀子:
28歳。片岡清之の元恋人。 - 橋口まゆみ:
24歳。渋谷にある「ライフ・デパート」の紳士服売り場に勤務。青森県のF高校の卒業生。 - 町田隆夫:
24歳。シナリオライター。詩人。目黒区内のアパートに在住。青森県のF高校の卒業生。 - 町田由紀子:
町田隆夫の姉。19歳の時、自殺した。 - 安田章:
24歳。通商省の事務官。青森県のF高校の卒業生。 - 川島史郎:
24歳。調布ある運送会社「川島運送」の社長。青森県のF高校の卒業生。
その他の登場人物
- 岡本:
上野駅の助役。宮城県の生まれ。 - 真田:
水戸駅の駅員。 - 宮本文子:
宮本孝の母親。 - 岸本:
元船乗りの老人。青森在住。 - 北村:
元警官の老人。青森在住。 - 森崎:
不忍池病院の医師。 - 川島友子:
28歳。川島史郎の姉。 - 小池豊一郎:
青森市内にある洋服屋の主人。 - 石野:
青森市内にある石野書店の店主。かつてF高校で国語の教師をしていた。 - 春日:
宮本孝が勤める春日法律事務所の所長弁護士。
印象に残った名言、名表現
(1)1980年代の山手線。
各駅ごとに、乗客の層が違うのが面白いのだ。新宿や渋谷は、若者の街といわれるように、圧倒的に若者が多い。有楽町は何といっても、サラリーマンである。神田では学生で車内が一杯になる。だが、際立って異質なのは、上野駅だ。
(2)かつての上野駅には”東北の匂い”がした。
上野の町は、浅草と並んで、もっとも東京らしい場所のはずだが、上野駅に入ると、ここの構内はどこか東北の匂いがする。毎日、北から到着する列車や、乗客が、東北の匂いを運んで来るからだろう。
上野駅には、東京と東北の匂いが、奇妙に入り混じっている。いや、溶け合わないままに同居しているといったほうが正確だろう。
(3)青森人は明るい人間が多い。
青森の人間は、どちらかといえば、暗く、鈍重で、辛抱強いと考えられているが、逆に、妙に明るく、お人好しの人間が多いのだ。
(4)東京と東北の違い。
「人間の恨みつらみは、東京みたいな大都会では、拡散して、薄められてしまうかもしれませんが、東北では、逆なのです。恨みつらみは、一層、どろどろしたものになっていくはずです」
感想
本作は、第34回日本推理作家協会賞を受賞した作品であり、累計発行部数160万部を突破したベストセラー作品である。
今さら私がここで説明する必要のない作品ではあるが、やはり、最高におもしろい作品だったと思う。
容疑者が次々と殺されていき、「残りはこいつとこいつか?」と徐々に迫りくる緊張感は素晴らしく、殺人事件という本筋のストーリーと亀井刑事が抱えるサブストーリーが、見事に融合するストーリーラインも最高だった。
密室トリックや時刻表トリック、ダイイングメッセージの謎といったミステリーの小技も多数用意されていたし、意表をつく殺人動機も見事だった。
ストーリーも二転三転し、全体最適で考えると部分最適できず、部分最適で考えると、全体最適がうまくいかない、ミステリーならではのジレンマもあった。
それを端的に現しているのが、次の一節である。
「全体から見て、今度の連続殺人ほど、はっきりしている事件はないと思う。七人の中の誰かが犯人なんだ。それなのに、個々の殺人を考えると、全く、お手上げなのだ」
こうしたジレンマは、ミステリー好きの読者を、ゾクゾク・ワクワクさせるものである。読みながら、自分なりに推理を働かせてしまうのだ。
さらに、ノスタルジーを感じさせる描写も秀逸だった。
今回は、上野駅と青森に焦点を当てたものであったが、とくに、上野駅のもつ異質な雰囲気についての説明がすばらしいので、二つほど紹介しておこう。
「何かを求めて上京して来る東北の人間は、この終着駅上野に、東北というものを落として、東京人になるべく、散って行くんだ。だから、この上野駅には、東北の匂いがしみ込んだんじゃないだろうか。いずれにしろ、ここには、おれたち東北の人間を感傷に誘うものがあるんだよ」
東京駅には、近代的な華やかさと、ビジネスライクな冷たさが感じられるのだが、ここで感じるのは、それと、正反対の雰囲気だった。
古めかしい野暮ったさ。だが、同時に、人間的な深みの感じられる駅でもある。
本作は、「完璧なミステリー」だった。
コメント