初版発行日 1999年12月10日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
私の評価
肖像画に秘められた美女の数奇な運命は……。白浜に飛んだ十津川警部に立ちはだかる、難解極まりない連続殺人。
あらすじ
すでに二百億の負債を抱えて倒産したホテルの名を上げて、南紀白浜のホテルに宿泊した男性客が転落死。一週間後、同じ希望を告げた女性客も殺害される。なぜか二人とも偽名で、身元さえわからない。倒産したホテルに、どんな過去と秘密があるのか?
小説の目次
- 白浜-東京
- 後を継ぐ者
- 青岸渡寺
- 戦いの始まり
- 追跡
- 攻防
- 対決と結末
冒頭の文
四月十二日は、朝から、爽やかな風が、南紀白浜に吹いていた。
小説に登場した舞台
- 白浜駅(和歌山県・白浜町)
- 白浜シーサイドホテル(和歌山県・白浜町)
- 南紀白浜空港(和歌山県・白浜町)
- 青岸渡寺(和歌山県・那智勝浦町)
- 紀伊勝浦駅(和歌山県・那智勝浦町)
- 熱海温泉(静岡県熱海市)
- 熱海駅(静岡県熱海市)
- 椿温泉(和歌山県・白浜町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 大木:
白浜警察署の刑事。 - 林:
白浜警察署の刑事。 - 木村:
37歳。和歌山県警の警部。 - 中村:
警視庁捜査四課の警部。十津川警部の同期。
白浜シーサイドホテル関係者
- 花田賢臣:
白浜シーサイドホテルの社長。高梨太郎の親戚。 - 井上君子:
白浜シーサイドホテルの仲居。 - 有村晴子:
40歳。白浜シーサイドホテルの経理の責任者。借金返済のためしばらく姿を消すと書き残して行方不明になる。 - 梨田:
白浜シーサイドホテルの保安部長。
事件関係者
- 上岡健太郎:
三鷹のマンションに在住。上田貢一郎の偽名を使い白浜シーサイドホテルに宿泊中、部屋から転落死した。 - 高梨太郎:
かつて白浜町にあった「シーサイドビュー」ホテルの社長。ホテルの倒産後は行方不明だったが、三段壁で死体となって発見された。 - 高梨文子:
高梨太郎の妻。ホテルの倒産後は行方不明だったが、三段壁で死体となって発見された。 - 高梨ゆう子:
35歳。高梨太郎の娘。「シーサイドビュー」ホテルの若女将をしていた。ホテル倒産後は東京・赤坂のクラブ「カサブランカ」でホステスをしていた。新宿のホテル「グランド・シティ」で服毒死する。 - 伊原:
65歳。「シーサイドビュー」ホテルの元副社長。 - 竹田美奈子:
世田谷区成城のマンションに在住。竹下可奈子の偽名で白浜シーサイドホテルに宿泊。有村晴子の家に行くと言った後、行方不明になる。その後、サファリパークの裏山で焼死体となって発見された。 - 森田浩:
白浜町で経営コンサルタント業を営む。かつて、高梨ゆう子と婚約していた。 - 渡辺志郎:
42歳。S組の幹部。渋谷区本庁のマンションに在住。青岸渡寺で死体となって発見された。 - 有田啓介:
白浜町の私立探偵。 - 井上弘:
「シーサイドビュー」ホテルのVIP客の一人。 - 剣持美佐子:
「シーサイドビュー」ホテルのVIP客の一人。
その他の登場人物
- 花田節子:
68歳。花田賢臣の母親。熱海の高齢者専用マンションに在住。 - 竹田みどり:
竹田美奈子の妹。 - 小泉宏:
58歳。元「シーサイドビュー」ホテルの従業員。フロント係をしていた。 - 藤本:
熱海駅前にあるW不動産の社長。 - 岡部:
T銀行和歌山支店の支店長。
印象に残った名言、名表現
(1)本庁と地方警察の関係。
木村は、三十七歳の若手である。彼は、いつもの事件以上に、緊張していた。その理由の一つは、本庁の警部が、南紀白浜に来ているということだった。
(本庁の人間には、負けたくない)という思いが、木村たちにはあった。
(2)手柄争い。
「嫌でも、犯人逮捕の競争になる。どちらが、先に、事件を解決するかという競争だ。県警本部長も、その点について、神経質になっている。例え一分でも早く、犯人をあげろと、いっていた」
感想
本作は、南紀白浜を舞台にした、連続殺人事件である。
リゾート地でもあり温泉街でもある南紀白浜の、旅情をかき立てる描写が秀逸だった。
事件の方は、なかなか、全体像が見えない。そんなもどかしさがあった。
本作に、こんな一節がある。
十津川は、立ち上って、窓から、海に眼をやった。勝浦港と、島が見える。
だが、十津川の眼は、それを、見ているようで、見ていなかった。彼が、見ようとしていたのは、犯人像だった。
なかなか、犯人像が見えてこない。そもそも、なぜ、立て続けに殺人事件が起こっているのかすら、わからないのである。
物語が中盤まで進むと、かつて南紀白浜にあった「白浜シーサイドビューサイドホテル」と、現在の「白浜シーサイドホテル」の経営陣の間で、何かが起こったということがわかってくる。どうやら、これが事件の根本にあるのだと。
中盤以降は、容疑者が絞られてきて、十津川警部の地道な捜査で、少しずつ犯人を追いつめていく。ここは、いつもの十津川警部シリーズの展開である。
ただし、本作は、後半まで、事件の当事者が登場しない。
刑事が関係者に話を聞いて、事件の絵を描いていくスタイルだから、感情移入できないのが難点であった。当事者ではなく、関係者の話ばかりなので、当事者たちの苦悩や葛藤、危機感というのが伝わってこないのである。
だから、身に迫るような切迫感や緊張感がないのだ。そこが残念だった。
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