初版発行日 2004年11月20日
発行出版社 角川書店
スタイル 長編
私の評価
鹿児島、熊本、大分、福岡、山口、島根、奈良、静岡…。SLと桜の記憶を巡る謎。前代未聞の事件に、十津川警部の推理が冴え渡る!
あらすじ
東京郊外で若手カメラマン誘拐事件が発生。しかし犯人からの要求はなく、三日後にカメラマンは無事保護された。十津川警部が被害者の身元を調べると、幼少時に河原で発見され養護施設で育てられたことがわかる。それ以前の彼の記憶は「SL、桜、二人の男女」という曖昧なものだった。十津川はこの記憶が事件に関わる鍵と睨み、捜査を開始する。その矢先、静岡の大井川鐵道で第二の事件が発生し……。
小説の目次
- 誘拐
- 桜前線
- 第二の誘拐?
- 大井川鐵道の桜
- 誰がSLに乗っていたか
- 一家崩壊
- 記憶の感性
冒頭の文
その一一〇番があったのは、二月二十日の午後五時すぎだった。東京の街も、薄暗くなっていた。
小説に登場した舞台
- 鹿児島空港(鹿児島県霧島市)
- 隼人駅(鹿児島県霧島市)
- 肥薩線
- 吉松駅(鹿児島県・湧水町)
- いさぶろう号
- 矢岳駅(熊本県人吉市)
- 大畑駅(熊本県人吉市)
- 八代駅(熊本県八代市)
- 熊本駅(熊本県熊本市)
- SLあそBOY号
- 宮地駅(熊本県阿蘇市)
- 大分駅(大分県大分市)
- 九大本線
- 豊後中川駅(大分県日田市)
- 久留米駅(福岡県久留米市)
- SLやまぐち号
- 津和野駅(島根県・津和野町)
- 津和野殿町通り(島根県・津和野町)
- 新山口駅(山口県山口市)
- 岡山駅(岡山県岡山市)
- 大阪阿部野橋駅(大阪府大阪市阿倍野区)
- 特急さくらライナー
- 壺阪山駅(奈良県・高取町)
- 吉野駅(奈良県・吉野町)
- 吉野ロープウェイ(奈良県・吉野町)
- 吉野温泉元湯(奈良県・吉野町)
- 掛川駅(静岡県掛川市)
- 金谷駅(静岡県島田市)
- 大井川鐵道
- 家山駅(静岡県島田市)
- 千頭駅(静岡県・川根本町)
- 寸又峡温泉(静岡県・川根本町)
- ふじのくに茶の都ミュージアム(静岡県島田市)
- 金谷駅(静岡県島田市)
- 福井市役所(福井県福井市)
- 箱根(神奈川県・箱根町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
中央テレビ
- 大竹功:
51歳。中央テレビのプロデューサー。ドキュメンタリー番組を担当している。 - 杉本博史:
中央テレビの職員。 - 中島美香:
中央テレビの職員。 - 辻:
中央テレビのカメラマン。
事件関係者
- 永井俊:
23歳。フリーのカメラマン。何者かに誘拐される。 - 品田清之:
金谷で大茶園を営んでいた資産家。21年前、火事で死亡。 - 星川敏夫:
30歳。大竹功が社長をつとめるBB研究所の所員。 - 山本一郎:
29歳。大竹功が社長をつとめるBB研究所の所員。 - 塚原良:
31歳。大竹功が社長をつとめるBB研究所の所員。
その他の登場人物
- 田中:
旅の雑誌『旅のストーリー』の編集長。 - 加山:
静岡県警の警部。 - 小林:
50歳。静岡県警の刑事。 - 原:
静岡県警の刑事。 - 塩谷:
55歳。金谷にある総合病院の医師。品田夫妻の主治医をしていた。 - 野村:
産婦人科医。品田夫妻が相談をしていた。 - 小池:
静岡文芸サロンの事務局員。 - 井上:
福井市内にある飲食店の店主。長井家と付き合いがあった。 - 小野田:
N新聞社の主筆。大竹功の大学時代の同級生。
印象に残った名言、名表現
(1)桜の名所、大畑駅。
大畑駅は、肥薩線の中の桜の名所で、ホームから延々と続く桜並木が、よく見える。駅全体が、桜で彩られている感じだった。
(2)車窓から見た、春の由布院。
由布院が近づいてくるにつれて、春らしい桜並木と、菜の花のお花畑が、車窓に点在する。単線の線路を走っていると、時々、大きな桜の木が、列車に覆い被さるように、満開の花を咲かせている。
(3)人気観光スポット、津和野殿町通りの掘割。
津和野の町は、いつものように、観光客であふれていた。道の両側の水をたたえた堀割には、大きな鯉が、群れをつくって泳いでいる。どれもこれも、栄養がよくて、太っている鯉だ。
(4)有名な桜の名所、吉野山。
吉野山は、春は桜、秋は紅葉で有名な山で、桜は、下千本、中千本、上千本、奥千本と、一ヶ月かかって、咲きあがっていくと、いわれている。
(5)花の吉野山。
吉野駅のホームに降りた途端、目の前は、桜だらけになった。花の吉野山である。
感想
本作は、「記憶」というタイトルにふさわしい、作品だったと思う。21年前、八王子の浅川の河原で捨てられていた永井俊の、記憶をたどるストーリーである。
21年前の記憶は、「SL、桜、二人の男女」。この3つのキーワードの謎を探るために、長井俊が桜前線にそって、鹿児島、熊本、大分、福岡、山口、島根、奈良、静岡と南下しながら、旅をする。
各地の桜の名所の描写がとにかく美しい。自分も旅をしている感覚になるし、その場所へ出かけたいと思う、旅情と感傷たっぷりのストーリーである。
やはり、過去の記憶は、桜とともにあるのが、美しいのだと、本作を読んで思った。
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