初版発行日 1993年11月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
尾道・倉敷を舞台にした幻のバスジャック事件と連続殺人事件。日下刑事の恋心が捜査を難しくし、また、捜査の決定打にもなった。
あらすじ
新宿から倉敷へ向かう観光バスが、消息を絶った!ツアーを企画した旅行会社には、身代金一億円が要求されたが、三日後、バスは解放。乗客・乗員に、バスジャックとは気づかれぬまま起きた事件は、容疑者の男女が事故死を遂げ、解決の様相を見せた。しかし、空白の三日間の謎を追う十津川の前に、第二の殺人が!
小説の目次
- 倉敷にて不明
- 一億円
- 尾道の海
- 倉敷の雨
- 復習
- 崩壊
冒頭の文
何とか、二十名の客が集まったので、七月十日に出発しますと、ニューホープ観光から連絡があって、日下は、ほっとした。
小説に登場した舞台
- 岡山桃太郎空港(岡山県岡山市北区)
- 倉敷駅(岡山県倉敷市)
- 勝央サービスエリア(岡山県・勝央町)
- 倉敷市街(岡山県倉敷市)
- 皆生温泉(鳥取県米子市)
- 赤坂町(岡山県赤磐市)
- 尾道駅(広島県尾道市)
- 尾道市街(広島県尾道市)
- 倉敷美観地区(岡山県倉敷市)
- 大原美術館(岡山県倉敷市)
- 英田町(岡山県美作市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 日野明:
倉敷署の副署長。 - 大西:
岡山県警の本部長。 - 三浦:
岡山県警捜査一課の警部。 - 松本:
尾道署の警部。
ニューホープ観光
- 木島:
ニューホープ観光の社長。 - 林原:
ニューホープ観光の常務。 - 小林:
ニューホープ観光の社員。 - 草野:
32歳。ニューホープ観光の添乗員。千葉県鴨川市生まれ。英田町の吉井川で死体となって発見された。 - 長井要一郎:
52歳。ニューホープ観光の運転手。 - 小暮洋子:
25歳。ニューホープ観光のバスガイド。
観光バスの乗客
- 日下良三:
日下刑事の父親。福島県在住。 - 日下良三:
日下刑事の母親。福島県在住。 - 吉岡晴美:
27歳。小川麻美の姉。 - 吉岡宏:
32歳。吉岡晴美の夫。K工業に勤めるサラリーマン。 - 氷山敬介:
新宿雑居ビルにある氷山興行の社長。詐欺の前科がある。行方不明になった後、吉井川に沈められた車の中で死体となって発見された。 - 氷山美矢子:
氷山敬介の妻。行方不明になった後、吉井川に沈められた車の中で死体となって発見された。 - 久保誠:
52歳。東京都調布市在住のルポライター。尾道生まれ。尾道の堤防前で水死体となって発見された。 - 山田英次:
65歳。元K鉄鋼の重役。 - 山田亜木子:
58歳。山田英次の妻。 - 津田洋介:
22歳。S大学の4年生。 - 宮嶋由紀:
20歳。S大学の2年生。
事件関係者
- 小川麻美:
M大学に通う大学4年生。吉岡晴美の妹。 - 大久保文子:
67歳。小川麻美&吉岡晴美の母親。2年前、老人ホーム詐欺に遭い、自殺した。
その他の登場人物
- 中西:
新宿にあるKデパート、国際宝石展の売り場主任。 - 高木:
皆生温泉Aホテルのマネージャー。 - 小山:
ルポライター。久保誠の知り合い。 - 菊池:
27歳。ルポライター。久保誠の知り合い。 - 川本あき子:
草野添乗員の恋人。 - 鈴木:
岡山県総社市の石材店に勤務している。トラック運転手。
印象に残った名言、名表現
(1)1990年代前半の尾道。
JRの駅も、商店街も、どこか、昔なつかし、セピア色の感じだが、船着場も、木像の浮き桟橋で、若者たちよりも、行商人のおばさんたちの姿が、ぴったりするだろう。
(2)倉敷美観地区。
水路の両側に、昔風の建物が、並んでいる。それは、土産物店だったり、旅館だったり、資料館だったりする。水路には、これも、昔風の、石造りの橋がかかっていて、その袂で、観光客が、写真を撮っていた。
感想
本作には3つのポイントがある。
1つ目は、二転三転するストーリー展開である。
ミステリー作品のひとつの楽しみが、”犯人当て”である。「ひょっとして、犯人はこいつではないだろうか?」と、自分でアレコレ想像を逞しくしながら、読み進めていくのである。
本作は、この犯人と思わしき人物が二転三転するのだ。そして、真犯人はまさかの人物…という大どんでん返しがある。ただし、これはミステリー作品を読み慣れた読者ならば、早い段階で薄々気がつくかもしれない。
2つ目は、日下刑事の恋路である。
本作では、日下刑事が本気の恋をする。これまで冷静な刑事と思われてきた、日下刑事の人間模様が描かれた。大好きな女のことを思い、アレヤコレヤと妄想したり葛藤したりする。
本作では、刑事である前に、一人の男としての日下刑事が、全面に出てしまう。”刑事・日下淳一”でなく、”男・日下淳一”になってしまうのだ。
「恋は盲目」ということわざにある通り、いつもの冷静な判断ができなくなってしまう。”男・日下淳一”が捜査の目を曇らせてしまうのだ。
だが、最後に”刑事・日下淳一”が復活する。この、”刑事・日下淳一”が、事件解決の決め手になるのだ。
3つ目は、尾道や倉敷の旅情である。
本作を読むと、尾道や倉敷に行きたくなってくるのだ。旅欲を喚起する、トラベルミステリーの真髄がここにある。
最後に、本作刊行にあたって発表された、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
尾道と倉敷は、同じ山陽路の観光地で、距離も六十キロ余りと近いのだが、実際に行ってみると、かなり違った印象を受ける町だった。倉敷の観光の中心、美観地区は、きれいに整備され、建物も昔風に統一されている。尾道の方は逆に全く作られたところがない。駅前は狭くてごちゃごちゃしているし、船着場の浮桟橋は、頼りなく揺れる。そのどちらも、ミステリイの舞台にふさわしい。
コメント