初版発行日 2009年10月6日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
東京で殺害された女は5年前に西伊豆で溺死していた!?不可解事件に、十津川警部の推理が冴える!
あらすじ
東京・西新宿のホテルで、中川真由美という女性が刺殺体で発見された。警視庁の十津川警部が捜査を始めると、彼女は各地を転々と移り住んでいた事が判明。さらには彼女が5年前に西伊豆・堂ヶ島で溺死していたという情報がもたらされる。どちらが偽者なのか?度重なる転居の理由とは?奇妙な展開に捜査が難航する中、十津川はある意外な組織の関与を突き止める!
小説の目次
- 二人の女
- 男の影
- 淡島ホテル
- 日本のヒーロー
- 二つの事件
- 目撃者
- 追いつめる
冒頭の文
四月七日は、朝から、雨模様の天気だった。春の嵐とでも、いったらいいのか、風がやたらに強い。ただ、雨が降りそうで、降らなかった。
小説に登場した舞台
- 金沢駅(石川県金沢市)
- 堂ヶ島(静岡県・西伊豆町)
- 三津浜(静岡県沼津市)
- 淡島(静岡県沼津市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 中川真由美:
静岡県浜松市の生まれ。5年前に西伊豆の堂ヶ島の沖合で水死体となって発見されていた。 - 木下昌子:
36歳。北千住駅前にあるクラブのママ。中川真由美の名前を語っていた。西新宿のKホテル3階の女子トイレで死体になって発見される。 - 山中正堂:
ブランド品販売会社「レインボー」の社長。 - 古賀隆司:
警察庁のOB。5年前にガス漏れによる爆発で亡くなっている。 - 加倉井武史:
警察庁のOB。5年前に膵臓がんで亡くなる。 - 佐々木宗雄:
オリンピックのマラソンで2大会連続金メダルを獲得した。金沢市の英雄。すでに死亡している。 - 前田:
代議士。元国務大臣。 - 飯田圭介:
26歳。堂ヶ島にいるチンピラ。 - 飯田美知子:
飯田圭介の母親。 - 小野寺守:
50歳。公益法人「四十二・一九五の会」の理事長。佐々木宗雄の元秘書。 - 平田明:
元K組の組員。左腕がない。 - 星野健太:
元K組の組員。
その他の登場人物
- 安藤美奈:
22歳。女子大生。 - 池内:
静岡県警捜査一課の警部。 - 内藤:
警察庁の職員。加倉井武史の同期。 - 三浦努:
元金沢東警察署の署長。すでに定年退職している。 - 佐々木恵子:
運動具メーカーの社長。佐々木宗雄の妻。 - 佐々木宗一:
佐々木宗雄の息子。運動具メーカーの営業部長。 - 近藤昌信:
金沢市内に住むスポーツジャーナリスト。『郷土の英雄 佐々木宗雄』を書いた。 - 加東:
K興業の社長。元K組の組長。 - 増田:
静岡県警搜査一課長。 - 丹野:
50歳。静岡県警の刑事。
印象に残った名言、名表現
(1)西伊豆の美しさ。
西海岸は、たしかに、東海岸に比べると、道路の状態がよくないし、S字カーブの箇所も多い。ただ、海岸線は美しかった。その上、時々、富士山が顔をのぞかせる。
(2)穏やかな駿河湾。
伊豆の東海岸の相模灘の海は、いつでも少しだけだが、白波が立っている。しかし、こちらの海は、まるで、鏡のように、穏やかである。その駿河湾が、暗くなっていく。
感想
西新宿で殺された中川真由美と、5年前に、堂ヶ島で水死体となって発見された中川真由美。どちらが、本物の中川真由美なのか?なぜ、西新宿の中川真由美は殺されたのか?堂ヶ島で殺された中川真由美は、本当に事故死だったのか?
この謎を解くことを、主眼としたミステリーである。
偽物の中川真由美を登場させたことに、事件の難しさが凝縮されている。この謎を解くところが、ミステリー小説としての面白さになっていると思う。
ただ、2000年代以降の、十津川警部シリーズの特徴になっているのだが、ほとんど会話劇なのだ。十津川警部や亀井刑事が、事件関係者のもとへ訪れて、会話する。捜査会議で三上刑事部長に対して、説明をする。
会話が大部分を占めているため、緊迫感のない描写が延々と続いてしまうのだ。そして、この会話のひとつひとつが冗長かつ繰り返しが多いのが特徴でもある。
つまり、人も事件もほとんど動いていないのに、説明的な会話だけ、延々と繰り返されてしまうのである。
そして、最終章でやっと、動きと緊張感が生まれる。犯人が動き出し、十津川警部たちも動き出す。これも、2000年代以降の、十津川警部シリーズの特徴的な構成になっている。
わたしとしては、1980年代、1990年代の十津川警部シリーズが好きだった。ストーリー全体に緊張感が張りつめており、事件も人もどんどん動いていく。あの十津川警部シリーズが好きだった。
もちろん、2000年代以降も、そういった作品があるが、本作のような冗長な会話劇、動きの少ない説明描写が続く作品の割合が増えている。
個人的には、残念だ。
最後に、本作刊行にあたり、西村京太郎先生が発表された談話を紹介しておこう。
この作品を書くために、西伊豆の海岸線を南から北に向って取材した。東伊豆は、熱海から下田まで鉄道があり、道路も広いが、西伊豆は、観光地の堂ヶ島や恋人岬をのぞくと昔のままの小さく、古めかしい漁村が点在していた。もちろん、鉄道はないから、車以外の交通手段はない。海も、相模灘と駿河湾で、様相が違っていた。小説を書くために、改めて取材したのだが、東伊豆と西伊豆が、これだけ違うということに気がついたのは、新しい発見だった。
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