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「雪国」殺人事件/感想レビュー。あらすじ、舞台、登場人物

「雪国」殺人事件小説

初版発行日 1998年2月25日
発行出版社 中央公論社
スタイル 長編

私の評価 4.8

POINT】
<ミス駒子>の危険な香り。彼女に魅かれながらも、思い揺れ動く橋本が遭遇する愛憎劇を描くロマンミステリーの傑作。
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あらすじ

十津川警部の元部下で私立探偵の橋本豊は、ある母親から「息子の透が結婚を望んでいる芸者の身元を調べて欲しい」と依頼を受けた。その芸者菊乃は<ミス駒子>にも選ばれた美人だという。

小説の目次

  1. 「雪組」への出発
  2. 酒と唄と
  3. 口紅
  4. 雪の中の殺人
  5. 母と娘
  6. 雪崩
  7. 終章

冒頭の文

橋本豊は、川端康成の小説『雪国』を持って、東京駅から、上越新幹線「あさひ337号」に、乗った。

小説に登場した舞台

  • 越後湯沢駅(新潟県・湯沢町)
  • 湯沢町 歴史民俗資料館 雪国館(新潟県・湯沢町)
  • 越後湯沢温泉(新潟県・湯沢町)
  • ガーラ湯沢スノーリゾート(新潟県・湯沢町)
  • 十日町(新潟県十日町市)
  • 草津温泉(群馬県・草津町)

登場人物

警察関係者

  • 十津川省三:
    警視庁捜査一課の警部。主人公。
  • 橋本豊:
    私立探偵。元警視庁捜査一課の刑事で、十津川警部の元部下。
  • 川野:
    新潟県警の刑事。

事件関係者

  • 菊乃:
    20歳。越後湯沢の芸者。本名は高村真紀。去年、ミス駒子に選ばれた美人。
  • 長谷川徹:
    21歳。長谷川章子の息子。大学三年生。高村真紀と交際している。
  • 舞香:
    越後湯沢の芸者。菊乃の妹分。
  • 神埼秀男:
    49歳。湯沢の生まれ。元庭師。菊乃の父親。十日町の旅館きよみの裏で死体となって発見された。

その他の登場人物

  • 長谷川章子:
    43歳。長谷川徹の母親。橋本豊に仕事を依頼する。
  • 金魚:
    草津温泉の芸者。
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印象に残った名言、名表現

(1)春から冬へ戻る。

今日は、三月二十日の夜。東京の街には、春のきざしが見えていたのだが、列車が、大宮、高崎と過ぎて行くにつれて、窓の外は、次第に、春から遠ざかり、冬に逆戻りして行く感じがする。

眼をころすと、夜の闇の中に、白いものが光り始め、それが、はっきりと、雪片とわかってくる。

(2)橋本豊、図星。

「あなたは、いつもそうなの。優しいし、心配するけど、それだけ。相手がもたれかかろうとすると、ひょいと、身をかわしてしまうのよ」

感想

十津川警部シリーズ史上、もっともセンチメンタルな作品の一つ。川端康成の「雪国」の世界、湯沢の町を舞台に繰り広げられる、男女の愛憎劇である。

今回の主役は、私立探偵の橋本豊。十津川警部シリーズではお馴染みのキャラクターであり、規則に縛られた警察組織とは違い、自由に動き回れることが、彼の魅力の一つにもなっている。

そんな橋本豊が恋をした。そして、この恋によって、彼は事件に巻き込まれることになっていく。いや、巻き込まれたのではない。”事件の傍にいた”というのが、正確な表現だろう。

橋本豊が恋をした女性が、事件の渦中におり、彼女のために、アレコレ思い悩むのである。だから、本作は、橋本豊の思考の描写が多いのだ。それが、本作を感傷的にしている所以なのかもしれない。

それを象徴する一節があるので紹介しておこう。

コーヒーを前に置いて、ぼんやり、窓の外に広がる湯沢の町を見た。急に、よそよそしい、見知らぬ町に見えた。

この間まで、橋本は、菊乃や、まいかの眼を通して、この湯沢の町を見ていたのだ。いや、もっと正確にいえば、町を見ずに、菊乃を見、まいかを見ていたのだと思う。

だから、菊乃や、まいかと、楽しくやっていた時は、湯沢の町も、明るく、楽しく見えたのだ。歩きにくい雪道も、身を切る寒さも、菊乃やまいかを通してみると、楽しい経験だった。

今、まいかが死に、菊乃の心は、遠く離れてしまった。だから、湯沢の町も、いっきに、よそよそしく見えるようになったのだろう。

誰しも、”思い出の町”が一つや二つ、あるだろう。思い出の中で、美しく輝く情景がある。

なぜ、思い出の町は、輝いているのか?

そこに、人がいるからである。その情景に、”思い出の人”がいるからなのである。思い出の町とは、つまり、思い出の人なのだ。

そんな思いをしみじみと感じさせてくれる本作。いつもの十津川警部シリーズの、ロジカルでスピード感あふれるタッチとは真逆だけれど、人の感情に訴えかけるメッセージがある。

本作は、私のおすすめ作の一つ。

最後に、西村京太郎先生のことばを紹介しておく。

越後湯沢には、訪れる度に、川端康成の「雪国」と、変ってしまったものと、変わらないものとの対比を強く感じてしまう。列車は、新幹線に変り、旧温泉街の周囲には、高層マンションが林立するようになったが、初冬の頃、大清水トンネルを抜けると、景色が一変し、周囲は、白の雪景色、まぎれもなく、これは、「雪国」の世界である。自然が変らなければ、人情も変らないのだろうか。男と女の愛や憎しみは、どうなのだろうか。

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