初版発行日 2011年10月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
殺害された男を「英雄」と謳った新聞広告と怪文書ーそれは警察への挑戦か?究極の難事件に、十津川警部の推理が冴える!
あらすじ
東京・新宿のホテルで黒沢美佐男という男性が毒殺された。警視庁の十津川警部の調べで、事件の二ヶ月前に「黒沢美佐男を知っていますか?」という広告が新聞に掲載されていたことが判明。その後、警察と新聞社には黒沢にまつわる怪文書が次々と届く。文書の情報に従い、十津川達は箱根に赴くが、犯人像は杳としてつかめない。被害者の正体は?怪文書の目的とは?難航する捜査を打開するため、十津川が仕掛けた究極の罠とは?
小説の目次
- 広告の男
- 情報の集中
- 美談の罠
- 一人の男の正体
- 黒沢一族
- 一人の女
- 最後の配役
冒頭の文
四月九日の夜、都内新宿のTホテルで、宿泊者の一人が、何者かに殺されるという事件が、発生した。
小説に登場した舞台
- 小田急ロマンスカースーパーはこね
- 箱根湯本駅(神奈川県・箱根町)
- 箱根登山鉄道
- 強羅駅(神奈川県・箱根町)
- 青木ヶ原樹海(山梨県・富士河口湖町)
- 近江八幡駅(滋賀県近江八幡市)
- 新町通り(滋賀県近江八幡市)
- 魚屋町通り(滋賀県近江八幡市)
- 和船乗り場(滋賀県近江八幡市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 黒沢美佐男:
50歳。東京都墨田区両国に在住。滋賀県近江八幡市の生まれ。都内のTホテルで何者かに毒をもられ服毒死した。 - 黒沢秀之:
黒沢美佐男の弟。 - 小山敏子:
30歳。黒沢美佐男の恋人でアシスタント。 - 小池清之:
強羅の別荘の持ち主。 - 木下由香:
人材派遣会社OKジャパンの社長。 - 佐々木勇:
代議士。人材派遣会社OKジャパンの顧問。 - 坂井美弥:
17歳。去年の11月、富士の樹海で自殺した。 - 小西信行:
40歳。黒沢美佐男&黒沢ファンドの研究家。 - 本田晶子:
30歳。富士の樹海研究会の会長と名乗る女。 - 篠田孝明:
箱根バイパスの買収交渉をしていると名乗る男。 - 小寺新太郎:
箱根不動産の社長と名乗った男。 - 園田雄介:
若手実業家と名乗った男。 - 佐伯:
弁護士。
その他の登場人物
- 井上:
M新聞社の営業。 - 高木:
M新聞社の記者。 - 五十嵐:
神奈川県警の刑事。 - 片柳:
警視庁捜査二課の警部。十津川警部の同期。 - 牧田:
富士の樹海事務所の責任者。 - 仙道敦志:
書家。 - 仙道芙美子:
仙道敦志の妻。 - 浅野:
箱根観光協会の会長。 - 野中:
元官僚。
印象に残った名言、名表現
(1)犯人からの挑戦状か?それとも、有力情報なのか?
ひょっとすると、黒沢美佐男を殺した犯人が、警察を間違った方向に誘導しようとしているのかも知れない。十津川としては、用心深くならざるを得ないのである。
(2)掴みどころのない事件。
「今回の事件については、捜査をいくら進めても、本当かウソか分からないことばかりです。」
感想
何とも奇妙な事件だ。
都内のホテルで殺された黒沢美佐男。名前も顔もわかっているが、この男の実像がまったく見えてこない。その後も、黒沢美佐男についての情報を、提供してくる文書が、警視庁や新聞社に届くが、それでも、この男の実態が見えてこない。
関係者をあたっても、この人物たちの話が本当なのか、嘘なのか、わからない。十津川警部も次のように、この事件の印象を話している。
「今回の事件については、捜査をいくら進めても、本当かウソか分からないことばかりです。」
これまでの十津川警部なら、地道な聞き込みを繰り返し、パズルのようにロジックを組み立てていくが、今回は、どうにもうまくいかない。
やっとおぼろげながら、輪郭が見えてきたが、犯人がわからないし、尻尾を見せる素振りもない。そこで、起死回生を狙った十津川警部の究極の罠。
この罠は、ある意味、大胆すぎる。大胆すぎて、逆に罠だと気づかないのかもしれない。この華麗な罠で、あぶり出された犯人がノコノコと姿を現し、網にかかる。このカタルシスをぜひ、味わってほしい。
最後に、本作における、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。
人間には、さまざまな面があって、断定が難しい。性格の多様性もあるが、殺人事件になれば、それに利害関係が入るし、関係者は嘘もつく。刑事は、それを見抜くことも必要になる。箱根を舞台にした今回の事件では、十津川は、犯人に対して、罠を仕掛ける必要になってくるのだが、どんな罠を仕掛けたらいいのか。
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