初版発行日 1999年4月18日
発行出版社 読売新聞社
スタイル 長編
私の評価
【POINT】
美しき容疑者の、悲しき復讐劇。事件を追う十津川警部の思いは?
美しき容疑者の、悲しき復讐劇。事件を追う十津川警部の思いは?
あらすじ
盲目の天才コテ絵画家が何者かに殺された。事件のカギを握るのは、彼の目の代わりとなっていた画家の恋人とにらんだ警視庁の十津川警部と亀井刑事は、姿を消した彼女の行方を追う。そんな中、第二、第三の殺人が。被害者の顔を覆っていたのは、西伊豆の入江長八が描いた鶴のコテ絵のハンカチだった。画家の無念をはらす彼女の復讐なのか?
小説の目次
- 白い悲しみ
- 下田にて
- 噂の女王
- 須崎興業
- 誘拐
- 一人の女
- 逆襲
- 若い心
- コーポニュー芝浦
- 終章
冒頭の文
伊豆の西海岸を国道136号線が走っている。
小説に登場した舞台
- 伊豆の長八美術館(静岡県・松崎町)
- 井の頭恩賜公園(東京都武蔵野市)
- 下田市街(静岡県下田市)
- 下賀茂温泉(静岡県・南伊豆町)
- 伊古奈(静岡県・南伊豆町)
- 蓮台寺(静岡県下田市)
- 丸子多摩川(東京都大田区)
- 堂ヶ島(静岡県・西伊豆町)
- 修善寺(静岡県伊豆市)
登場人物
警視庁捜査一課
- 十津川省三:
警視庁捜査一課の警部。主人公。 - 亀井定雄:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の相棒。 - 西本明:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 日下淳一:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 北条早苗:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三田村功:
警視庁捜査一課の刑事。十津川警部の部下。 - 三上刑事部長:
刑事部長。十津川警部の上司。
警察関係者
- 三浦:
静岡県警の警部。 - 砂井:
静岡県警の刑事。 - 中村:
警視庁初動捜査班の警部。 - 津川:
港警察署の警官。 - 田口:
中央新聞社会部の記者。十津川警部の大学時代の同級生。(通常は「田島」という名前で登場する) - 十津川直子:
十津川警部の妻。
事件関係者
- 木下利夫:
盲目の天才コテ絵画家。世田谷区太子堂のマンションに在住。井の頭公園で死体となって発見された。 - 足立えり子:
木下利夫の恋人。世田谷区弦巻四丁目のマンションに在住。かつて下賀茂の旅館「伊古奈」の仲居をしていた。 - 工藤:
弁護士。悪徳弁護士として東京弁護士会から除名されている。蓮台寺の別荘で死体となって発見された。 - 須崎悟:
健康食品メーカー「須崎興業」の社長。 - 早川敬一郎:
50歳。公益法人「日本愛友会」の理事長。丸子多摩川で死体となって発見された。 - 小林麻子:
37歳。公益法人「日本愛友会」の理事。成城のマンションに在住。自宅で死体となって発見された。 - 辻進介:
19歳。浪人生。世田谷区内のマンションに在住。 - 磯野徹:
保守党の代議士。元厚生省福祉担当課長。選挙の時、須崎悟が政治資金を出資していた。 - 丹野均:
39歳。厚生省福祉担当課長。
その他の登場人物
- 青木徹:
木下利夫の美術大学時代の同級生。 - 堀井学:
新進画家。調布市内にアトリエを持つ。 - 堀井玲子:
40歳。堀井学の妻。元女優。足立えり子の友人。 - 谷藤君子:
55歳。四ツ谷三丁目の画廊「谷藤」のオーナー。 - 佐山五郎:
60歳。左官。入江長八の研究をしている。下田市内に在住。 - 橋本ユキ:
下賀茂の旅館「伊古奈」の支配人。 - 竹内ユキ:
結婚式場で事務の仕事をしている。かつて工藤弁護士の事務所で働いていた。 - 君原良子:
工藤の別荘の通いの家政婦。 - 中島久美:
須崎悟の秘書。 - 早川保子:
早川敬一郎の妻。 - 岸本:
早川敬一郎の秘書。 - 太田:
堂ヶ島にある公益法人「日本愛友会」の事務長。 - 小林宏:
32歳。小林麻子の弟。宝石のブローカー。詐欺の前科あり。 - 野田和男:
23歳。「須崎興業」の元社員。世田谷区内のマンションに在住。 - 盛田なおみ:
30歳。六本木や銀座のクラブのホステス。四谷のマンションに在住。須崎悟と親しくしていた。 - 北川可奈子:
28歳。六本木や銀座のクラブのホステス。月島のマンションに在住。須崎悟と親しくしていた。 - 小沢みゆき:
32歳。六本木や銀座のクラブのホステス。中野のマンションに在住。須崎悟と親しくしていた。
印象に残った名言、名表現
(1)美談疲れ。
「車椅子の夫に、献身的につくす妻。恋人の眼の代わりをする女。美談ですよ。しかし、美談の当事者になったら、すごい疲れるんじゃないかと思うんです」
(2)都会のサラリーマンの幻想。
今、都会のサラリーマンの中に、途中退職して農業をやる人が増えているというが、十津川もここに来て問題の農家を見ると、仕事を離れて、こんな家にのんびりと住んでみたいと思ってしまう。
亀井にいわせると、農業というのは、そんな、趣味でやれるような甘いものではないということになるのだが。
感想
本作は、恋人の天才画家を殺された女の、壮絶な復讐劇である。その背景には、企業と政治家、役人の汚職があり、社会派的な側面もある構造だった。
こうした復讐劇の裏にある汚職という構造は、十津川警部シリーズの中でよく登場しており、ある意味、十津川警部シリーズの黄金パターンの一つであると思う。
本作で良かったのは、ラストシーン。死刑判決がくだった後、愛する画家の絵をこの目に焼付け、牢屋の中でも愛を貫き、死刑執行までの様子が描かれていたことである。
このラストシーンがあったからこそ、本作は、美しい物語として終われたのだと思う。
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