初版発行日 1990年4月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
捜査陣を翻弄する知能犯。十津川警部が真犯人を追い詰める!
あらすじ
箱根から新宿に向かう特急ロマンスカーの座席で、青年実業家が死んでいた。不仲の妻と和解するための旅行中だったという。箱根の仙石原高原では妻の扼殺死体が見つかり、夫による無理心中との見方が強まる。しかし、十津川警部は財産狙いの殺人事件ではと疑い、一人の容疑者を浮かびあがらせた!
小説の目次
- ロマンスカーの死
- 箱根の死
- 予感
- 重要参考人
- 逮捕の日
- 判決下る
冒頭の文
うっとうしい梅雨空を引き裂くように、十一両編成、赤と白のツートンカラーの列車が、疾走する。小田急自慢の一〇〇〇〇形、特急「はこね」である。
小説に登場した舞台
- 特急はこね
- 小田急新宿駅(東京都新宿区)
- 三島駅(静岡県三島市)
- 籠坂峠(山梨県・山中湖村)
- 山中湖(山梨県・山中湖村)
- 富士吉田(山梨県富士吉田市)
- 河口湖 富士山パノラマロープウェイ(山梨県・富士河口湖町)
- 河口湖大橋(山梨県・富士河口湖町)
- 西湖(山梨県・富士河口湖町)
- 青木ヶ原樹海(山梨県・富士河口湖町)
- 精進湖(山梨県・富士河口湖町)
- 朝霧高原(静岡県富士宮市)
- 西富士宮駅(静岡県富士宮市)
- 箱根スカイライン(静岡県御殿場市)
- 芦ノ湖(神奈川県・箱根町)
- 仙石原高原(神奈川県・箱根町)
- 小田原警察署(神奈川県小田原市)
- 小田原城址公園(神奈川県小田原市)
- 箱根湯本温泉(神奈川県・箱根町)
- 新宿駅(東京都新宿区)
- 青山葬儀所(東京都港区)
- 君津(千葉県君津市)
- 新宿中央公園(東京都新宿区)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 坂本:
警視庁初動捜査班の警部。 - 中込:
神奈川県警の警部。 - 五十嵐:
千葉県警の警部。
事件関係者
- 高見沢敬:
40歳。都内にスーパーマーケットを3店もつ高見沢商事の社長。小田急ロマンスカーの車内で死体となって発見された。 - 高見沢冴子:
25歳。高見沢敬の妻。新人女優。仙石原で死体となって発見された。 - 広田実:
32歳。高見沢商事の副社長。高見沢敬の甥。阿佐ヶ谷の高級マンションに在住。 - 中井美矢子:
高見沢冴子の妹。大学三年生。 - 小山啓介:
西新宿にある元木法律事務所に勤務する弁護士の卵。中井美矢子の恋人。仙石原で死体となって発見された。 - 春山:
四谷三丁目に事務所を構える弁護士。高見沢商事の顧問弁護士。 - 春山誠:
春山弁護士の息子。弁護士。 - 石渡亘:
N石油西船橋給油所の社員。事件当日、西船橋のガソリンスタンドで広田実を目撃したと証言した男。君津の山林で死体となって発見された。 - 皆川:
高見沢商事の社員。
その他の登場人物
- 山本:
小田急ロマンスカーの車掌。 - 白石かおり:
小田急ロマンスカーのウエイトレス。 - 友田良子:
東京駅のホームで駅弁を売っている従業員。 - 藤井:
高見沢敬の秘書。
印象に残った名言、名表現
■箱根湯本温泉。
ここは、典型的な温泉町である。渓流があり、その川に沿って、ホテルや旅館が並ぶ。土産物店には、温泉まんじゅうやコケシが置いてある。安心して、温泉につかれる町でもある。
感想
今回は、一見、すごく簡単な事件に思えた。
修復不可能なほど夫婦仲が悪化し、妻のわがままな態度に、ほとほと疲れ果てた夫が、妻を殺し、その後自殺した。
「下手な推理小説を読まされたような気がするんだよ。疑問については、一応、全部説明されている。動機も書かれている。そして、遺書だが、面白くない。そんな小説なんだよ」
これで終わったのなら、ミステリー小説にならない。だから、ここからが、本番である。
具体的な内容は、ここで明かすことができないが、大どんでん返し、列車のトリック、アリバイ偽証、アリバイ偽証返し、遺書のトリックなど、ミステリー要素をふんだんに使った作品だった。ミステリー好きなら、あれこれ、推理を働かせながら、楽しめる作品になっているのではないかと思う。
また、人物の印象が、最初と最後で正反対になってしまう、これも、ミステリーならではの仕掛けが容易されている。
あまりの変わりように亀井も驚いたが、
「変ったんじゃなくて、地が出てきたのかも知れないよ」
十津川は冷静に、この人物について、分析をしていた。
最後に、トラベルミステリーとしての、旅情にも溢れている。
「忠実に、高見沢夫妻の足跡を追わなければならないんじゃないかね」
こう話して、小田急ロマンスカーに乗り、富士五湖をめぐり、青木ヶ原樹海に入り、その後、箱根に足を運んだ。
十津川と亀井が、犯人や被害者の足取りをなぞり、同じ場所に行き、同じものを見て、同じものを食べる。不思議と読者も一緒になって、旅をしている気になるのだ。
これが、トラベルミステリーの魅力である。
コメント