初版発行日 2009年3月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
大化の改新、太平洋戦争、そして現在ー三つの時代の、三つの殺人。
あらすじ
編集者の長谷見明は、実家が営む料亭の屋根裏で、天才画家と呼ばれ、沖縄で戦死した祖父の絵を発見。描かれていたのは飛鳥時代に殺された有間皇子であった。奇妙な招集命令を受けた祖父が、その絵に込めた思いとは?明が、雑誌企画「私たちの戦争」の取材をはじめた矢先、殺人事件が発生!十津川警部の捜査が始まる!
小説の目次
- 一枚の絵
- 有間皇子の謎を追う
- 藤白峠の死
- 答を求めて
- 座談会
- 日記
- 日記の続き
- 三人が死んだ
冒頭の文
二日間だけ、余裕が、与えられた。三日目には、古くて、だたっ広い、この家は、解体されてしまう。すでに、土地は、不動産屋の手に渡っている。
小説に登場した舞台
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 橿原神宮前駅(奈良県橿原市)
- 甘樫丘(奈良県・明日香村)
- 飛鳥板蓋宮跡(奈良県・明日香村)
- 亀形石造物(奈良県・明日香村)
- 南紀白浜温泉(和歌山県・白浜町)
- 牟婁の湯(和歌山県・白浜町)
- 有間皇子之碑(和歌山県・白浜町)
- 真白良姫像(和歌山県・白浜町)
- 白良浜(和歌山県・白浜町)
- 白浜駅(和歌山県・白浜町)
- 岩代駅(和歌山県・みなべ町)
- 有間皇子結び松記念碑(和歌山県・みなべ町)
- 紀伊宮原駅(和歌山県有田市)
- 熊野古道(和歌山県有田市)
- 山口王子(和歌山県有田市)
- 蕪坂塔下王子(和歌山県有田市)
- 拝ノ峠(和歌山県海南市)
- 有間皇子神社(和歌山県海南市)
- 熊野古道 藤白坂(和歌山県海南市)
- 海南駅(和歌山県海南市)
- 八尾空港(大阪府八尾市)
- 新大阪駅(大阪府大阪市淀川区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。
事件関係者
- 長谷見明:
渋谷にある小さな出版社の編集者。 - 岡田由美:
出版社の編集者。長谷見明の同僚。 - 渡辺浩:
ノンフィクション作家。四谷にあるホテルSで死体となって発見された。 - 大河内薫:
49歳。渡辺浩を殺害したと自首した男。
その他の登場人物
- 長谷見伸幸:
長谷見明の祖父。昭和20年6月に沖縄戦で戦死する。 - 長谷見裕太郎:
長谷見明の曽祖父。元駐アメリカ領事。昭和17年に帰国後は、鎌倉で「料亭さくら」を営んでいた。 - 畠山:
S大学の教授。 - 白石:
タクシー運転手。 - 鵜原和利:
60歳。S大学の教授。現代史が専門。 - 佐々木弘樹:
59歳。R大学の准教授。第二次世界大戦の研究が専門。 - 荒木田守:
55歳。元陸上自衛隊の暮遼長。日本の戦争の研究者。 - テリー・アオヤマ・クリスチャン・ジュニア:
日系アメリカ人三世。
印象に残った名言、名表現
(1)大津皇子の歌。
百伝ふ 磐余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや雲隠りなむ
(2)大来皇女の歌。
うつそみの 人なる我れや 明日よりは 二上山を弟背と我が見む
磯の上に 生ふる馬酔木を 手折らめど 見すべき君が 在りと言はなくに
(3)有間皇子の歌。
磐代の 浜松が枝を 引き結び ま幸くあらば また帰り見む
家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る
(4)飛鳥時代から続く温泉。
「湯崎七湯にうちて この地、湯崎は、いにしえの頃から牟婁の出湯と呼ばれ、飛鳥時代(一三〇〇年前)よりすでに、大和朝廷に知られ、斉明、天智、持統、文武の諸帝が臨幸の際、沐浴されたと『日本書紀』にも記されています」
感想
本作は、3つの視点からの評価をするべきだと思う。ということで、私なりに3つの視点から評価してみる。
まず、ミステリー小説としての観点から、見たら、駄作である。というか、ほぼ、ミステリー小説ではない。今回の事件の顛末は、次の一行で説明できてしまう。
「四谷のホテルでノンフィクション作家が殺されて、2日後に犯人が自首してきた」
たった、これだけである。
謎も推理もあったものではない。そもそも、十津川警部が登場する必要もないし、ミステリー小説である必要もない。
2つ目は、歴史解説書としては、なかなか、よくできていると思う。
飛鳥時代と太平洋戦争の時代について、詳しく知ることができる。とくに、有間皇子と東條英機については、つっこんだ内容と考察がされているので、この時代に興味がある方は、一つの教養として役に立つかもしれない。
また、飛鳥時代、太平洋戦争時代、そして、現代をつなげるというコンセプトは、面白かった。
3つ目は、トラベル要素としては、秀逸であった。
飛鳥時代ゆかりの地、今回は奈良県・明日香村と和歌山県がメインであるが、この時代の遺跡や観光スポットがたくさん登場した。私はこれらの地に行ったことがないから、読書をしながら、旅行気分があじわえる点は、良かったと思う。
この作品をトータルで見ると、うーん……。
コンセプトは面白かったけど、十津川警部シリーズである必要はまったくないと思う。形だけのミステリー小説にする必要もまったくなかったと思う。
出版社の方から、「十津川警部シリーズで書いてくれ」と言われたから、仕方なく、形だけでも十津川警部シリーズにしたのかな?と勘ぐってしまう。
最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておこう。
私の好きな万葉歌人は、十九歳の若さで反逆の罪を着せられて死んだ有間皇子である。彼は、政争(乙巳の変)と、戦争(白村江の戦い)という時代に殺されたとしか思えない。同じことが、千三百年後の太平洋戦争の時代にもあったのではないか。そんなことを考えて、書き上げたのが、この作品である。
コメント