初版発行日 1975年4月30日
発行出版社 光文社
スタイル 長編
私の評価
第29回日本推理作家協会賞長編部門ノミネート作品!十津川警部シリーズ、初期代表作の一つ!!
あらすじ
インド洋上で原油を満載した巨大タンカーが炎上沈没した。船長以下6名が救出されたが、残り26名の生死は不明のまま、捜索は打ち切られた。だが、その船長が変死を遂げ、十津川警部補のもとに、犯人を名乗る人物からさらなる殺人を予告する挑戦状が届く。警察の必死の捜査を嘲笑うように次々と殺害される元乗組員たち。十津川は狡猾な犯人を挙げられるのか!?
小説の目次
- 燃えるインド洋
- 六人の生存者
- 第一の犠牲者
- 大井川鉄橋
- 非常線
- 日本人町
- 南の島
- 沖縄の攻防
- 雪の中の結末
- 新しい疑惑
- タンカー事故
- 消えたタンカー
- 幻の敵を求めて
- 暗闇の中の男
冒頭の文
十二月五日。午後五時三十分。北インド洋は、まだ日没に遠く、亜熱帯の強い太陽がコバルトブルーの海に降り注いでいる。
小説に登場した舞台
- コロンボ港(スリランカ)
- 羽田空港(東京都大田区)
- チャゴス諸島・サロモン島(イギリス領インド洋地域)
- 千葉駅(千葉県千葉市中央区)
- 野沢温泉(長野県・野沢温泉村)
- 上ノ平高原スキー場(長野県・野沢温泉村)
- ガルボン・ブエノ街(ブラジル・サンパウロ)
- サントス(ブラジル)
- 那覇港(沖縄県那覇市)
- 那覇空港(沖縄県那覇市)
- 守礼門(沖縄県那覇市)
- 恩納村(沖縄県・恩納村)
- 万座毛(沖縄県・恩納村)
- 深大寺(東京都調布市)
- 富津岬(千葉県富津市)
- 東京駅(東京都千代田区)
- 静岡駅(静岡県静岡市葵区)
- 焼津駅(静岡県焼津市)
- ヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部補。主人公。37歳。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。39歳。 - 小川:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 今西:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 田中大輔:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。
警察関係者
- 前島:
長野県警の刑事。 - 米山:
長野県警の刑事。 - 小笠原:
長野県警捜査一課の巡査部長。 - 玉城利夫:
沖縄県警の刑事。
タンカー「第一日本丸」の乗組員で救助された6名
- 宮本健一郎:
54歳。船長。渋谷にあるマンションに在住。渋谷区宇田川町の遊歩道で死体となって発見された。 - 辻芳夫:
43歳。事務長。横浜に在住。上ノ平高原スキー場で何者かに射殺される。 - 竹田良宏:
50歳。船医。日本に帰国後、ブラジルへ移住し、サントスで診療所を開業した。 - 佐藤洋介:
41歳。一等航海士。中野区に在住。東名高速・大井川鉄橋を走行中、何者かに撃たれて死亡する。 - 河野哲夫:
39歳。二等航海士。千葉市汐見丘に在住。日本に帰国後、自宅を売り払って家族と一緒にクルーザー「ユキ1世号」で旅に出た。その後、「ユキ1世号」が爆発し死亡した。 - 小島史郎:
45歳。水夫長。横須賀に在住。万座毛近くの海岸で射殺される。
タンカー「第一日本丸」の乗組員で行方不明者
- 小西正三:
29歳。甲板部。 - 田中利夫:
28歳。甲板部。埼玉にあるクレー射撃場の会員。 - 松本久太:
28歳。甲板部。埼玉にあるクレー射撃場の会員。 - 三原力:
26歳。甲板部。 - 赤松淳一:
25歳。甲板部。元自衛隊員。品川区のマンションに在住。サロモン島に漂着し日本に帰国。 - 渡辺成文:
20歳。甲板部。 - 井手馨:
20歳。甲板部。 - 新井剛一:
19歳。甲板部。 - 白石光一郎:
42歳。機関部。 - 山田静一:
30歳。機関部。 - 深谷弘:
29歳。機関部。 - 田口寿夫:
29歳。機関部。 - 上原昭太郎:
28歳。機関部。 - 大石宏:
25歳。機関部。漁師の免許を持っている。 - 近藤進:
25歳。機関部。 - 水津一男:
25歳。機関部。 - 中原勇一:
25歳。機関部。 - 浜田信次郎:
24歳。機関部。 - 伴英寿:
23歳。機関部。埼玉にあるクレー射撃場の会員。 - 長尾吉彦:
20歳。無線部。 - 柳沼誠一:
20歳。無線部。 - 三村準:
29歳。事務部。 - 浅井武夫:
28歳。事務部。 - 堀元宏:
25歳。事務部。 - 生田高徳:
25歳。事務部。 - 長谷部進:
24歳。事務部。
事件関係者
- 辻絹代:
辻芳夫の妻。上ノ平高原スキー場で何者かに射殺される。 - 河野雪子:
河野哲夫の妻。夫とともにクルーザー「ユキ1世号」で旅に出たが、クルーザー爆発し死亡した。 - 若松和之:
沖縄を旅行中の大学生。名護市近くの海岸で犯人に殺害される。 - 小島晴子:
小島史郎の妻。万座毛近くの海岸で射殺される。 - 小島ユカ:
小島史郎&晴子の娘。 - 望月英夫:
名護市近くの海岸で見つかったカローラの持ち主。アメリカ在住。
その他の登場人物
- 鈴木晋吉:
遠洋トロール漁船「第五白川丸」の船長。 - ピーター・コクラン:
42歳。サロモン島の主。 - 宮本浅子:
48歳。宮本健一郎の妻。 - 吉田孝夫:
25歳。新宿にあるK不動産のセールスマン。世田谷区在住。 - 日高京助:
中央新聞の特派員。サンパウロ在住。 - 鈴木:
サンパウロの日本人クラブの役員。 - 望月俊夫:
望月英夫の弟。 - 森岡:
タンカーの設計技師。 - 内村:
第二日本丸の船長。
印象に残った名言、名表現
■1970年代当時のラーメンの価格。
インフレは、沖縄にも押し寄せていて、ラーメンが二百円以上する。それが一番安かった。
感想
いろんな要素が盛り込まれた作品だった。
第一に、大どんでん返しが素晴らしい。
事件が起こり、当初見えていた前提が、終盤で大逆転するのだ。この当初見えていたストーリーは、十津川警部はもちろん、読者にも当たり前の前提で読み進める。
だが、この大前提がまったく異なっていることがわかる。
ストーリーのどこかが、あるいは、全部が間違っているのだ。
十津川警部も、それに気がついた時、今回の事件の味方を180度変えなければならないことに気がつく。今回の大どんでん返しのスケールが大きかった。
第二に、意外すぎる真犯人である。
当初の前提から大どんでん返しが起こるわけだから、真犯人は別にいるわけである。この真犯人が、意表をついていた。これは、なかなか気付かないだろう。
ここで名前を明らかにすることはできないが、真犯人を知った時、「お前かよッ!!」と叫びたくなるに違いない。
第三に、緊張感に満ち溢れていたことである。
今回は、十津川警部と犯人の視点が交互に入れ替わる。両者で心理戦を繰り広げているのがわかる。相手の裏をかこうとする犯人と、そのさらに裏をかこうとうする真犯人。
手に汗握る展開である。
第四に、ワールドワイドな舞台である。
今回は、東京、千葉、静岡、長野、沖縄が登場したが、さらに、スリランカ、ブラジル、南アフリカ共和国まで登場した。世界中を駆け巡る船にふさわしい舞台だと思う。
最後に一つ。
今回の作品タイトルが、なぜ「消えたタンカー」なのか?すべての真相がわかった後に、このタイトルを見ると、その理由に納得するはずである。
十津川警部シリーズ、初期の代表作ともいえる「消えたタンカー」。すばらしい作品である。
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