初版発行日 1986年8月10日
発行出版社 サンケイ出版
スタイル 長編
私の評価
ブルートレイン「はやぶさ」に乗っていた女は、意地悪女か?量産型の女か?悪女か?
この謎が解けたときに、事件の真相がすべて明らかになる。十津川、亀井の名コンビはこの謎をどう解くか?
あらすじ
大原鉄鋼の原口企画部長の元秘書小田あかりが、寝台特急「はやぶさ」のロビー・カーで毒入りの缶ビールを飲まされた。かおりは社内で、エリート原口との不倫の噂があった。この事件で、かおりにビールをすすめたカメラマンの古賀が、容疑者として逮捕された。だがその後、同社の企画課長が毒殺され、原口の専用運転手が射殺と、大原鉄鋼関係者の連続殺人事件が……。
小説の目次
- ロビー・カーの女
- 女の周辺
- 再び事件が
- 拳銃の行方
- 疑惑の女
- 不覚
- パスポート
- 目撃者
- ブティック
- 新しい視点
- 最後の賭け
- 終局への戦い
冒頭の文
昨日まで、残暑に悩まされていたと思っていたのに、今夜、京都駅の6番ホームに立っていると、寒さが、足もとから忍び寄ってくる感じがした。
小説に登場した舞台
- 京都駅(京都府京都市下京区)
- 大阪駅(大阪府大阪市北区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- ブルートレインはやぶさ
- 名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)
- 三ノ宮駅(兵庫県神戸市中央区)
- 銀座(東京都中央区)
- 静岡駅(静岡県静岡市葵区)
- 箱根(神奈川県・箱根町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上本部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
大原鉄鋼
- 原口昭:
48歳。大原鉄鋼の企画部長。 - 小田あかり:
大原鉄鋼の原口昭企画部長の元秘書。原口と不倫の噂があった女性。寝台特急「はやぶさ」で故郷の久留米に帰る途中、列車内で毒を飲まされ、負傷した。 - 加藤:
大原鉄鋼の取締役。 - 大原徹:
大原鉄鋼の会長。 - 大原由紀:
41歳。大原徹の娘。原口昭の妻。妊娠6ヶ月だったが流産した。 - 棚橋五郎:
大原鉄鋼の企画部計画課長。東京駅八重洲口の喫茶店「パピヨン」で毒をもられて死亡する。 - 山下:
50歳。大原鉄鋼の人事部長。 - 横田保子:
大原鉄鋼の社員。来年の春、寿退社する予定。 - 小林修:
42歳。原口昭の専属運転手。銀座のクラブの前で何者かに射殺される。 - 江坂伸夫:
56歳。大原鉄鋼の元経理部長。今年の夏、大原鉄鋼を退職した1週間後に相模湖で投身自殺した。 - 小林:
大原鉄鋼の人事部長の補佐役。元総会屋。 - 花島祐介:
55歳。大原鉄鋼の参議室の社員。元営業第一部長。江坂伸夫の友人だった。 - 折原優子:
大原鉄鋼の元企画部社員。現在は、主婦。 - 金子まさみ:
28歳。大原鉄鋼の元企画部社員。現在は、父親のレストランを手伝っている。
事件関係者
- 古賀:
40歳。カメラマン。中央新聞社会部の田口の高校時代の同級生。小田あかりに毒をもった容疑で逮捕される。 - 及川伸:
31歳。東南アジアの輸入雑貨会社を営む。小田あかりの大学の先輩。中野在住。自宅マンションで死体となって発見された。 - 矢野可奈子:
モデル。及川伸の恋人。及川伸のマンションで死体となって発見された。 - 堀内和夫:
アメリカの日本大使館に勤務。原口昭の大学時代の友人。 - 坂本収:
小田あかりの顧問弁護士。 - 内藤要:
29歳。大原鉄鋼の下請け会社「内藤鉄工」の社長。小田あかりの元恋人。自殺した。 - 内藤加代子:
26歳。内藤要の妹。足が不自由。
その他の登場人物
- 小田文子:
小田あかりの母親。 - 立花:
大阪府警の警部。 - 佐伯:
医師。 - 田口:
中央新聞社会部のデスク。十津川警部の大学時代の同級生。 - 中村:
警視庁初動捜査班の警部。 - 林ゆか:
27歳。新宿歌舞伎町のクラブ「さくら」のママ。及川伸の行きつけ。 - 井村:
S組の幹部。かつて、十津川警部に逮捕されたことがある。 - 浜田:
35歳。四谷で輸入雑貨店を営む。詐欺の前科あり。及川伸の商売仲間。 - 江坂みゆき:
25歳。OL。江坂伸夫の娘。 - 皆川喜夫:
共三企画の社長。原口昭の友人。 - 川原正:
小田あかりと同じマンションに住む大学生。 - 足立:
池袋にある喫茶店の店主。内藤要の知り合い。 - 辻:
静岡県警の警部。
印象に残った名言、名表現
(1)旅とは、出会いである。
小さな旅立ちでも、古賀は、いつも、胸の高鳴りを感じる。
同じ土地へ行くのでも、それは、変わらなかった。旅には、その土地の景色との出会いがあり、人間との出会いがあり、そして、新しい自分自身との出会いもある。
(2)上手な嘘のつき方。
「あるところまでは、正直にいうが、肝心のところでは、嘘をつく。悪党のやり方ですよ」
(3)十津川警部の洞察力。
二つの見方があるということは、多分、どちらも、真実で、どちらも嘘なのだ。そして、それを、操作した人間があるのだと、十津川は、思う。
感想
本作の冒頭は、京都駅6番線ホームからスタートする。午後11時過ぎに、九州行きの寝台特急「はやぶさ」を待つ、一人の男。
この冒頭から、なんだかソワソワする。事件の予兆と旅情が、ひとつに溶け合う雰囲気のある始まりだった。この冒頭で、わたしは、物語の世界にひきこまれてしまった。
さて、本作は、十津川警部にとっても、読者にとっても、実に難解な事件だったと思う。何が本当で、何が嘘なのか?まったくつかめない。実に簡単なようにみえて、蓋をあけると、複雑でこんがらがってしまうのだ。
だが、一人の女の視点からこの事件を眺めたら、実に簡単な事件なのである。
このことについて、本作で、次のように説明するくだりがある。
一見したところ、どんなに複雑に見える事件でも、ある視点をとると、簡単に説明がついてしまうものである。
それが、今度の事件には、まだ、見つからない。一見、単純そうに見えるのに、上手く説明がつかないのだ。
こちらの見方が、間違っているのか、それとも、見方は、正しいのだが、犯人の作った壁に遮られてしまっているのか」
本作のタイトルは、『寝台特急「はやぶさ」の女』である。”女”が鍵を握っている。
最初は、頑固で意地の悪い女に見える。
少し調べると、不倫して自分を捨てた男に復讐を図る、哀れでステレオタイプな女にもみえる。よくよく調べると、したたかで、一筋縄ではいかない、とんでもない悪女にもみえる。
では、何がこの女の真実の姿なのか?
意地悪女か?量産型の女か?悪女か?あるいは別の姿があるのか?
この謎が解けたときに、事件の真相がすべて明らかになる。
ちなみに、物語の進展とともに、女の印象が180℃変わる、心理的なトリックが仕掛けられた作品として、1989年刊行の「十和田南へ 殺意の旅」がある。
こちらも、名作なので、ぜひ読んでもらいたい。
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