初版発行日 1993年4月5日
発行出版社 講談社
スタイル 長編
私の評価
怒涛の展開と手に汗握る緊張感!隠蔽された「薬害」犯罪を追いつめる、社会派トラベルミステリーの傑作!
あらすじ
鳥取砂丘に出現した神秘の湖で、アマチュアカメラマン・三谷は、女性の絞殺死体を発見した。その女性の名前を名乗り、三谷に接近してきた謎の女。そして、心中を偽装して殺された代議士の秘書ー。錯綜する事件の真相を追って、十津川警部は、ブルートレイン「出雲」で、山陰に向かった。
小説の目次
- 蒼い砂丘・鳥取
- 村田麻美という女
- 再会
- 同伴者
- 出雲に迷う
- 日御碕
- 告発
冒頭の文
三谷は、台風十三号が、山陰地方を襲った直後、会社を休んで、鳥取砂丘に行くことにした。
小説に登場した舞台
- 鳥取砂丘コナン空港(鳥取県鳥取市)
- 鳥取砂丘(鳥取県鳥取市)
- 鳥取駅(鳥取県鳥取市)
- 特急おき
- 松江駅(島根県松江市)
- 松江城(島根県松江市)
- 宍道湖大橋(島根県松江市)
- 嫁ヶ島(島根県松江市)
- 出雲大社(島根県出雲市)
- ブルートレイン「出雲」号
- 東京駅(東京都千代田区)
- 代田橋駅(東京都世田谷区)
- 歌舞伎町(東京都新宿区)
- 京王多摩川(東京都調布市)
- 城崎温泉駅(兵庫県豊岡市)
- 城崎温泉(兵庫県豊岡市)
- 円山川(兵庫県豊岡市)
- 特急はまかぜ
- 日御碕(島根県出雲市)
- 成田空港(千葉県成田市)
- 出雲縁結び空港(島根県出雲市)
- 玉造温泉(島根県松江市)
- 出雲日御碕灯台(島根県出雲市)
- 特急やくも
- 岡山駅(岡山県岡山市北区)
- 伊丹空港(兵庫県伊丹市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 清水新一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 本多時孝:
警視庁捜査一課長。十津川警部の上司。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 井上:
鳥取県警の刑事。 - 大沢:
鳥取県警の警部。 - 佐々木:
鳥取県警の刑事。 - 岩見:
島根県警の警部。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。
K製薬
- 村田麻美:
1年前までK製薬の吉田販売部長の秘書をしていた。世田谷区代田のマンションに在住。鳥取砂丘で死体となって発見された。 - 吉田正史:
48歳。K製薬の販売部長。 - 青山浩一郎:
62歳。K製薬の労務部長。 - 久保田真一郎:
75歳。K製薬の社長。 - 久保田透:
46歳。久保田真一郎の息子。K製薬の副社長。 - 三林ひろみ:
1年前までK製薬の販売部に勤務していた。品川区荏原のマンションに在住。 - 永井恵介:
50歳。久保田真一郎の甥。衆議院議員。厚生省政務次官。 - 西尾徹:
39歳。永井恵介の秘書。京王多摩川に停めてあった車の中で死体となって発見された。
事件関係者
- 三谷卓:
29歳。サラリーマンでアマチュアカメラマン。鳥取砂丘へ写真を撮りに出かけた際、村田麻美の死体を発見する。 - 佐古みどり:
26歳。日本エアプレーン国際線のCA。京王多摩川に停めてあった車の中で死体となって発見された。 - 戸田清:
29歳。サラリーマン。山陰を旅行中、行方不明になった。その後、島根半島の沖合で水死体となって発見された。 - 桜井あずさ:
世田谷区代田のマンションに在住。三谷卓が宍道湖で出会った女性。去年、母親がK製薬の薬を飲んで亡くなった。 - 香月貢太郎:
香月法律事務所の所長。事務所の中で殺されていた。 - 塩見:
香月貢太郎の助手。 - 寺井浩之:
35歳。元警察官。 - 井原唯之:
30歳。元警察官。
その他の登場人物
- 三谷麻里:
三谷卓の妹。 - 戸田さつき:
戸田清の妹。
印象に残った名言、名表現
(1)鳥取砂丘にできた湖。
赤黄色の砂丘が広がる中に、一ヶ所、深い蒼さを見せて、小さな湖が見えたのだ。長雨が続いたあとで、雨水が、砂丘のくぼみに溜り、それが、晴れた空の蒼さを反射していたのだが、三谷は、まるで、奇蹟でも出現したみたいな気持ちで、しばらくの間、見とれていた。
(2)松江城。
三谷は、日本の城も、好きだった。それも、姫路城のような華麗な城より、熊本城や、この松江城のような、実戦的な、古武士的な城が、好きである。城は、城らしくあってほしいと、思うのだ。
(3)旅は男心をゆさぶる。
「惚れているのかもしれませんね。旅先で出会った謎の女というのは、男の心をゆさぶりますからね。特に、その女が美人なら、なおさらです」
感想
冒頭から読者を世界観にひきこむ優れた筆力、最初から最後まで読者を飽きさせない怒涛の展開、物語全体にただよう緊張感、旅情をかきたてるトラベルミステリー。すべてがバランス良く、完璧に整えられていた。
序盤は、事件の方向性が見えない。
あくまでも、個人的な事件なのか、それとも、製薬会社と政界を巻き込んだ事件なのかということである。見方によって、事件の様相は、まったく違ってしまう。
が、早い段階で、企業と政治家を巻き込んだ贈収賄&不正隠蔽が背景にあることがわかる。いわゆる、社会派ミステリーである。
こうした社会派のミステリーは、業界の背景や企業活動についての描写が多く、リアリティがある代わりに、小難しく緊張感がなくなってしまうという欠点がある。
だが、本作にはそれがない。
確かに薬害問題があるが、メインはミステリーである。しかも、怒涛のミステリーである。
「なんとしてでも、犯人を、捕まえるんだ。県警と協力してだ!」
十津川警部が激しく感情を顕にする場面も多数ある。ものすごい緊張感である。
緊張感が続いたと思いきや、クスッと笑い心和む場面もある↓↓
男が、女を口説いている感じだった。
西本は、だんだん、腹が立ってきた。(狙われているかもしれないのに、呑気な男だ)と、思った。
最初から最後まで完璧。
もちろん、鳥取砂丘や宍道湖、出雲大社など、旅情あふれる描写もしっかりしていた。
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