初版発行日 2013年10月30日
発行出版社 小学館
スタイル 長編
私の評価
宇治・失踪殺人事件と東京・国務大臣の死にどんな接点が!?
あらすじ
同棲中の谷村有子と葛西信は、売れない役者同士。ある日有子は、渋谷で自動車運転免許証を偶然拾った。それは、今をときめく人気女優・新藤美由紀のものだった。免許証に記された新藤美由紀の本名は、おなじ読みで名前が一字違いの「谷村侑子」。
免停中の有子は、その免許証を使って運転し警察に捕まるが、新藤の計らいで、罪に問われることもなく済んだ。さらに、テレビ局の推薦により、有子と葛西の二人に夫婦役で連続テレビドラマ出演依頼が舞い込み、ロケ地の京都宇治に向かった。しかし、宇治川の清流沿いに走る京阪宇治線での撮影初日に、有子とドラマスタッフが失踪し、殺害されてしまったのだ。
誰が、どうして?舞台は変わって、東京では大物政治家白石幸次郎が爆殺される。無関係に思われた宇治と東京で起きた連続殺人を結ぶ糸は?事件は、迷宮のシナリオを演出しようとする犯人の勝利に終わるのか……。十津川の捜査と推理が導き出した犯人とは!?
小説の目次
- 運転免許証
- アリバイについて
- 第三の女
- 再び宇治へ
- 新たな死者
- 終点は宇治駅
冒頭の文
葛西信、三十歳と、谷村有子、二十七歳が同棲生活を始めて、今年で五年になる。
小説に登場した舞台
- 宇治駅(京都府宇治市)
- 京都駅(京都府京都市下京区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 明石:
京都府警捜査一課の警部。 - 井上:
科捜研の爆発物の専門家。
事件関係者
- 葛西信:
30歳。売れない役者。新東京プロダクション所属。大岡山のアパートで谷村有子と同棲している。ドラマ『愛する目撃者』に出演することに。その後、京阪宇治駅で死体となって発見された。 - 谷村有子:
27歳。売れない役者。新東京プロダクション所属。大岡山のアパートで葛西信と同棲している。ドラマ『愛する目撃者』に出演することに。撮影初日に失踪し、宇治橋近くに停めてあった車の中で死体となって発見された。 - 新藤美由紀:
女優。本名は谷村侑子。ドラマ『愛する目撃者』で元々ヒロイン役だった原田恵子が体調不良で降板することになり、ヒロインとして出演することになった。 - 古川亘:
29歳。新藤美由紀のマネージャー。 - 大久保圭太:
30歳。ドラマ『愛する目撃者』のスタッフ。成城学園のマンションに在住。撮影初日に失踪する。その後、宇治橋近くに停めてあった車の中で死体となって発見された。 - 白石幸次郎:
代議士。国務大臣。 - 川辺裕子:
白石幸次郎の妻。かつて葛西信と交際していた。 - 中原明日香:
女優。四谷にある芸能プロ「オフィス遠藤」に所属。
その他の登場人物
- 渡辺:
ドラマ『愛する目撃者』の監督。 - 藤田:
ドラマ『愛する目撃者』の助監督。 - 三島:
ドラマ『愛する目撃者』の助監督。 - 久保田:
ドラマ『愛する目撃者』の助監督。 - 後藤晃:
ドラマ『愛する目撃者』のシナリオライター。 - 小西雄介:
ドラマ『愛する目撃者』のカメラマン。 - 河合:
中央テレビのプロデューサー。ドラマ『愛する目撃者』の担当。 - 若杉亜矢:
女優。ドラマ『愛する目撃者』の撮影で死んだ谷村有子の代役を務める。 - 小川健:
俳優。ドラマ『愛する目撃者』の出演者。 - 加山:
新東京プロダクションのマネージャー。 - 大森:
四ツ谷三丁目にある撮影スタッフ斡旋会社のマネージャー。 - 遠藤五郎:
芸能プロ「オフィス遠藤」の社長。 - 浜野由美子:
中原明日香が雇った家政婦。 - 島村高志:
以前、中原明日香のマネージャーをしていた男。 - 伊地知健一:
俳優。中原明日香と男女関係の噂があった。 - ジョージ伊藤:
歌手。中原明日香と男女関係の噂があった。 - 五十嵐雅美:
27歳。古川亘とかつて交際していた女性。
感想
本作は、京阪宇治線を舞台に、芸能界の中で起こった殺人事件であり、興味深い内容に思えた。
だが、個人的には残念な作品だった。
まず、人の思いとか、憂いを含んだ風景描写があまりにも少ない。
序盤で、5年同棲したカップルの女が殺された。男は5年間も同棲した彼女が殺されたのだから、辛く悲しいはずである。だが、その思いを描いた描写はほとんどなかった。
もう少し悲しんだり苦悩したり、復讐心に燃えるような思いを描いてほしかった。本作は会話と事実の文章が多い。かつてのような哀愁あふれる描写や、登場人物の苦悩を描いた文章をもっと入れてほしかった。
また、捜査会議が多すぎるのも気になった。
警視庁でも京都府警でも捜査会議が何度も開かれていた。現状の整理をしているだけで、話がほとんど進まないのである。その整理を何度も繰り返し読まされるのは、少し苦痛である。
さらに言えば、ボリュームに対して登場人物が多すぎると思う。関係者の一人ひとりに話を聞き、事件のストーリーを作っていくのがメインなので仕方ないかも知れないが、関係者が次から次へと出てきて、しかも最終盤に事件の重要人物が登場する。一人ひとりの人物描写が薄いので、まったく感情移入できないのだ。
この他、終わり方にも不満はあるが、これ以上書くと長くなるので、以上にしておく。
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