初版発行日 1998年12月20日
発行出版社 双葉社
スタイル 長編
私の評価
多重人格に仕掛けられた恐るべき罠!!十津川警部、「完全犯罪」の前に立ちはだかる!
あらすじ
三河湾・西浦温泉で、東伊豆・河津七滝で、そして長野・下諏訪温泉でも、若い女性が人を殺した後、自殺するという不可解な事件が続発していることが判明。事件の裏に隠されたある符丁に、十津川警部は注目するが果たして立証可能なのか?辞職覚悟で犯人を追いつめる十津川警部の怒りと執念が燃えた!
小説の目次
- 狂気の海
- 狂気の七滝
- 過去を探ぐる
- カウンセリング
- 湖の死
- 洗脳
- 最後の切り札
冒頭の文
警視庁捜査一課の三田村刑事は、三月三日、ひな祭りの夜、一人の女と会った。
小説に登場した舞台
- 三鷹駅(東京都三鷹市)
- 豊橋駅(愛知県豊橋市)
- 蒲郡(愛知県蒲郡市)
- 西浦温泉(愛知県蒲郡市)
- 特急踊り子号
- 修善寺駅(静岡県伊豆市)
- 河津七滝(静岡県・河津町)
- 長野駅(長野県長野市)
- 下諏訪(長野県・諏訪町)
- 軽井沢(長野県・軽井沢町)
- 奥多摩(東京都・奥多摩町)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。恋人の日野由加と西浦温泉に旅行へ出かけた先で、事件に巻き込まれる。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 吉田:
愛知県警の刑事。 - 井上:
愛知県警の刑事。 - 森田:
静岡県警の刑事。 - 岡部:
長野県警の警部。 - 榊原:
長野県警の警部。 - 杉本:
青梅署の刑事。 - 中村:
警視庁初捜査班の警部。
事件関係者
- 日野由加:
28歳。フリーター。三田村刑事の恋人。三田村刑事と西浦温泉に旅行中、板前を刺した後、自ら喉に包丁を刺して死亡した。 - 原田健一:
48歳。西浦温泉にあるホテル「東海苑」の板前。3年前から働いている。かつて京都の料亭で働いていた。日野由加に刺殺される。 - 小島繁:
25歳。K銀行渋谷支店に勤務。武蔵境駅から徒歩20分のマンションに在住。秋野圭子と一緒に川津七滝へ旅行した。 - 秋野圭子:
28歳。六本木のクラブ「楓」のホステス。河津七滝近くの御食事処「河津庵」で丸山京子を刺した後、河津桜の樹の下で喉をナイフで切って自殺した。 - 丸山京子:
河津七滝近くの御食事処「河津庵」の女将。秋野圭子にナイフで刺されて死亡する。 - 金本亜木子:
32歳。下諏訪温泉にある土産物店・竹野屋の女将を鉄棒で殴り殺した。諏訪湖に飛び降りて自殺しようとしたところ逮捕される。 - 長谷川匡:
四谷にある精神病院の医師。日野由加のカウンセリングをしていた。 - 金田政彦:
池袋に事務所を構える私立探偵。原田健一が佐伯京子の調査を依頼した相手。奥多摩湖で水死体となって発見された。 - 岩本剛:
赤坂にあるS病院の精神科医。 - 的場真:
国立大学病院の精神科医。 - 松波文江:
48歳。浦和市内にある運送会社の社長。 - 桧麻里:
29歳。世田谷区の不動産屋で働くOL。十津川警部の妻、直子を襲った後、自殺した。 - 十津川直子:
十津川警部の妻。桧麻里に襲われて怪我を負う。 - 小西徹郎:
65歳。河津温泉のホテル「コニシ」の社長。丸山京子の不倫相手だった。
その他の登場人物
- 鈴木:
鈴木内科の医師。三田村刑事行きつけの内科医。 - 小池淳子:
伊良湖にあるクラブのママ。以前、原田健一と同棲していた。 - 山田宏一:
40歳。金本亜木子と一緒に旅行していた男。 - 鶴田:
下諏訪に事務所をもつ弁護士。金本亜木子の裁判を弁護した。 - 三浦:
軽井沢のホテルの支配人。 - 香取信一郎:
K大学病院の精神科医。精神科の権威。 - 三木昌一郎:
奥多摩にある精神病院「愛の光病院」の院長。長谷川匡の叔父。 - 森本かな子:
31歳。長谷川匡の病院を退職した女性。
印象に残った名言、名表現
(1)気持ちのいい死に方。
「よく、いうでしょう。一番、気持のいい死に方は、雪に埋もれることだと。気持のいい睡魔に襲われて、その中、意識を失い、何の苦痛もなく、死んでいくんです。」
(2)男の通過儀礼。
年上の、それも、いろいろとわけありの女ともなれば、男は、いいようにあしらわれて、女の可愛らしさと、怖さを同時に、学ぶことになる。
(3)河津さくら。
タクシーが、出発した。窓を開けていると、心地よい春の風が、入ってくる。満開の桜が、眼に飛び込んでくる。もう、散り始めている桜もある。
感想
本作は、多重人格をテーマにした、事件である。
多重人格については、1980年代後半の宮崎勤連続殺人事件をきっかけに、世間の耳目を集めるようになり、数多くの議論がなされてきた。2021年現在では、「解離性同一性障害」という病名で診断されている。
そして、殺人事件で精神鑑定が行われるが、この多重人格も考慮に入れたものなのだろう。ということは、現在では、ある程度の”市民権を得た”病気であるといえるかもしれない。
本作は、この多重人格について、掘り下げた作品になっている。
だが、事件の真相は別のところにある。ここにミステリーとしての大どんでん返しがあり、この作品の面白さがある。そして、十津川警部が活躍する土壌があるのだ。
多重人格というテーマに仕掛けられた罠とは何か?
この先は、本書を手にとって確かめてもらいたい。
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