初版発行日 1983年1月25日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
東北新幹線を舞台に壮大なる列車トリック!
あらすじ
開通したばかりの東北新幹線「やまびこ17号」は、蔵王トンネルを通過中だった。そのとき、グリーン車の1A席で、田名部という男が殺されていた。犯人らしい男・八木も、急停車した列車の車掌室窓から逃亡するが、白石蔵王駅近くで溺死体となって発見された。八木のポケットには、東京のOL殺害事件で消失した1Bのグリーン券があった……。警視庁の十津川警部は、地元署と合同捜査するが、三人を結ぶ手がかりはつかめない。事件は、東北新幹線をめぐる大いなる野望と復讐劇の幕開けであった……!?
小説の目次
- 路地の死体
- 「やまびこ」17号
- 転落
- 特別会員
- 白石蔵王駅
- 身代金
- 館トンネル
- 合同捜査
- 三十二の会
- 買い占め
- 誘拐
- 脱出
- 新東京国際空港
冒頭の文
京王線の八幡山駅は、昔は、木造のふるい駅で、乗降客も少なく、閑散としたものだった。
小説に登場した舞台
- 八幡山駅(東京都杉並区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 上野駅(東京都台東区)
- 大宮駅(埼玉県さいたま市大宮区)
- 東北新幹線やまびこ
- 郡山駅(福島県郡山市)
- 福島駅(福島県福島市)
- 白石蔵王駅(宮城県白石市)
- 三鷹駅(東京都三鷹市)
- 仙台駅(宮城県仙台市青葉区)
- 千住新橋(東京都足立区)
- 舘トンネル(宮城県白石市)
- 浜松駅(静岡県浜松市)
- 羽田空港(東京都大田区)
- 千歳空港(北海道千歳市)
- 登別温泉(北海道登別市)
- 盛岡駅(岩手県盛岡市)
- 成田空港(千葉県成田市)
- 横浜港(神奈川県横浜市中区)
- 鹿児島空港(鹿児島県霧島市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 桜井:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 渡辺:
宮城県警捜査一課の警部。 - 瀬川:
白石警察署の刑事。 - 田口:
白石警察署の刑事。
国鉄社員
- 北野浩:
国鉄総裁の秘書。 - 池田:
東北新幹線やまびこの車掌。 - 坂本:
東北新幹線やまびこの運転士。 - 守田:
東北新幹線やまびこの車掌長。 - 小坂井:
国鉄総合指令本部の本部長。 - 矢崎:
白石蔵王駅の助役。 - 野村:
白石蔵王駅の駅員。 - 松尾:
国鉄の副総裁。
三十二の会
- 田名部祐二:
25歳。N電機三鷹工場に勤務。三鷹のアパートに在住。仙台出身。東北新幹線やまびこのグリーン席で毒殺された。 - 八木慎一郎:
東西相互銀行水道橋支店に勤務。1億円の使い込み免職されていた。白石蔵王駅近くのトンネルで死体となって発見された。 - 二宮由美:
かつて新宿東口にあったクラブ「シャルム」のママ。現在行方不明。 - 佐々木徹:
かつて新宿東口にあったクラブ「シャルム」のマネージャー。現在行方不明。 - 永井恭:
中野で会社経営をしている男。 - 青木琢二:
阿佐ヶ谷にある大型電気店の息子。 - 清水進:
26歳。立野興業の社員だった男。 - 明石秀彦:
40歳。元国鉄の職員。 - 宮本しのぶ:
19歳。元クラブ「シャルム」のホステス。その後、新宿歌舞伎町にある「プレイガール」で働いていた。
立野興業
- 立野由太郎:
72歳。立野興業の社長。財界の大物。 - 落合:
立野由太郎の秘書。 - 引地:
立野由太郎の秘書。
その他の登場人物
- 中田:
37歳。大手町の会社に勤務するサラリーマン。八幡山駅からバスで7分の建売住宅に住む。 - 小杉:
大矢けい子が努めていた生命保険会社の管理部長。 - 鈴木めぐみ:
大矢けい子が努めていた生命保険会社の社員。同期。 - 船橋一郎:
仙台市内にある総合病院の小児科医。大矢けい子と見合いをする予定だった。 - 安田:
運輸政務次官。 - 田名部晋吉:
60歳。田名部祐二の父親。仙台市内で土産物店を営む。 - 田名部ふみ子:
56歳。田名部祐二の母親。 - 松沼:
N電機三鷹工場の人事課長。 - 井本静子:
新宿東口にあるクラブ「かえで」のママ。かつてクラブ「シャルム」のホステスをしていた。 - 青木幸平:
青木琢二の父親。阿佐ヶ谷にある大型電気店の社長。 - 沢田:
雑誌「ジャパン・マンスリー」の記者。仙台出身。 - 沢田久美子:
沢田の妻。雑誌「ジャパン・マンスリー」のカメラマン。 - 島崎順子:
19歳。アイドル歌手。 - 鈴木:
カメラマン。 - 梅原キクノ:
白石蔵王駅近くに住む農家。 - 秋本肇:
等々力にある大東撮影所の証明係。 - 片平:
白石市役所計画課の課長。 - 八木幸二郎:
八木慎一郎の弟。浜松在住。 - 三宅達郎:
東北出身の代議士。建設省に影響力をもっている。 - 梶本:
巡視船「みうら」の船長。
印象に残った名言、名表現
■刑事のプロ意識。
刑事というのは、プロ意識に徹していればいるほど、完全な解決を望むものである。
感想
本作は、東北新幹線の開通によって新駅として開業された、白石蔵王駅近くの土地を巡る争いが、事件の発端になっている。
東北新幹線の車内で起きた殺人事件や、トレインジャック、ヘリコプターでの追跡など、スリリングでサスペンスフルな展開は、見ごたえがある。さらに、東北新幹線がメインだが、北は北海道、南は鹿児島までの追跡行というダイナミックさもあった。
だが、個人的には、一つだけ、気に入らない点がある。それは、登場人物が多すぎることだ。
本作は、社会派ミステリーであり、新幹線が舞台になっているから、当然、関係者も多くなる。それは仕方ない。そして、登場人物が多いほど、リアリティがあるのだろう。
だが、次から次へと新しい人物が登場するので、読んでいる側としては、その都度、その人物を頭の中で処理しなければならない。だから、読んでいて非常に疲れるのだ。
さらに、このページ数でこれだけの人物が出てくるということは、当然、一人ひとりが薄っぺらいものになってしまう。だから、犯人に対しても被害者に対しても、感情移入ができないのである。
だから、本作をもう一度読もうという元気はないし、登場人物の中で記憶に残る人物もいない。この点が、残念である。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
東北新幹線が開通して、日本の鉄道は、新しい新幹線時代に入ったといわれる。二百キロ近いスピードで、突っ走れる新幹線は、確かに、東北の新しい夜明けといえるかもしれないが、建設に当たっての無理が、さまざまな問題を引き起こしていることも、事実である。
喜びと悲しみ、愛と憎悪。そうしたものが、交錯しながら、東北新幹線は、走り続けているともいえよう。
八月のある日、白とグリーンのツートン・カラーのスマートな「やまびこ」号が、憎悪と、復讐と、死に向かって出発した。
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