初版発行日 1987年1月30日
発行出版社 光文社
スタイル 短編集
私の評価
豊岡、浜坂が舞台!旅情豊かに描く表題作と、伊豆、尾道が舞台の他二編のトラベルミステリー集。
あらすじ
1.日本海からの殺意の風
東京・丸の内、人影もまばらな高層ビル街で、老婆の絞殺死体が発見された。十津川警部は、被害者が山陰からの上京者であることを突き止めて豊岡に向かうが、そこでも若い女性の撲殺事件が発生していた。二つの凶行を結ぶのは寝台特急「出雲」か?
2.殺人へのミニ・トリップ
都内にある小さな出版社に勤める古賀は、恋人の白石めぐみと、伊豆旅行に向かう途中、サロンエクスプレス「踊り子」で、女性の死体を発見する。車掌に知らせた古賀は、事件の容疑者として警察に連行されたが、白石めぐみは忽然と姿を消してしまう。古賀は、「めぐみに嵌められた」と留置所で刑事に訴えたが、その後、白石めぐみが自宅マンションで死体となって発見された。いったい、何が起こったのか?
3.潮風にのせた死の便り
警視庁捜査一課の亀井刑事は、自宅近くで一枚の紙片を拾った。そこには、「私は坂の多い町にいて、もうすぐ殺されるかもしれない」と書かれていた。この紙片を不審に思った亀井刑事は、十津川警部とともに、身元不明の女性死体が発見された尾道へ向かう。尾道で殺された女性は、紙片を書いた手紙の主だと判明。捜査を開始した十津川と亀井は、意外な真実にたどり着く。
小説に登場した舞台
1.日本海からの殺意の風
- 丸の内(東京都千代田区)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 急行「丹後」号
- 豊岡駅(兵庫県豊岡市)
- 浜坂駅(兵庫県・新温泉町)
- 余部鉄橋(兵庫県・香美町)
- 菊水(兵庫県豊岡市)
- 香住駅(兵庫県・香美町)
- 特急「はまかぜ」
- 出雲市駅(島根県出雲市)
- 急行「白兎」
- 成田空港(千葉県成田市)
2.殺人へのミニ・トリップ
- 東京駅(東京都千代田区)
- サロンエクスプレス「踊り子」号
- 湯河原駅(神奈川県・湯河原町)
- 熱海駅(静岡県熱海市)
3.潮風にのせた死の便り
- 尾道駅(広島県尾道市)
- 尾道水道(広島県尾道市)
登場人物
1.日本海からの殺意の風
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 仁科:
兵庫県警の警部。 - 畑:
豊岡警察署の署長。 - 及川:
島根県警の刑事。 - 白石:
54歳。東京駅の駅長。新潟の生まれ。 - 太田:
東京駅八重洲口インフォメーションセンターの職員。 - 池内:
東京駅の公安官。福島の生まれ。 - 今井:
54歳。寝台特急「出雲」の専務車掌。 - 山下:
寝台特急「出雲」の車掌長。 - 北川:
寝台特急「出雲」の専務車掌。 - 早川きよ:
鎧駅近くに住む行商人。豊岡の料亭に魚を卸している。 - 田代ふみ:
香住駅近くのアパートに住む行商人。東京・丸の内のオフィス街で絞殺死体として発見された。 - 田代明夫:
35歳。田代ふみの息子。東京都渋谷区初台のマンションに在住。 - 田代有子:
田代ふみの娘。 - 矢代勇一郎:
元中央商事の社員。田代有子に500万円のお金を貸したけど帰ってこないと言い、母親の田代ふみに返済を求める手紙を書いた男。 - 杉本良子:
40歳。美容師。田代ふみの隣室に住んでいる。 - 浅田:
世田谷区代田にある自動車修理工場の社長。八代勇一郎の知り合い。 - 林美代子:
35歳。銀座のクラブ「シオン」のママ。 - 松野:
東京にある証券会社に勤務。十津川警部の大学時代の同級生。 - 沼田:
丸の内に本社のある中央商事の総務部長。 - 森田祐介:
32歳。三鷹で喫茶店を営む。3年前まで、中央商事の社員だった。 - 君島弘:
中央興行の副社長。中央商事の社長の親戚。 - 三条ユキ:
君島弘の個人秘書。 - 小林:
経済新聞社に勤務。十津川警部の友人。 - 伊東けい子:
モデル。原宿のマンションに在住。矢代勇一郎の恋人。豊岡市内で死体となって発見された。
- 十津川省三:
2.殺人へのミニ・トリップ
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 古賀:
都内にある小さな出版社に勤務。三鷹市のマンションに在住。 - 白石めぐみ:
古賀の恋人。大手町にある大手鉄鋼会社で働くOL。世田谷区成城のマンションに在住。自宅で死体となって発見された。 - 加藤:
サロンエクスプレス「踊り子」の車掌。 - 佐伯:
静岡県警の刑事。 - 木下:
静岡県警の警部。 - 柴田ゆう子:
24歳。三鷹駅近くのブティック「ヤマモト」に勤める。サロンエクスプレス「踊り子」の車内で死体となって発見された。 - 君原ゆう子:
23歳。三鷹駅前にある喫茶店「人魚の家」で働く。デザイナー志望。 - 山本:
柴田ゆう子が働いていたブティック「ヤマモト」の社長。 - 三林弓子:
24歳。ブティック「ヤマモト」の店員。柴田ゆう子と仲が良かった。 - 今井敬:
42歳。今井機械の社長。 - 皆川慎吾:
39歳。新宿にあるカメラ店の社長。 - 矢野俊明:
40歳。内科医。矢野医院の院長。
3.潮風にのせた死の便り
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 佐藤:
尾道警察署の警部。 - 鈴木弓子:
尾道の千光寺近くにある旅館の従業員。 - 白石徹:
28歳。建築家。世田谷区松原のマンションに在住。去年の4月に向島の海辺で溺死体となって発見された。 - 白石貢:
白石徹の兄。大手商事会社に勤務。 - 小早川ゆき:
24歳。白石徹の恋人。N出版に勤務していたが、白石徹の死後、退職した。尾道水道で死体となって浮かんでいた。 - 神林あい子:
小早川ゆきの友人。 - 関根:
建築家。白石徹の大学時代の同級生。 - 谷川:
世田谷署の刑事。 - 片桐みどり:
29歳。クラブのホステス。2年前に甲州街道の上北沢近くで、車にはねられて死亡する。 - 片桐健夫:
片桐みどりの夫。
印象に残った名言、名表現
■美しき、山陰の海岸線。
日本海の激しい波に侵蝕されて、地形が複雑に入りくみ、断崖が続く。いわゆる、侵蝕海岸が長く続く。東から、但馬、香住、浜坂海岸という名前がつけられている。
感想
まず、タイトルについて話しておきたい。
タイトルは、「日本海からの殺意の風」。短編集なので、ここに収録されている3つの短編が、すべて、日本海に関連した作品と思いがちだが、それは違う。
日本海に関連しているのは、表題もになった短編「日本海からの殺意の風」のみである。他の2作品は、伊豆と尾道が舞台である。
だから、本作のタイトルは、3つの短編の共通点でつけたのではなく、あくまでも、表題になった短編をメインとした、作品集なのである。昔のCDシングルのメインとカップリングのような関係といえば、わかる方もいるだろう。
さて、表題になった、「日本海からの殺意の風」は、もともと、長編小説として書いたのではないだろうか?そう思わせるほどのボリュームと、熱量が込められた作品だった。
十津川警部シリーズの短編は、良い意味で、少し気を抜いたタッチで描かれる事が多く、普段は捜査班の一員である部下の刑事にスポットが当てられたり、十津川や亀井のプライベートが描かれたりスルことが多い。それが、また、短編の魅力にもなっている。
だが、「日本海からの殺意の風」は、短編のような気の抜き方が感じられなかった。長編さながらの、熱量で描かれ、サスペンスフルが展開だったと思う。
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