初版発行日 2010年3月10日
発行出版社 集英社
スタイル 長編
遺族の思いを叶える”ポストマン”とは!?善意の人々を巧妙に欺く巨悪に挑む、十津川警部「ワイドビューふじかわ」の推理行。
あらすじ
私立探偵・橋本の叔母みさ子は、京都の資産家。身延山参拝を計画し、旅行会社の早田敬子に付き添われて優雅に出発した。だが帰郷予定日を過ぎても戻らず、不審に思った橋本が旅行会社に問い合わせると、早田という社員はいなかった。さらに、早田と関係ある男が刺殺体で発見され……。男が所持していた16枚の名刺を手がかりに、みさ子の失踪と関連があるとみた十津川警部は身延山へ。遺族の切ない思いを叶える”ポストマン”の存在を知る。
小説の目次
- 行方不明
- 招待状
- 涅槃
- ポストマン
- 訴訟
- 愛と死の儀式
- 最後の愛と祈り
冒頭の文
橋本豊が、私立探偵を始めて、今年で、三年になる。
小説に登場した舞台
- 浜松(静岡県浜松市)
- 舘山寺温泉(静岡県浜松市西区)
- 新富士駅(静岡県富士市)
- 特急ワイドビューふじかわ
- 身延駅(山梨県・身延町)
- 身延山久遠寺(山梨県・身延町)
- 静岡駅(静岡県静岡市葵区)
- 富士駅(静岡県富士市)
- 富士宮駅(静岡県富士宮市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 片山明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
事件関係者
- 橋本豊:
私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で十津川警部の部下。 - 緒方みさ子:
65歳。橋本豊の叔母。京都に住む。亡き夫が残した資産は10億円とも20億円とも言われている。 - 早田敬子:
信美教団の幹部。 - 佐々木秀之:
65歳。横浜元町でブランド製品の輸入販売店「ヨコハマ21」を経営している。元通産省の役人。四谷のホテルの客室で死んでいた。 - 井岡慎二:
35歳。東京スポーツテニスクラブのコーチ。2月に自殺。 - 小田切恵:
28歳。シンガーソングライター。三鷹市内のマンションに在住。8日前に自宅で服毒死。 - 寺田要:
67歳。肺がんの末期患者。 - 五十嵐美由紀:
29歳。白血病患者。 - 井上光雄:
末期がん患者。 - 林明:
40歳。東京で文具店を営んでいる。 - 林美津:
38歳。林明の妻。 - 江本光一郎:
東京のホームレス。 - 野上真一:
保守党の大物代議士。 - 和田武史:
28歳。野上真一の秘書。去年まで第一興信所につとめていた。
その他の登場人物
- 佐々木由美子:
60歳。佐々木秀之の妻。 - 佐々木あかり:
30歳。佐々木秀之の娘。 - 吉田要:
40歳。佐々木秀之の秘書。 - 増田:
神奈川県警捜査一課の刑事。 - 山田圭一郎:
50歳。Y葬儀社の社長。 - 和田恭子:
和田武史の母親。 - 田辺:
第一興信所の所長。 - 久保明:
野上真一の秘書。
印象に残った名言、名表現
(1)早田敬子が語った、なぜ人は死ぬのが怖いか?の理由①。
「さっきから、人はなぜ、死ぬのが、怖いのかということについて、話してきましたけど、理由の一つは、ただ何の理由もなく、死んでいくことにあるのではないかと、私は思っています。」
(2)早田敬子が語った、なぜ人は死ぬのが怖いか?の理由②。
「死ぬことで、自分の人生が、途切れてしまうから、そこで、自分の人生が終わってしまうから、怖いんですよ。あの世に行っても、することがある。素晴らしい、使命感がある。使命感で、生と死が繋がって、死への恐怖は、消えてしまうのです。」
感想
本作は、この世とあの世をつなぐ架け橋となる”ポストマン”を使ったビジネスモデルを展開する、新興宗教に焦点をあてた作品であった。
この新興宗教に関連して殺人事件が発生するが、あくまでもサブストーリーとしての役割であり、メインは新興宗教。そして、その先に「あの世」という深い裏テーマが存在している。
現代の日本人は、無宗教を自認している人が多い。普段の生活で宗教を意識することはない。だが、正月には初詣に行き、葬式ではお坊さんを呼ぶ。これらの行動は宗教行為ではなく、日本人の文化であり、風習なのだと、多くの日本人が認識している。
多くの日本人が無宗教的になって久しいと言われている。無宗教的になったということは、死後の世界について考えなくなった、ということだろう。
そして、今の大多数の日本人の興味は、いかに幸せになるか?そのひと言に尽きると思う。もちろん、それは、現世でいかに幸せになるか、ということである。
しかし、人間は必ず死ぬ。そして、ほとんどの人が、死を恐れている。
では、人はなぜ死を恐れるのか?というのが、本書の裏テーマなのである。
その答えの一つが、上記「印象に残った名言、名表現」で取り上げた2つの言葉にある。
「さっきから、人はなぜ、死ぬのが、怖いのかということについて、話してきましたけど、理由の一つは、ただ何の理由もなく、死んでいくことにあるのではないかと、私は思っています。」
「死ぬことで、自分の人生が、途切れてしまうから、そこで、自分の人生が終わってしまうから、怖いんですよ。あの世に行っても、することがある。素晴らしい、使命感がある。使命感で、生と死が繋がって、死への恐怖は、消えてしまうのです。」
これは、信美教団の幹部、早田敬子が作中で語った言葉であるが、ここに西村京太郎先生の、メッセージが隠されていると思う。
つまり、西村京太郎先生の、死に対する考え方、死後の世界についての考え方、その答えの一端がここにあると、私は考えるのだ。
あの世は確かに存在する。この世とあの世は繋がっている。それを、科学的に証明できないけれど、あの世があると考えたほうが、人は幸せに生き、幸せに死んでいける、という、考え方である。
本作は、西村京太郎先生の死生観が垣間見える作品として、非常に貴重だと思う。
ちなみに、同じような死生観を題材とした作品に、「スーパー隠岐 殺人特急」がある。こちらも必見だ。
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